世田谷パブリックシアターにて行われる夏のアートフェスティバル「せたがやアートファーム2024」のメインプログラムとして、新作となる音楽劇『空中ブランコのりのキキ』が上演される。
数々の名作を生みだしてきた劇作家・童話作家の別役実の傑作童話から、中学校の教科書にも掲載された童話「空中ブランコのりのキキ」を始め、数本の作品を原作として、劇団「快快」の脚本家・演出家の北川陽子が一本の音楽劇として脚本を再構築。同じく「快快」の俳優・振付家・演出家であり、演劇・ファッション・ダンスをまたにかける鬼才・野上絹代が構成・演出を担当して、新たな音楽劇を生み出す。
本作に出演する松岡広大が、取材に応じてくれた。
松岡広大:ライブ・スペクタクル「NARUTO-ナルト-」(2015年)うずまきナルト 役として初主演。数多くの映画・ドラマ・CMなどに出演するほか、ミュージカル『スリル・ミー』(2021年2023年)、『ねじまき鳥クロニクル』(2020年2023年)など、舞台でも活躍中。
―昨年『スリル・ミー』の取材でお話を伺った際に「自分がどこに興味があるかをはっきりさせて仕事を選ぶことが必要」だとおっしゃっておられました。本作はどこに惹かれましたか?
まず世田谷パブリックシアターという劇場が、僕にとっては大きな理由のひとつでした。15歳頃から足しげく通っている劇場で、この夏で27歳になりますからもう12年も通っています。その世田谷パブリックシアターさんが「この人なら」と僕を見出してくださったのが、非常に嬉しかったです。
それからずっと「別役さんの作品をやりたい」と思っていたので、それも嬉しかったです。2021年に新国立劇場の「こつこつプロジェクト」で別役さんの作品を原作とした舞台『あーぶくたった、にいたった』をアンダー25のチケットで観に行ったら最前列で観ることができたんです。「実際にそういう人たちが生きているのかも」と思える、あまり物も欲しがらず慎ましく生きる小市民が主人公で、暮らしの中でちょっとずつこじれていく人間模様や世界観がすごく素敵でした。終盤の紙吹雪の雪がどさっと降って夫婦が亡くなっていく場面が、深く印象に残っていて「別役実さんってすごい!」と思ったのを覚えています。
そして、別役さんが非常に影響を受けたという戯曲『ゴドーを待ちながら』で知られるサミュエル・ベケットの影響もあります。緊急事態宣言が出た頃にたくさん本を読んでいたのですが、サミュエル・ベケットも読んでいて「何を不条理劇と定義しているのだろう」「やってみたい」という思いがありました。
そして、構成・演出が野上さんだから、咲妃みゆさんが出演されるからというのも理由で、立ってみたい場所、出会いたい人、興味や知りたいことなど、今回は、あらゆるものが奇跡的に重なったので、「やるしかない」と思いました。
-野上さんの演出にも惹かれたんですね。
僕が言うのも僭越ですが、例えば野田秀樹さん作の、野上さんが演出された『カノン』や、劇団「快快-FAIFAI-」の作品から、劇団に属しながら外部公演もされる、新進気鋭の飛ぶ鳥を落とす勢いのある方だと方々からお聞きしていました。野上さんは振付もされるので、どうクリエーションしていかれるのか、俳優にどのようにアプローチされるのか、非常に興味がありました。そして、野上さんのSNSを拝見していて、「子供のように素直な方なんだろうな、会ってみたいな」と思っていました。
-まだお会いになってない?
先程お会いできました!純粋な好奇心を持ったまま大人になられたような感じがして、とても魅力のある方でした。周りの人は自然と朗らかな表情になるんじゃないかなと思いましたし、そんな現場をすでに今日、目にして「なんて素敵な方なんだ!」と思いました。
-原作はお読みになられましたか?
はい。短編集なので「空中ブランコのりのキキ」の他にもいくつかの短編が収録されていて、その中の「黒い郵便船」という短編にもキキとロロが出てくるので、それも参考になりました。「あの土地とこの土地は、もしかしたら近いんじゃないのか」とか、パラレルワールドみたいなものも考えられて、それを北川さんの脚本でも感じました。複雑に絡み合っているけれど複雑さを感じさせないで、うまく繋ぎ合わされていて、僕は久々に台本を読みながら泣いてしまいました。
これから稽古をしていく中で、「こういうふうにも考えられますね」などと、皆さんとたくさん議論を重ねたいと思います。
-台本を拝見したら、最初の2~3ページで「絶対に楽しい作品だ」と感じました。子供たちにも来ていただきたいですね。
僕も『モグラが三千あつまって』(2022)や『メルセデス・アイス MERCEDES ICE』(2023)を観に行きましたが、客席にお子さんがいるって、すごくいいなと思いました。それに童話は、子供に向けた話として定義づけられていますが、僕は大人にも響くと思います。みんな子供時代があるし、童心は大人になっても忘れていないと思うので、大人が読めば読むほどすごく刺さるのかなと。大人はいろいろな理由をつけて考えたり、何かのせいにしたりもしますが、もう1回子供の目で見てみるのは大きな気づきになるのではないかなと思います。
-そして音楽劇なんですね。
そうなんです。舞台『空中ブランコのりのキキ』でもいいはずですが、それだと何が行われるのか一見わからないと思うので、観に来る方へ「会話劇としての要素もあるし、音楽も両方ありますよ」とお知らせする意味もあります。
サーカスもあるけれど、フィジカルなものに寄りすぎないで、バランスをとって音楽劇にしたいんだろうなと思いました。
-松岡さんはピエロを演じられると伺いました。
戦々恐々としています。(笑)ピエロをやると決まった時に、古本で道化の歴史についての本をさがして、今1世紀前の本を読んでいます。道化の歴史や、道化とはどういう存在なのか、なぜ道化が存在しているのかを知らないと、僕はできないんです。やるなら、とことん頭から知ろうと思っています。
-知識から積み上げられるんですね。ピエロになるのは大変そうですね。
今回は、サーカスアーティストや監修の皆さんに全面的にお世話になると思います。やったことのないことに関して、まずは「できない」とちゃんと言い切って、それから何ができるかを探していく方がいいと思うので。だから、『ねじまき鳥クロニクル』で身につけた動きが通用するのか、使う必要があるのかをまず稽古場で判断して、今はいろんなジャンルの踊りのレッスンなどを受けに行きたいと思っています。
-ダンスはお得意ですし、フィジカルもお強いですから。
最近ダンスについての考え方が変わってきました。僕はダンスが上手いのではなくて、何かを表現することが好きなんだなと。ダンスに上手い下手はあるとは思いますが、ダンスのキレとか華があるとかではなく、もっと抽象的なものを具現化させるといったことで頭を使うようになってきました。
-出会った方からの影響ですか?
『ねじまき鳥クロニクル』でのインバル・ピントさんとの出会いで人との向き合い方など色々な考え方が変わりました。
-最後に、本作のポイントだと思われるところを教えてください。
“俳優だからセリフを喋るだけとは限らない”ということが大きなポイントかもしれません。
あらゆるジャンルのスペシャリストがいるカンパニーですから、各々の突出した魅力は発揮しつつ、その仕事を感じながら、お芝居ができたらすごくいいなと思っています。
もしかしたら僕と咲妃さんはアクロバットをやるかもしれないし(?!)、 ゴロゴロ転がっているのかもしれないし、音楽劇ですから、楽器を持って生演奏とかをするかもしれません。(笑)
それぞれ与えられた役はあると思うけど、誰が何をやるんだということよりも、選択肢は無限にあり、楽しみ方も自由だと思うので、それを見ていただきたいです。
そして、幅広い世代の方に楽しんで頂けるお話なので、大人の方はぜひお子さんと、ご近所の方も誘って観に来てほしいです。軽い気持ちで劇場に来てもらえるのが理想で、そのためには子供たちが劇場に入ってきてくれることが、とっても大事な気がしています。劇場から出てきた子供たちがすごく楽しそうだったり、いっぱい泣いていたり、それを見た人たちが「あの場所で何が起きているんだろう」と気になってしまう。そんな劇場にしたいと思っているので、年齢問わず皆さんのお力を貸していただきたいです。
ヘアメイク:堤紗也香
スタイリスト:九(Yolken)
せたがやアートファーム 2024
音楽劇『空中ブランコのりのキキ』
2024年8月6日(火)~ 8月18日(日)世田谷パブリックシアター
ツアー公演 : 8月31日(土)13:30 アクリエひめじ 中ホール
【原作】 別役実 (童話「空中ブランコのりのキキ」「山猫理髪店」「丘の上の人殺しの家」より)
【構成・演出】 野上絹代
【音楽】 オオルタイチ
【脚本】 北川陽子
【サーカス演出監修】 目黒陽介
【出演】 咲妃みゆ 松岡広大/玉置孝匡 永島敬三 田中美希恵/
谷本充弘 馬場亮成 山下麗奈/瀬奈じゅん
サーカスアーティスト : 吉田亜希 サカトモコ 長谷川愛実 吉川健斗 目黒宏次郎
公式HP: https://setagaya-pt.jp/stage/15937/
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