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エン*ゲキ#06 即興音楽舞踏劇『砂の城』池田純矢 インタビュー 「今、自分が一番嘘なく描けるお話が、これでした」「僕はこの作品を通して、お客様一人ひとりと心の奥底で深く繋がりたいと思っています」

俳優・池田純矢が脚本・演出を手がけ出演もするエン*ゲキシリーズの最新作となるエン*ゲキ#06 即興音楽舞踏劇『砂の城』が、2022年 10 月 15 日(土)に新宿・紀伊國屋ホール にて幕を開けた。

池田純矢は、《演劇とは娯楽であるべきだ》の理念の下、誰もが楽しめる王道エンターテインメントに特化した公演をと、2015年から本シリーズを上演してきた。6作目となる今作は、一体どんな作品になるのか?
池田純矢に、最新作の即興音楽舞踏劇『砂の城』について語ってもらった。
(東京公演は10月30 日(日)まで、大阪公演は 11 月 3 日(木・祝)~13 日(日) ABC ホールにて上演)

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―《-即興音楽舞踏劇-》と聞いて、まず「どのくらい即興なのか?」と思いました。いかがでしょうか。
どこまでと言えばいいでしょうか…。メロディもテンポも小節数も変わり、歌詞も変わります。今回は全部で33公演ありますが一度として同じものはないので、33本の作品を作るぐらいの感覚です。

―では、どんなお稽古になっているのですか?メロディや歌詞の核となる部分を作っている…とかでしょうか?
即興なので「メロディを作らずに、どうすればその場で歌えるのか?」です。基本的なコード進行はあります。コードにさえ乗って、どこを歌ってもいい。1オクターブ上にいっても、下に行っても、3度差でハモってもいい。俳優が感じたまま、即興で歌います。
アレンジもピアニストの即興なので、曲の雰囲気は毎回変わります。ある程度のテンポや小節数などは稽古をしていくなかで決まってくるかもしれませんが、符割り(音符に対しての歌詞の付け方)なども決まっていません。歌詞の本質さえ変わっていなければ、歌詞も自由に変えていいと伝えています。
何を稽古しているのかというと、そのためのルールを作り、そのルールに体が馴染むようにという稽古をしています。何がルールを逸脱していて、どういうチョイスをすると行き止まりや崖にぶち当たるのか。どうしたらよくないところへ行ってしまうのかを見つけておくのが稽古です。即興で本番ができるようになるための間違い探しみたいなことを稽古でやっています。

―う~ん、わかったような…すいまぜん、よくわからないです(笑)。とても高度なお稽古のようですね。
そんなに難しいことをしているわけではないですよ。僕がやりたいのはアドリブではなくて即興なので、好き勝手にやっていいのではなく、作品性やキャラクター性、物語性をきちんと表すものでなければいけない。どうすればクオリテイを高レベルで保ったまま、即興で思いのままに良い表現をすることができるか、そのルール作りみたいなところから始めたという感じです。
散漫になったり、クオリテイが低くなったりして「単なるアドリブだな」と思われてはいけない。「どこが即興だったのか、全くわからなかったね」と言われたらいいなと思っています。
実際に観て頂かないと、どんなものなのかはわからないと思います。ほんとに全部が即興だとわかってもらうには、最低二度は公演を観ていただかないと。それでやっと公演ごとに全く違うとわかってもらえると思います。

―《-即興音楽舞踏劇-》はどこから着想したのですか?
着想というよりも、ずっと以前から疑問に思ってきたことです。ミュージカルでは音取りからリズム合わせをして、パートを合わせて、一音も外さないように練習します。でも演劇は生で、目の前で行うことで、本来、全部がアクシデントであるべきだし、その場に生きるというのはそういうことだと思います。そういうお芝居の根本を考えた時に「もっと役者の一番良いところで自然に表現できるといいのに」とずっと思ってきました。もちろん僕もミュージカルが大好きですけど、お芝居と歌がもっとシームレスにつながることができたらいいなと思ってきたのです。
例えば、ミュージカル作品に出演する場合は、再演の場合だとオリジナルキャストのキーに合わせて作られた曲を歌います。海外作品でもそうですが、まずはその曲を歌えること、そのピッチがとれることが、その役を演じる前提です。
それでは俳優を選んでしまうので、もっと誰でもできることようになったらいいのにと思ってきました。しかも、その人が1番輝く音、1番自然な声でお芝居と歌がシームレスに繋がることができたら、すごくいいものになるだろうなと、昔から思ってきました。
だから単純に「なぜ即興で歌わないんだろう」と疑問に思っていました。僕はできると思っていたので、誰かやったことがあったのか、調べてみましたけど、誰もやったことはなかったみたいです。(笑)

―ではお稽古場でも即興で音楽が作られていますか?
もちろんです。毎日違う音楽が流れています。

―そこに演じる人の個性が出てきますか?
はい。お芝居でも同じですが、その人の中にあるものしか生まれてこないと思います。踊りでも、バレエを真剣に習っていた人なら、即興でもバレエの動きが出るでしょうし、ジャズダンスをやった人ならジャズダンスの動きが出るでしょう。自分の中で蓄積されたものでしか即興はできない。その人の良いものが出てきて、それが生きる作品、物語になっているとも思っています。この即興性というのは今回のとても重要なファクターだと思います。

―この新しい作品作りに際してのキャスティング時のポイントと、稽古を始めての思いを教えていただけますか。
当然、歌が上手な人、歌の蓄積がある人の方がいろいろな即興ができると思うので、歌が上手に越したことがないのですが、ミュージカルをやりたいわけではなかったので、歌が上手いことは絶対条件ではありませんでした。
今回、そしてこれまでの作品でも、人の本質的な部分を描きたいという思いと、ただ偽りなく目の前のことに一生懸命にいられる現場がいいなと思ってキャスティングをしました。もちろん僕ひとりで全部のキャスティングをしたわけではなくて、初めましての方とはいろいろやることもありましたが、とてもいい現場になっています

―例えば、なぜ夏川さんをオーディションで選ばれたのでしょうか?
彼女については、今回のキャラクターに合ってるかどうかは関係ありませんでした。キャラクターが違っていれば脚本を書き換えればいい。みんなに何かを演じてほしいと思っていませんし、嘘になる瞬間は必要ないと思っているんです。感情的に本物であり続ける。本質を描いた、本当の意味でのお芝居をする。今回の即興性のあるお芝居では 嫌でもその人の生の部分が出ると思うので、その部分だけでいいと思っていたのです。だから、オーディションで選ぶことには意味はあるんですけれども、この作品にぴったりだ、彼女しかいないんだということではなく、単純に彼女の人間性に興味を持ったし、才能豊かな人であり、まだ無垢な状態で伸び代がすごくあるのだろうなと思いました。
稽古場ではオーディションで選ばれようが、大先輩だろうが、互いに影響し合い、スタッフも演出家の僕も、誰が偉いということもありません。今回はその人の人間性や持ってるものをそのまま舞台にのせたいと思っています。

―では、作家でもあり演出家でもある池田さんは、お稽古の中でも、俳優に個性に合わせて作品の人物も変えたりするのでしょうか?
そう…それは難しい問題ですね。役の心情と役者の心情がどうしても乖離するのであれば、変えればいいと思います。ただ、僕は作家としては意味があるものしか書いてないつもりだし、演出家としては、それに意味を持たせるように演出しています。役者がもしそこが繋がらないと言うのであれば変えるしかないけれど、作家の僕は繋がるルートを見ていますから、そこは役者にも「ちょっと考えてみてね」と言いますね。
今は、それぞれがプロフェッショナルな仕事をして、ものづくりには妥協しない。でも明るく楽しい、すごく健康的ないい現場だと思います。

―今回は、どんな物語にしたいと思われたのですか?
感情の部分を描く時には、ある程度架空の世界観でないと描けない部分があるので、今回は架空の世界の話です。時代は過去かもしれないし、未来かもしれない。時代は本質にはあまり関係がありませんが、描きたいことがぶれると思ったので現代の日本にはしませんでした。
僕は、例えばセリフや歌詞は、ガイドだとしか思っていません。本質を描く時に、心のありようや感情がどういう風に動くのか、こういう台詞を言ってるけど、その裏ではどう思っているのかが大切です。架空の世界だけれども、その設定(設定という言い方はあまり好きではないですが)やキャラクターの人間性を丁寧にしっかりとリアルに作って、逆にお芝居はどれだけ自由に即興でできるか、どれだけ自分のままでいられるかというところを目指しています。
どうしてこういうお物語を書いたかと言うと、今、自分が一番嘘なく描けるお話が、これでした。そもそも物語というのもが、嘘の塊みたいなものではありますし、この物語にも多少の嘘はあります。だからこそ、その中にいる人間には嘘はついてほしくない。自分が知っている感情だけで書きたいですし、役者には本当の感情でいてほしい。役者が本心からそう思えない・そんな感情にはなれないというのであれば違うものにすべきだと、今回は思っています。

―今回、池田さんが演じるのは、アミリア国の太子ゲルギオスですが、脚本を書いている時に「この役を自分でやろう」と考えておられたのですが?
書いてる時は、僕は演出のことも、役者のことも一切考えません。作家と演出家と役者では感じ方も考え方も全部違います。作家のときは作品を追うことだけを考えていますし、演出家のときは「こういう解釈もできるな」と、他人の書いた脚本を読むのに近い感覚です。だから書いた時とは違った心情にキャラクターを演出することもあります。
そして役者になって、改めて役者の気持ちで読むと、作家の時や演出家の自分にはわからなかったことが急に見えてきた…ということもあります。頭の中に3人いるような感じです。

―ご自分がゲルギオス役を演じることに決めた理由はなんだったんですか。
単純に演出する時間をしっかりとりたいので、出番が少ないのを…というのはありますが、役についてはたまたま…ですね。自分が出演しなくてもいいと思いますけれど、僕が出る約束なので出ます。 主役以外だったら、基本的にはどの役でもいいんです。

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―この取材の前に、池田さんがうつ病を経験されていたというニュースを拝見しました。台本は、その前に拝見していたのですが、池田さんの中から湧き出てきた何かが詰め込まれている作品かなと、これまでの作品とは違った方向性も感じました。
それはやはり、自分が経験したこと、自分の苦しみや痛み、そういったものから生まれたものではあります。
ほんとに今書きたいことを書いたら、この作品になったので、あえて違う方向性で書いたということではありません。今一番真実であるもの書いたらこうなりました。
病気のことを隠していたつもりもないですし、今も治っているわけでもありません。でも受け入れるしかないですもんね。

―池田さんにとって演劇を書くことは、どういう意味がありますか?書かずにはおられない?
そんな感じですね。今まで自分が何をしてきたのか、何を得てどうなって、そして今自分は何者であるのか…。作家としては「僕ってなんなんだろう、どういう存在なんだろう」と再確認して、その上で新しく一歩を踏み出すという意味があります。自分の中でこの作品は特別な作品になるんだろうなとは思っています。

―最後に、この作品の見どころやお薦めポイントを教えて頂けるでしょうか。
できれば、お客様にもこの作品への思いを汲んでいただきたいなと思いますけれど、だからといって「観にきてね」とは言えないなと思っています。
僕が今、作ろうとしているのはエゴの塊のような作品で、独善的な作品だと思います。
これまでのように「皆さんに楽しんでいただけるように」とか「意味がわかりづらいから、もっとわかりやすくしよう」とか、例えば「ここはもっと派手に見せてわかりやすくしよう」とか、そういったこれまでの作品作りとは全く違う作り方をしています。
書きたいことを書いて、そして演出したいように演出しています。
芸術とは独善的なものじゃないかとも思います。画家は大衆に迎合して絵を描いているかというと、そうでもないと思いますし、クリエイターは自分中心なところがあるものですよね。だから、この作品は好みが分かれる作品だろうと思っています。「苦手です」「面白くない」という方もいると思いますし、「面白い」と思ってくれる人もいるかもしれない。
もちろん、お客様にお見せすることを前提に作っていますし、僕の中では一番の真実の物語だと思って描いてはいますが、お客様に押し付けるつもりはなくて、単純に僕はこの作品を作ることに意味があると思っています。
僕は美術館に行くのも大好きですが、ゴッホやモネやセザンヌは「僕の絵の此処を見て」とは言わないでしょう。そんな気持ちです。
ただ突き放したくないのは、僕はこの演劇やエンターテイメントや芸術は、人と繋がるための手段だと思っています。自分の心の内にしかないもの、言葉では言い表せないもの、目では見えない、音には聞こえないものを他の人と共有する。それがやっぱり価値だと思うし、生きている証だと思うし、そうして人と繋がることで、やっと自分が自分でいられる、人が人であるのかな…と思うので、僕はこの作品を通して、お客様一人ひとりと心の奥底で深く繋がりたいと思っています。

エン*ゲキ#06 即興音楽舞踏劇『砂の城』
作・演出 池田純矢
出演 中山優馬
岐洲匠 夏川アサ 野島健児 池田純矢 鈴木勝吾
升毅
佐竹真依 高見 昌義 永森祐人 真辺美乃理 森澤碧音
ピアノ演奏:ハラヨシヒロ
【東京公演】
2022 年 10 月 15 日(土)~10 月 30 日(日)
会場:紀伊國屋ホール
【大阪公演】
2022 年 11 月 3 日(木・祝)~11 月 13 日(日)
会場:ABC ホール
チケット料金 8,800 円(全席指定・税込) 公式サイト www.enxgeki.com/
公式 Twitter @enxgeki