初演で高い評価を得て、数々の演劇賞を受賞した舞台『母と暮せば』が、その初演のままの演出・栗山民也、キャスト・富田靖子、松下洸平で、いよいよ7月3日(土)より14日(水)まで新宿・紀伊國屋ホールで上演される。
「ヒロシマ」「オキナワ」「ナガサキ」を、生涯を掛けて書かなければいけない題材としていた劇作家 井上ひさし。その遺志を汲み、志を大切に育て、新たな作品創りを続ける中で生まれた映画「母と暮せば」を舞台化したのが本作だ。
登場するのは、息子を原爆で失った助産婦の母(富田靖子)とその息子(松下洸平)の二人だけ。観客の涙を絞りに絞り、2018年の初演では読売演劇大賞の大賞・最優秀演出家賞をはじめ、数々の演劇賞を受賞した。
その名作が、帰ってくる。
今回、ご登場頂くのは、富田靖子さん。
映画「アイコ十六歳」でデビュー以来、映像作品も舞台にも多数出演。最近ではTBS「逃げるが恥だが役に立つ」やNHK 連続テレビ小説 「スカーレット」、 TBS 「私の家政夫ナギサさん」など、ドラマでも大活躍されています。
舞台『母と暮せば』で白髪交じりの母役を演じていたことが、まったくもって信じられない明るいキュートな笑顔で迎えてくださいました。
―富田さんは映画やドラマだけでなく、舞台にも1990年代2000年代には毎年のように出演されていて、名作舞台の出演もとても多いのですね。
ある時期は「舞台を頑張ってやろう」と思ってやらせて頂いていました。ただ子供が小さかったりもしたので、2011年の『炎の人』を最後に舞台出演についてはひと段落・・・という感じでした。
―その「ひと段落」が2018年の『母と暮らせば』で終わった?
そうですね。もう少し先にしようかと思っていましたが、ちょうど子供たちの学芸会を見ながら「舞台はいいな」と思っていたところに、こまつ座の井上社長からお話を頂いて、すぐにお断りすることができなかったのです。
普通はお仕事をお断りするときは、スケジュールの都合や事情を説明したうえでお断りさせて頂く事もあるのですが、この時はお断りすることができなかった。ということは「やりたいんだな、私」と思ってやることに決めました。
―どこに魅かれたのでしょうか?
その時は台本もなかったですが、井上ひさしさんの舞台『父を暮らせば』『木の上の軍隊』につながる吉永小百合さんと二宮和也さんが出演された映画があって「あの映画を舞台化します」と言われた時に、キラキラして見えて「やってみたい!」という思いでお受けしました。
大変なことだとは思っていましたが、二人芝居の本当の大変さを知らなかった…。よく考えてみれば、長崎の原爆投下のお話で、ましては息子を失っている母という役ですから、大変なことは重々分かっていたはずなのに、やりたいとお受けしていました。もう5年前の話ですね。
―初演にむけて、とてもご苦労されたそうですね。
台本を頂いた時に、「これは人が覚えられる台詞の量ですか?」と、演出の栗山民也さんにはとても聞けず、演出助手の坪井さんにお尋ねしたら、「はい!」と言われて「絶対覚えられますよね?」と確認しました。(笑) もう必死になって覚えました。
―台詞を覚えるのにはどれくらいかかりましたか?
2~3週間はかかりました。
―それで全部覚えてしまわれたのですか?
でもそこから動きが入って、動きながら台詞を言うと方言がとんでしまって。台詞と方言を同時に覚えるのが大変でした。
博多の出身なので、九州の方言は得意な方ですが、やはり長崎の方言は博多とはちょっと違っていて、そのちょっとの違いにかなり苦戦しました。‘
―連続テレビ小説 「スカーレット」では関西弁でしたね。
「スカーレット」も台本が来る度に、方言の先生からテープが送られてきて、それがエンドレスで続いていました。
―私は関西出身ですが、全く違和感なく拝見していました。「関西の方ではなかったのだ」と後から気が付きました。
ありがとうございます。初演の『母と暮らせば』の地方公演中に「スカーレット」の出演が決まって、その後、公演中に松下洸平さんの出演が決まりました。「次も一緒ですね」「お互い、やるね!」なんて言いつつ「がんばろうね」と言ったのを覚えています。
―その初演の『母と暮らせば』は大好評で・・・。
素晴らしい方々に囲まれて、7年ぶりに舞台出演でき、自分にとっては大切な時間になりました。
―大変なこともたくさんあったと思いますが、一番「おもしろい」と思われましたか?
舞台はお客様に届けるものだという固定観念があったのです。だから舞台では映像とは違って台詞もボリュームを上げて言うものだと思っていたのですが、栗山さんから「今回の舞台は、お客様が窓の外からそっと見ているような、お客様が耳をそばだてて聞いて下さるような舞台にしたい。だから舞台をやっているという感じにしなくていい」と言われた時に「そういう考え方あるのか」と目から鱗でした。そして「二人の会話をお客様はちゃんと聞いてくださるから、お客様を信じて」と。
公演をやって、お客様がそれこそ息をひそめるように聞いて下さっているのが感じられて、無理して伝えようとしなくても、お客様はちゃんと感じてくださるのだということがよくわかりました。
―お客様も引き込まれて観てしまうのでしょうね。初演の時に初めて松下洸平さんにお会いになられたのですね?この作品はふたり舞台で、そこも大変だったのでは?
松下さんが大変だったと思います。私の舞台出演が七年ぶりということもあって、稽古場でも「このシーンはどうしようか?」「あのシーンの動きは…」と、私はずっと頭の中で復習していることが多くて、外から見るとぼんやりして、糸の切れた風船のような感じでいたと思います。
例えば、差し入れのおにぎりを一口だけ食べて、ふっとどっかへ行って、そのままおにぎりのことはすっかり忘れてしまったり、家でも冷蔵庫の中に携帯電話が入っていたりしました。(笑)
そんなぼんやりした姿を怪訝に思ったり、頼りなく感じたりする俳優さんもいると思いますが、松下さんはそんな私の姿を見ても、あきれることもなく受け止めてくださって、質問するといつも丁寧に答えてくれて、本当に有難い、心の強い方だと思いました。自慢の息子です!(笑)
―「スカーレット」で松下さんは大人気になられましたね。
TVにたくさん出ていらして、皆さんがうちの息子のことを「素敵!」とおっしゃっていただくのを聞いて「でしょう!」と言えるのは母として嬉しいです。(笑)
今回も私は稽古場ではおもいっきり糸の切れた風船にようにぼんやりしながらたくさん考えたいと思います。セットも変わるようなので、また松下さんと一から作りたい。本当に「松下さんについていく」という気持ちです。
―さて、ちょっと舞台から離れて…。ライフステージが変わりつつも、たくさんの映画やドラマ、舞台に出演されてきた富田さん。今後はどのようにお仕事をしていきたいとお考えでしょうか?
お芝居が大好きなので、できる限り芝居とかかわっていたい。ギリギリまで芝居をしていたいと思っています。でも辞めるべき時は、自ずとわかると思うので、悔いのようにしたい。「あの役もやっておけばよかった」と思うことなく、いろんな役をいっぱいやりたいです。
若い頃はたくさんやりたいとは思わなくて「丁寧にやっていきたい」「作品を選んで」と、今思えば「あなた、何様!」というような考えもあったのですが、今振り返ると、10代の頃は作品を選び過ぎていました。その時にしかできない役、学生の役ももっとたくさんできたのに、あまり学生役をやらずに大人になってしまった。そういう悔いもあります。
もちろん俳優によって作品選びのスタンスは違いますが、私はそういう経験を経て、今はいろんな作品にかかわって、いろんな人と出会って、いろんな刺激をたくさん受けたいと思います。素晴らしい俳優がたくさんいます。若い俳優たちにも素敵な人がたくさんいるので、その方達みんなと仕事ができたら、こんなに幸せなことはないです。
―そういえば、富田さんと共演された方が、次々に幸せになっていかれますね。
本当に母としては嬉しい!有難い!(戸田)恵梨香ちゃんも(新垣)結衣ちゃんも、ちゃんと自分の幸せの選択をしてくれて、我が娘、さすがです!彼女たちが自分で決めた幸せを後ろから拍手しながら喜んでいます。そして「自分もちゃんとしなきゃ」と思っています。
―では、最後に、本作を観に来る方、迷っている方にメッセージをお願いします。
今しかできない、今の自分で精一杯つとめたいと思っています。戦争のことは、言葉や文字にうまくできなくても、舞台の空気から肌に染みわたるもの、感じて頂けるものがこの作品には必ずあると思いますので、観に来て下さったら嬉しいです。
ただ、この時期なので劇場にお越し頂けない方もいらっしゃると思います。でもこの作品はずっとずっと続けていく作品なので、是非、人生のどこかでこの作品に触れて頂けたらと思っています。
<衣装クレジット> ブレスレット et toi/エトワ
こまつ座 第137回公演
舞台『母と暮せば』
原案 井上ひさし
作 畑澤聖悟
演出 栗山民也
出演 富田靖子 松下洸平
2021年7月3日(土)〜 14日(水)紀伊國屋ホール
入場料(全席指定・税込み) 6,600円
『父と暮せば』セット割引 6,000円(こまつ座のみ取扱い)
学生割引 4,400円
上演時間は約1時間30分(休憩なし)。
当日券は開演1時間前に、購入順番を決めるための抽選を行う。
※開演1時間前に4階ホール前にお集まりの方全員に抽選権あり。
8/6(金)~9(月)は配信!
購入はこちら→: https://confetti-web.com/komatsu_strm
当日券 :http://www.komatsuza.co.jp/
劇団Twitter:https://twitter.com/komatsuza