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成河が「巡り会えて燃えた」ミュージカル『ライオン』インタビュー 「マックスのとっても上質で上品で普遍的な、すごく完成度の高い作品を観られるお客さまは最高に幸せ」「“自分が思っていることを正直に好きにやる”と“ちゃんとその責任を取る”。その両方ができる」

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ギターの弾き語りで綴る、ベンジャミン・ショイヤーの自伝的な一人芝居ミュージカル『ライオン』が、2024年12月19日~23日に品川プリンスホテル クラブeXにて、日英の俳優によるWキャストで日本初上演される。
ニューヨーク・ドラマ・デスク・アワード最優秀ソロパフォーマンス賞、ロンドン・オフウエストエンドの最優秀ニューミュージカル賞を受賞し、米国ツアーでの上演回数は500回以上。あたたかく美しい楽曲の数々と、心が締め付けられるような独白が、心に染み入る傑作ミュージカルだ。

来日版の主演を務めるのは、ベンジャミンから作品を受け継いだ後、高度なギターの演奏技術と繊細な表現力で絶賛を浴びつつ、一人で米国ツアーを上演してきた、マックス・アレクサンダー・テイラー。
日本人キャストを決めるにあたっては、ギター演奏する楽曲の難しさから、当初は俳優ではなく、プロのギタリストの出演を検討していたという。

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そんな中、白羽の矢が立ったのが成河。
これまでに幅広い役を演じ、その演技力、身体能力の高さ、日本語のセリフへの思いの深さ、そしてひとつひとつの作品にかける熱量の大きさで、多くの演出家の信頼を勝ち得て、観客を魅了してきた成河が、本作では難度の高いギター演奏が必要な一人芝居に出演。さらに、宮野つくりとタッグを組んで翻訳・訳詞にも初挑戦する。

成河に挑戦するワクワクを聞いた。

あらすじ
ニューヨークに暮らす10歳のベンが家族の話をするところから物語は始まる。
数学者の父親と数学嫌いの彼を、一緒にギターを弾く時間が繋いでいた。
音楽が繋ぐ二人の絆は、やがて大きく変わり出す。ベンの波乱に満ちた人生を、一人の役者と5本のギターが描き出す。

―どんな作品なのでしょうか?
マックス一人で、ロンドンでやり、アメリカツアーもやってきた作品です。元々は、ベンジャミン自身が演劇ではなくて、ミュージシャンとして、シンガーソングライターとして歌っていたのですが、それが自分語りとして、あまりにも辛いところに入ってしまって、できなくなって封印。でも、それではもったいないからと、ロンドンのプロデューサーが「すごい天才がいる。演技もギターソロのテクニックも高い」とマックスを紹介したのです。ベンジャミンは「人にやらせるために作ったものじゃないし、僕の話を他人がやると考えたこともないし、実際できるとも思えない」と、懐疑的だったみたいですけれど、マックスは音大卒で歌も楽器もめちゃくちゃ上手くて、しかもコロナ禍だったのが逆にチャンスになって、ベンジャミンとマックスがべったり一緒に準備できた。そして公演を重ねてきた作品です。

―今回は日本でマックスさんの出演回と、成河さんの出演回、両方あるのですね。
アメリカツアーもやっている中で、まずは「マックスが日本で公演するチャンスを」という話があって、「じゃあ日本側でも誰かやらないか、日本で誰かやれそうな人いる?」となってオーディションのお話をもらいました。
出演するには、ベンジャミンからのOKが必須なので、課題の一曲だけ聴いて演奏してベンジャミンに映像を送りました。でも、その曲だけでもとても難しかったので、マックスの半分ぐらいのスピードでゆっくり弾いて英語で歌ったのです。でも、それでOKをもらえたので引き受けました。ベンジャミンも、ミュージシャンのオーディション映像をさんざん観て、観飽きたときに僕の映像を観て、ただただ一生懸命に弾いているのを喜んでくれたのではないかなぁ。決まった後で初めてマックスの公演映像をもらって観たら、楽曲が20曲くらいあって、もっと難しい曲もあって、びっくりしましたよ。その時点で「やっぱりできません。ごめんなさい」と断る人も多いかもしれませんね。僕も半分ぐらい断りかけました。でも引き受けるときの流れって、大抵そんなものかもしれません。むしろ「やらせてもらえるなんて、ありがとう」というべきですよね。

―曲の難しさというのは?
ミュージシャンだって難しい楽曲ですよ!僕はクラシックギターを中2の時から弾いてきただけ。それもなかったら、引き受けるのは、もちろん不可能ですよ。クラシックギターを弾いていたから、オーディションの映像を送るときには、半分の速さでクラシックっぽくは弾けたということです。それに、この作品には楽譜がないんです。

―楽譜がない?!
ベンジャミンもマックスもミュージシャンだから、楽譜なしでやってこられた。
マックスの公演映像を観たら、本当によく練られた、すばらしい作品でした。でも準備を始めたときに僕の手元にあるのは、マックスの公演映像、そして芝居をつくれる1年間の時間。それだけでした。
僕はそれでも燃えちゃって、燃えちゃって。(笑) 自分にとって極度に高い負荷の何かを探していたので、それに巡り合えたと思いました。基本的にずっと探しているんです。(笑) それに公演までの1年間の猶予が、僕にとっては宝物のような時間でした。

―そして練習してこられた?
マックスの公演映像をずっと観ながら。(笑) 最終的には、ギター演奏指導・監修のyas nakajimaさんにマックスの演奏を耳コピで手書きの楽譜にしてもらって、レッスンもお願いして。隙あれば弾いて、やっとギターが身に馴染んできました。とはいえ、公演にはギター演奏を聴かせるパートがあって、それは弾き語りなんていうレベルじゃない。カントリーな曲あり、すごく早いリズムのカッティングありのソロのギター演奏です。この8か月は、そういう技術の習得のための時間でした。本当に上手くなろうと思ったら、一番やってはいけない練習の仕方だと思うのですが、自分一人だと8時間休憩なしとか、常軌を逸した練習をしちゃう。8か月間、yas先生やいろんな人に相談して、いろんな工夫をやり続けています。生活は全部、放り出して賭けてます。(笑)

―先日はイベントでこの楽曲のギター演奏も披露されたそうですね。
喜んでいただけたようで、それはもう本当に涙が出るほど嬉しくて、「本当に付き合っていただいてありがとうございました」と思っています。そのぐらい大きな収穫がありました。こちらに収穫があった分、お返したいなと思って、2倍3倍喋りましたけど、果たして返せたかどうか、わかりません。(笑)
このイベントでは「人前でやって1回大きくつまずく」というのが目標だったのです。「一人で100点出ている時に、人前でやると30点になる」というのは常識。これはセリフであれ、なんであれ。だから、「そんなに要る?」というぐらいセリフを稽古します。一人で300点ぐらいになった時に、やっと人前で70点ぐらいになれる。ストイックですけど、当たり前のことで、演奏も間違いなくそう。このイベントで間違っていたことがたくさん見つかったので、今それを修正しているところです。

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―さて、今回は翻訳・訳詞も手掛けるそうですね。
はい。「自分が思っていることを正直に好きにやること」と「ちゃんとその責任を取ること」。その両方ができるのが一番健康的だと思うのですけれど、それができることは滅多にない。
今回は、宮野つくりさんという、本当に心強いパートナーを得て、その環境を全部作っていただいて、やらせていただくことができます。
自分の翻訳を他人に渡したら、それで恥かかせるかもしれないから、それはできません。やってみて違ったら、自分が恥をかいて学べばいい。そういう発見もあるだろうから、今から楽しみです。
ただこの作品の物語は、ロンドンやニューヨークが舞台ですので、その先の潤色と翻訳の線引きはしっかりするべきで、完全な潤色をする資格は僕にはないですし、その欲望もそんなにないです。作家欲があるわけじゃなくて、僕はあくまでもアクティング欲です。

―具体的にどういう訳を目指しておられるのですか?
翻訳というのは難しくて、僕も考え続けてきたものがありました。正しい翻訳があるとは、今でも思っていませんけれど、「翻訳とは何なのか」という哲学は日々育っています。日本語は書き言葉と話し言葉が世界で一番離れている言語なので、演劇で書き言葉として文字を翻訳してしまうと原作に背くことになる。
じゃあ何をするのか。それこそ、俳優の出番ですよ。
実は日本語を考えた時には、翻訳に俳優が関わるのは当たり前といいましょうか、現代劇については、そうしないと不可能な言語です。古典芸能やポエティックな朗読劇のようなものだったら別ですけど。
僕は「登場人物どうし関係性を見せたり、ドラマを作っていく時に日本語を選んだりできるのは実は俳優しかいない」 という考えをずっと持っていました。「日本語だからこそ、こうなるんだ」という翻訳をちゃんと作る。「日本語って、そういうふうに喋るよね」「日本語って、そんなふうに歌うよね」という感性を1ミリたりとも裏切りたくないです。

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-さて、作品の物語についてですが、一人の青年の10歳から30歳までのお話ですね。
ありのままの家族の話、お父さんとの話。はっきり言って「似たような話はいっぱいあるだろう」「最後はお涙頂戴なんじゃないの」と思う方もいらっしゃると思います。でも、作為に満ちた家族の感動物語ではないです。
なぜこの作品が、一人芝居で500回以上も公演を重ねたか。それは、ベンジャミンが自分ではできなくなったところにも通じていると思いますが、このショーは、ある意味、最初はベンジャミンが自分の浄化のためにやっていたショーで、自分語りで自分を癒すためにやってきたのだと思います。なので、断言できませんけれど、ベンジャミンが辛くてできなくなっただけではなくて、治療が終わった、やる必要がなくなったのだろうと思います。私小説的なものや、当事者演劇はそういうものだと思います。
それを別の人がやると、作為がないから、ものすごくリアルで、淡々と語られるわけです。物語としての作為がない、いいことを言おうとはしない。10歳から30歳までがぎゅっとつまった話で、誰の心にもちょっと触れそうなところがあったりする。家族の絆みたいなものに苦しめられて苦しみ尽くした一人の青年が、最後に家族とまた共に時間を過ごしていく中で、「まあ、やってみるわ」という話です。「トライング」というのが好きですね。

―では最後に、楽しみにしている方へ、まだ迷っている方へ、メッセージをお願いします。
マックスはいろいろなジャンルの音楽をやってきて、歌もギターもめちゃくちゃ上手くて、演劇としても日本では見られないようなスタイルで、単なる“お涙頂戴”には絶対になりません。とっても上質で上品で普遍的な、すごく完成度の高い作品になっています。笑いもふんだんにあって、イギリス人なのでユーモアにリアルな皮肉っぽさがある。それをきちんと翻訳できるように、僕はジタバタします。
100パーセント保証できるのは、 マックスの上演に関しては本当にすごいものが見られます。
ひとりの人生の思考をずっと一緒にみんなで辿れるような空間で、すごく身近なものに感じられるものになると思います。とても現代的なテーマですし、マックスの英語もとっても聞き取りやすいですし、とにかくマックスの公演は観てください。マックスの公演を観て嫌いだったらそこでやめればいいし、マックスの公演を観て好きになれたら、面白かったら、僕のも見てください。それでいいです。(笑)

ヘアメイク:矢崎麻衣
協力: Artist Lounge

ミュージカル『ライオン』
■出演ベン役(Wキャスト):来日版(日本語字幕付)=マックス・アレクサンダー・テイラー 日本版=成河
■脚本・作曲・作詞:ベンジャミン・ショイヤー
■共同演出:アレックス・ステンハウス、ショーン・ダニエルズ
■翻訳・訳詞:宮野つくり 成河
■公演期間/会場:2024年12月19日(木)‐12月23日(月)品川プリンスホテル クラブeX
■お問合せ:梅田芸術劇場(10:00~18:00)〔東京〕0570-077-039
■企画・制作・主催:梅田芸術劇場
■公演HP:https://www.umegei.com/thelion2024/
■公演X(旧Twitter):@thelion_2024