大好評を得ている青木豪演出のDステシェイクスピアシリーズ。
その第3弾は「シェイクスピア喜劇の中でも一番幸福な物語」とも言われている『お気に召すまま』。
2016年10月14日(金)~30日(日)まで本多劇場にて上演される。(11月には山形・シベールアリーナ、兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホールでも上演)
今回も俳優陣はオールメール。
若くエネルギシュな俳優集団D-BOYSと、松尾貴史志、石田圭祐、鈴木壮麻という芸も技も具えた個性派が勢揃い。
美男美女が織りなす愛と権力をめぐる人間模様が、Dステならではの笑いと情熱で描かれる。
オーランドー役を演じるのは初のシェイクスピア作品に挑む柳下大。今年は舞台『オーファンズ』で絶賛された、進境著しい注目の俳優だ。
Astageは、今回も演出・上演台本を手掛ける青木豪と柳下大の二人に揃って話を聞くことができた。
―『お気に召すまま』を選ばれた時のことを教えて頂けますか?
青木:最初…どうだったかなぁ?(笑)
柳下:相当前ですよね。
青木:そうですね。D-BOYSで今までに『ヴェニスの商人』と『十二夜』と2回やらせて頂きました。初めて『ヴェニスの商人』をやったときから「シェイクスピアの悲劇はタイトルロールとその周辺しか目立たたない」「喜劇の方が群像劇なので出演している人たちがみんな目立つなぁ」と思っていました。それで「D-BOYSでは喜劇をやりたい」との思いを当初から持っていました。
『十二夜』の後、「昨今はいやな事件が多いので、なるべく楽しいものがやりたいなぁ」と思って選んだのが『お気に召すまま』です。『十二夜』も幸せな物語ではありますが、マルヴォーリオが若干痛い目に遭って可哀そうだと思うところもあります。そこで色々と相談した結果、「一点の曇りもない喜劇」ということで『お気に召すまま』を選びました。そしてだいぶ修正を加えて、かなり短くなっています。
―脚本はどのように短くされたのでしょうか?
青木:シェイクスピアは大抵台詞がとても多い。そして書かれてから400年以上経っていますから、当時のギャグで使えないものはどんどん削りました。今回は宮殿にいる時と森に入る時の2面性を出したいので、宮殿と森を行ったり来たりする最初の部分を中心に手を入れました。
柳下:シンプルでより分かりやすいと思いました。登場人物が多いのですが、キャラクターもストーリーも人間関係もすごく分かりやすくなっていると思います。僕はシェイクスピア作品への出演が初めてなんです。
青木:そうかぁ?!
柳下:シェイクスピアをやる日が遂に来たという感じです。シェイクスピアは難しいものだと思っていましたし、観ていると台詞も聞き慣れない言葉ですし、あまり理解できないまま終わることが多かったのです。でも青木豪さんとDステの『ヴェニスの商人』と『十二夜』を観たら「分かりやすいな」「観やすいな」という印象を持ちました。「シェイクスピアをやれるなら、最初は青木さんとDステのシェイクスピアがいいな」と思っていた時にお話を頂いたので、すごく楽しみにしていました。
―青木さんが抱いていた俳優・柳下大さんの印象は?
青木:何本が観させて頂いたのですが、声質が低めなので大事な台詞がしっかり届く人だなぁと思っていました。台詞で伝えなきゃいけない部分、大事なところがしっかり伝わる声をしていらっしゃる、声質が良いというのが一番強い印象です。
―それは今回の配役にも影響を与えましたか?
青木:そうですね、だからこそど真ん中でやってもらおうと。オーランドってかっこいい役だけど、ちょっとマヌケなところもあります。「今は木に名前を彫ってる場合じゃないだろう」みたいな。(笑)拝見した作品ではわりと真面目な役が多かったですが…、あっ「アダムズファミリー」はちょっとマヌケだったけど。本作では「かっこいいけど、ちょっとマヌケ」という二面性が出るといいなぁと思っています。
―柳下さんの青木さんへの印象は?
柳下:作品を観ているだけだと、特別変わった作品ものでないかぎり演出家さんまではよく分からないので、劇作家さんという印象でした。でもDステの『ベヴェニスの商人』『十二夜』を観て、出演者が皆とても楽しそうで「稽古場もいい空気なんだろうなぁ」と思っていました。今回、またDステでやって頂けるのは、とても有難いことだと思っています。
―本作のキャスティングについて教えて下さい。
青木:今回の目玉は「なるべく1人2役にする」ということです。以前に「リチャード三世」を翻案させて頂いた(舞台『鉈切り丸』)時に、アン王女が最初出たきりで、随分出てこなくて、気が付くと死んでいる。(笑) 翻訳家の松岡和子さんとお話した時に「あれはなぜですか?」と聞いたら「その間、他の役をやっている」「香盤表を作るとよく分かるわよ」と教えて頂いて、すごくおもしろいなぁと思いました。
今までのDステでもちょっとしか出ない役では何役もやってもらった人がいましたが、今回改めて香盤表を作ってみたら「あれっ?この役とこの役、もともと同じ役者がやっていたのでは?」といいうのがとてもクリアに分かってきました。だったら宮殿と森で、なるべく1人2役にしてしまおうと。もちろんオーランドやシーリア、ロザリンドは宮殿から森に来て変わっていく人物なので、通して1人が演じますが、他の役は極力1人2役にした方が原作の持つ2面性がよりクリアに出るのではないかと思い、まずは「1人2役」で考えました。
『ヴェニスの商人』の時には酒井敏也さんと青年座の名取幸政さんに、『十二夜』ではミッキー・カーチスさんにお願いしましたが、今回はよりスケールアップしたいと思いました。D-BOYSは若いところが魅力だと思うので、年齢が高い役は以前から一緒にやってみたいと思っていた俳優にお願いしました。松尾貴史さんには僕も渡辺ミキ社長も「一度、お願いしたい」と思っていて、快諾を頂けました。石田圭祐さんも文学座で何本も拝見しており好きな役者さんでした。鈴木壮麻さんの役はかなり重要だと思っている役で「聞いた瞬間に皆がうっとりするような、絶対に歌が上手い人がいい」と考えていたので壮麻さんにお願いしました。本格派仕上げにしたいと思っています。
―柳下さんは様々な公演に出演されていますが、Dステに出演する時の思いとは?
柳下:やる作品ごとに、年々変わって来ています。最初の頃は個人で活動する場があまりなかったですし、集団の力・若い力という意味でも、とにかく「与えられたものをD-BOYSとして必死にやろう」という思いが強かったです。10作品目前後から個人それぞれの仕事が増えてきて、全員で出演できなくなってきた。出演しても「何をやるべきか」という意識が変わってきていると思います。
僕は「Dステの固定のお客様を増やしたい」「『D-BOYSの公演なら行きたい!』と思ってもらえる公演にしたい」と意識が変わってきました。そして「出演中にそれぞれが何をすべきか」という意識も変わってきていると思います。僕は9th 10thの頃に意識が変わり、ただ作品に呼ばれて出るキャストとしてだけでなく、「もっと作品を面白くするにはどうしたらいいのか」「どうしたら1人でも多くの人に伝わるのか」「D-BOYSとDステを認知してもらうにはどうしたらいいのか」を考えるようになりましたし、僕以外のメンバーも意識が変わってきているんじゃないかと思います。
「自分だけ良くなろう」ではなくて「作品が良くなるように」という意識が強くなっていると思います。
―今回の配役ではオーディションもされたそうですが、オーディションの時のお話を聞かせて頂けますか?そして、柳下さんが本作でのD-BOYSの配役を知った時の感想を教えて下さい。
青木:これは先に話を聞きたいな。この配役はどう?
柳下:D-BOYSの中でも「久しく一緒に芝居してないな、久しぶりにやりたいな」と思うメンバーが揃いました。やっぱり加治(将樹)くんの両極端の役は、彼のやり方次第だと思いますが「どうやるんだろう?」とすごく楽しみです。
遠藤(雄弥)さんや山田悠介の女役は、チラシのビジュアルだけでもインパクトありますね。遠藤さんはどうやってやるのかな?女性役は初めてじゃないかなぁ?
それぞれが1人2役ですし、牧田(哲也)さんは「どうにでもなるけど、どうにでもならない」みたいな一番難しい役だと思います。久しぶりに共演するので、楽しみですね。
シーリア役の西井(幸人)とロザリンド役の前山(剛久)の女性役はどうなるのかなぁ…?幸人はちょっと女っぽいところがあるから、すんなりいけると思うのですけれど、前ちゃんがどうやって女形をやるのか…すごく楽しみです。僕も女形をやったことがないので…。
―柳下さんは前山さん演じるロザリンドと恋に落ちるんですよね?
柳下:そうですよね。プラス、前山は女が男装するというのもやる。碓井(将大)が女形をやっていましたが、彼はきゃしゃだから女性が男装しているように見えましたが、前山は体格が良いので、仕草などでどう見せてくれるのかな…とすごく楽しみです。
青木:話はちょっと違いますが、オーランドーはロザリンドの顔がとにかく好きだったんだと思います。ロザリンドが男の恰好をしていても好きなんですから。なので、今回は「とにかく前山の顔が好き!」ということでしょうね。「そこに性差は問わない!」「見つけた瞬間、この顔だ!」と思ったんでしょう。
柳下:前山の顔はタイプではないですが(笑)、僕も顔から入るタイプなので、気持ちとしては共感できます。「本当にこの人だ!」という人がでたら、性格とか無視していっちゃうかもしれない。
青木:性格だけじゃなくて性差もね。(笑) 「男だったんだ」でも乗り越える?(笑)
柳下:いやぁ~。(笑) でも何があるか、分からないんで。(笑)
―オーディションではいかがでしたか?
青木:オーディションしたのはだいぶ前なので、かなり忘れちゃっているのですが(笑)、言われてみると「女形中心に見ていたな…」という気はします。遠藤君が露骨に面白かったです。(笑) 遠藤君と山田君はいきなり面白かったので「絶対にこの役で」と。
前山君は悩んだのですが、とてもまじめに挑戦していたので、僕にとってもDステ4作目で、いろいろな挑戦ができた方が楽しいだろうなぁと。西井君と前山君とは、今回初めて一緒にやるので、初めての分、お互いに緊張するでしょう。加治君、三上君とは3度目、牧田君とは2度目になりますが、お互いに分かった風になるのが一番良くないと思うので、加治君、三上君は今までと違うタイプの役です。
道化役の牧田君は前回も道化的な役でしたが、「彼の出っ歯を強調してひたすら歯で押す」という役だったので、今回はそれを禁じ手にすれば自分なりのものが見つかるのではないかと。(笑) 「全員がスリルをちゃんと楽しめる人たちでいけたらいいなぁ」とキャスティングをしていった…と思います。
―では、最後この作品で柳下さんの課題や目標は?
柳下:個人的には最近は…過去もですが「かっこいい役、ひたすら2枚目」という役はあまりやったことがないのです。とことん2枚目、かっこいい王子様を演じるのはどうしても逃げちゃう。斜に構えるというのか…。堂々とかっこいいのは無意識に照れが出てしまっているのかできない。今回は「とことんかっこよくやる!」というのが自分の課題かなと思っています。その中で人間味のある、愛らしさのある役に作っていけたらいいなぁと。「とことん2枚目・王子様」をやっていけば、おのずと笑いになって、愛着が出て来る役になるのかなと思っています。
青木豪
1967年横須賀生まれ。明治大学文学部文学科演劇専攻卒業。
97年に劇団グリングを旗揚げ、14年の解散まで全ての作品の脚本・演出を手掛ける。13年、文化庁新進芸術家派遣制度により1年間ロンドンへ留学。現在は株式会社キューブ所属。
09年に脚本を手がけたHTBスペシャルドラマ『ミエルヒ』で第47回ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞、NHK FMシアター『リバイバル』でABU賞と数多く受賞、その活動は多岐に渡っている。 最近作は舞台『花より男子 The Musical』
柳下大
1988年6月3日生まれ。神奈川県出身 血液型O型
えんぶチャート3年連続ベスト10ランクイン!
舞台『オーファンズ』(宮田慶子 演出 2016) 、「いつも心に太陽を」(岡村俊一 演出 2015)舞台『真田十勇士』(宮田慶子 演出 2015、2013)など。ドラマでは藤沢周平ドラマシリーズ「果し合い」、NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」など。8月からは舞台『浮標(ぶい)』(長塚圭史 演出)、来年1月にはミュージカル『手紙』(藤田俊太郎 演出)への出演が控える。
Dステ19th『お気に召すまま』
作:W・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出・上演台本:青木豪
出演:柳下大、石田圭祐、三上真史、加治将樹、西井幸人、前山剛久、牧田哲也、
遠藤雄弥、松尾貴史、鈴木壮麻、大久保祥太郎、山田悠介 ※台本の登場順
公演日程:2016年10月14日(金)~30日(日) 本多劇場(全18公演)
2016年11月12日(土)~13日(日) シベールアリーナ(全2公演)
2016年11月19日(土)~20日(日) 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール(全3公演)