野村萬斎が世田谷パブリックシアター芸術監督に就任した翌年、2003年からはじまった「現代能楽集」。
11月8日に初日をむかえたシリーズ第八弾は『道玄坂綺譚』。
能の謡曲を近代劇に翻案した三島由紀夫作「近代能楽集」のうちの二編「卒塔婆小町」「熊野(ゆや)」を土台に、マキノノゾミが現代のネットカフェを舞台に描き出した新作現代劇だ。
11月8日(日)の初日を前に、7日行われたゲネプロからレポートをお届けする。
写真提供:世田谷パブリックシアター 撮影:細野晋司
【物語】
舞台は東京、ネットカフェ。映像作家のキーチ(平岡祐太)は、カオル(水田航生)らとネットカフェでバイトしている。
店には異臭を放つ年齢不詳の女コマチ(一路真輝)、家出少女ユヤ(倉科カナ)、長編漫画ばかり読む宗盛(眞島秀和)ら奇妙な常連客がいる。
バイトの最終日、キーチはコマチに話しかけ、コマチは次第にその過去を語り始める。かつて絶世の美女だったということ、彼女を「美しい」と言った男たちは、みな死んでいったことを。
そして2人は別の世界へと滑り込んでいく。
時を前後して、ユヤと宗盛もある「契約」を交わし、虚実の狭間へと足を踏み入れる。
【ゲネプロ】
開演と同時に音と闇に飲み込まれ、何もない舞台に一瞬で東京のネットカフェが生まれる。
水田航生と根岸拓哉演じるネットカフェ店員の軽妙な会話が、いまどきの若者の姿をリアルに映す。そこに常連客が次々現れる。
なんの不思議もない、当たり前の日常のはずだった。
会話の積み重ねで、物語自体はスローテンポで進むのかと思いきや、それは初めにコマチやユヤ、宗盛といった人物を丁寧に見せるためだった。
日常が少し壊れた時、物語は一挙に加速。時間と場所を超えた展開で、観客を軽々と別世界へと引き連れていく。
場面転換がページをめくる如く、新しい世界を見せてくれる。
そこで次々提示される新事実と、その度にさらに絡まっていく糸…。
「これがネタバレか」と思いきや、その先にはさらに重ねて仕掛けられた罠が観客を待っていた。
しかも罠にはまった後に、あらかじめ伏線が張ってあったことに気付かされる。
それが一度ならず、二度、三度・・・。
エンディングに驚かされても、まだその先に何かあるような…いや、自分だけが見落とした大切な何かがあるような・・・。
これは一度の観劇では勿体ない。
二度、三度とかみしめて、自分なりに絡まった糸を解きほぐしてみたくなる作品だ。
一方、俳優たちに目を向ければ、1本の舞台で3本分もの演技を見たような充足感に満たされた。
時間と場所が移る度、思いがけない姿を見せる俳優たち。
終盤には物語のスピードに合わせて、俳優たちも早変わり並みの豹変ぶりを見せる。
平岡祐太、倉科カナ、眞島秀和、水田航生、そして一路真輝のメインキャストのすごさに加え、脇を固める8人の上手さも見逃せない。
心をニュートラルにして、この『綺譚』に浸ってみては如何でしょうか。。。
現代能楽集Ⅷ『道玄坂綺譚』
三島由紀夫作 近代能楽集「卒塔婆小町」「熊野」より
【作・演出】 マキノノゾミ 【企画・監修】 野村萬斎
【スタッフ】
美術:堀尾幸男 照明:原田保 音響:内藤博司 衣裳:三大寺志保美 ヘアメイク:宮内宏明
演出助手:須藤黄英 舞台監督:田中直明 プロダクションマネージャー:勝康隆
技術監督:熊谷明人 制作助手:相見真紀 山田智恵 大木良美 制作:大下玲美
【出演】
平岡祐太 倉科カナ 眞島秀和
水田航生 根岸拓哉 富山えり子
粕谷吉洋 神農直隆 藤尾勘太郎
奥田達士 長江英和 田川可奈美
一路真輝
【チケット料金】 一般S席: 7,000円 A席(3階): 5,000円
高校生以下:一般料金の半額(劇場チケットセンターのみ取扱、要年齢確認) ほか各種割引あり
未就学児童入場不可 ※託児サービスあり ※車椅子スペース取扱あり
【チケット取扱い】
世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 (10~19時)
世田谷パブリックシアターオンラインチケット (PC) http://setagaya-pt.jp/ (携帯) http://setagaya-pt.jp/m/ ほか 各プレイガイドにて取扱いあり
【お問合せ】 世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 http://setagaya-pt.jp/