フラメンコ界の至宝マリア・パヘスと森山未來を主演に迎え、好評を博した「テ ヅカ TeZukA」「プルートゥ PLUTO」他の振付・演出家として日本でもすでに高名なシディ・ラルビ・シェルカウイが2009年の初演以来、世界各国で上演してきた『DUNAS-ドゥナス-』
この砂丘を意味する『DUNAS-ドゥナス-』が来春、東京Bunkamuraオーチャードホールにて日本初演される。公演に先立ち、主演の二人が来日。12月8日(金)合同取材会にリラックスした様子で現れたマリア・パヘス、シディ・ラルビ・シェルカウイの二人は、作品に対する思いを熱心に語ってくれました。
――お二人の出会いと『DUNAS-ドゥナス-』創作への繋がりは?
シディ・ラルビ・シェルカウイ(以下ラルビ):もともと互いの存在は知っていましたが、モンテカルロバレエ団のために作った『 In Memoriam 』という作品の受賞のため、2004年にモンテカルロで開催されたダンスフォーラムで、マリアにはじめて会いました。私はマリアの映像を繰り返し観て研究していた程、彼女のことが好きでした。人生について、振付やダンスについてのことなど話しをしてみると、二人ともとてもシンプルな人間で、すぐに意気投合しました。
その後も度々偶然出会い、運命的な再会を重ねるうちに二人で何か一緒に創ろうということになったのです。
マリア・パヘス(以下マリア):モンテカルロでの出会いが決定的でした。ラルビの『 In Memoriam 』に共感する部分が沢山ありました。話しをしてみると、とてもオープンで親切な人でした。それが私たちの始まりです。
『DUNAS-ドゥナス-』の創作過程はとても均衡のとれたものでした。互いに尊敬しあい、学びたい、吸収したいという気持ちがあったからです。
大切なことは、この作品を創ろうとしたきっかけです。外からの圧力、そう誰かから勧めではなく、私たち二人が何かを創ろうと決めたことです。
――スペイン語で“砂丘”を意味する『DUNAS-ドゥナス-』はどこから生まれた?また、創作過程についてお聞かせください
マリア:まず、二人のコンセプトに“砂漠”がありました。砂漠というのは大きな空間であり、何もない。何もないけれど、いろいろなものが生まれる可能性があるということ。そして、砂丘というのは常に変容しているイメージがあります。二人ともコンセプトとしての“砂漠”を何かが始まる場所と捉えていました。
『DUNAS-ドゥナス-』の旅は国際的な旅でした。中国、メキシコ、ドイツ、スペイン、ベルギーと時間を見つけてはいろいろな国で会い、創っていったのです。
『DUNAS-ドゥナス-』というタイトルは創作中のマドリッドで食事中に同席していた息子が提案したものです。ラルビと二人で作っている作品なのにスペイン語なのは、気が引ける思いでしたが、ラルビがDUNASは音の響きもよいし、二人とも英語が母国語でないのにDunesにするのもおかしな話じゃないか、とスペイン語での『DUNAS-ドゥナス-』に決まったのです。
ラルビ:私たちは“砂”ということに対して、とても小さくか弱いものだが、それと同時に二人で大きな画を作ることができるという思いがありました。“砂丘”というのは小さな砂からできているということ自体がとてもよいコンセプトでした。私たちは“地球”というものの魅力を感じ、この作品に使われているほとんどすべての要素は自然からとっています。マリアの好きな“木”ということに関しては、木から根、土、そして砂へと連想していきました。その時にスペイン語のArenaアレーナ 砂、砂漠という言葉などもあがりましたが、『DUNAS-ドゥナス-』はより詩のような感じを受ける言葉だと思いました。メランコリックでありながらも、希望があり、癒しも感じる。常に変容しているイメージもあり、そのような様々なイメージが私たちに訴えるものがあったのです。
――まるで動く絵画を思わせる『DUNAS-ドゥナス-』は一方で暴力的な荒々しさを連想させる場面もあるが、象徴しているものは?
ラルビ:暴力というものはときどき生物、すなわち男女の中に存在すると思う。この作品の中でのテーマはアラビアとスペインの関係です。キリスト教が入ってきた時にイスラム文化がアフリカに押しのけられたように、アンダルシア地方ではアラブ人が持ちこんだアジア文化の影響を受け人種の違いを越え融合してきましたが、宗教的な理由から離された歴史があります。もちろん、独立には切り離さなければならないものもありますが、今もアンダルシア地方には昔1つの文化だった名残をみることができます。
この作品では1つだったものが、暴力によって分かれるということをみせたかったのです。
マリア:『DUNAS-ドゥナス-』には多くのメッセージが込められています。人間関係に関するもののすべてが、動き、音楽、ダンスという糸で繋がっています。『DUNAS-ドゥナス-』には対立が描かれていますが、それよりも重点をおいているのが出会いだと思っています。『DUNAS-ドゥナス-』はどんな話しも、どんなこともすべて解決できる場なのです。
ラルビ:1つ付け加えるとすると、繊細さを表現するために、暴力を描いている点です。この作品の中では、暴力をふるう者、服従する者との役割を演じているが、それは次第にやわらかいものとなり、最終的には1つになるというドラマがあるのです。
作品の最初はこのポスターのように男女が左右対称ですが、男女の役割から二人の違いが顕著になっていきます。そして、いろいろな物語が発生していく中で、ゆっくりと互いの違いがなくなり、最終的には一緒に死を迎え、1つになるという、ある意味で奇妙なラブストーリーといえるでしょう。
――『DUNAS-ドゥナス-』の音楽について
マリア:ラルビはいつも自分の作品を創る時に参加しているメンバーを、そして私も自身のカンパニーのミュージシャンに参加してもらいながら、音楽のスタイルも作り方も違う中でアイディアを出し合いながら一緒に作品のオリジナル音楽を創っていきました。
アラブの歌手もフラメンコ歌手もいる。ポーランド人のピアニストやバイオリンやパーカッションなど様々な国の音楽的要素を取り入れています。出会いがあり、対話が生まれ、ひとつのものを創っていく。その結果、何度聴いても飽きることのない本当に美しい音楽が出来上がったと思います。
ラルビ:このアラブの音楽の対話を目撃できたのは、非常に興味深いことでした。
アラビア系の歌の歌い方はフラメンコと同じで大きな声で感情を込めて歌う。マリアは歌い方、音の捉え方、情熱がフラメンコと共通すると、アラブの歌を取り入れたい思いがありました。このように作曲をミックスすることはとても興味深いことでした。アラブ、フラメンコとルーツは同じなので、似ているのは当然のことなのかもしれません。
――マリアさんのフラメンコ、ラルビさんのコンテンポラリーと異なるダンスの融合ですが、相違点については?
ラルビ:はじめてマリアの踊りを観たときの印象は、すごくエレガントで且つ動きが正確であり、フラメンコというジャンルのラベルの前に一人の女性が動いているということだけでした。それは、ピナ・バウシュと共通する部分でした。
人はジャンル分けするときに異なっている点について注目するが、私は逆に似ていることに重点をおきます。私はバックグラウンドがコンテンポラリーなので、ピナ・バウシュのような動きをすることはありますが、マリアの動きの中にもピナ・バウシュと共通する部分が沢山ありました。
マリアはフラメンコがバックグラウンドにあることから、リズムを正確に刻みます。このリズムパターンについては、二人で話しをしながら、自分の知らないことを知ることもでき、とても興味深いものがありました。
二人とも最終的に伝えたいメッセージは同じなので、どのように辿り着くかはさほど重要ではありません。マリアのフラメンコ的な動きと自分のコンテンポラリーの動きを融合させていく面白さもあるのです。
私はコンテンポラリーダンサーで、マリアはフラメンコダンサーと異なるジャンルであり、もちろん異なる動きではあるが、リズム、流れ、ムーブメントが重要であり、共通する部分を見出す方が面白いのではないでしょうか。
マリア:互いのルーツや仕事のやり方は違っていても理解することが大切です。ラルビはコンテンポラリーダンサーですが、彼の振付の創作過程はコンテンポラリーのものとは違いました。創作中もミュージシャンと生音で行い、音楽も振付の一部に組み入れています。フラメンコも同じで常に音楽は生でなければなりません。私たちは違うジャンルですが、このように同じような創作過程があり、二人の共同作業はとてもやりやすかったです。
1つの作品を創るにあたっては、舞台のすべてを考えなければなりません。ラルビは舞台装置、音楽、照明とすべてのものが振付の一部であるという考え方で、それらを組み込む才能があります。私も常にそれを心掛け、努力しています。
そういったことから、二人とも同じ土俵の上でスタイルのことは考えずに、共同作業をすることができたのです。
お互いの顔を見合わせ、時に厳しく、時には満面の笑みを浮かべながら、熱心に答える姿は、舞台上でなくても、十分に二人の強い絆があらわれている。
マリア・パヘスとシディ・ラルビ・シェルカウイの情熱は熱い砂塵を巻き起こしながら、観客の魂をも躍動させるであろう。
待望の日本初演は2018年Bunkamuraオーチャードホールにて。
[東京公演]
2018/3/29(木)19:00開演
2018/3/30(金)14:00開演
2018/3/31(土)14:00開演
[愛知公演]
2018/4/5(木) アートピアホール
お問合せ:中京テレビ事業 052-588-4477(平日10:00~17:00)
[大阪公演]
2018/4/6(金) 豊中市立文化芸術センター 大ホール
お問合せ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)
[主催]
Bunkamura/TBS
[後援]
スペイン大使館、セルバンテス文化センター東京、一般社団法人 日本フラメンコ協会
チケット情報
料金
S・¥12,500 A・¥10,000 B・¥7,000(税込)
※未就学児童のご入場はご遠慮いただいております。
※営利目的でのチケットの購入、並びに転売は固くお断り致します。