「太鼓とともに世界をめぐり、多様な文化や生き方が響きあう『ひとつの地球』を目指す」を活動理念に、日本のみならず世界各地で5600回以上の公演を行ってきた太鼓芸能集団「鼓童」。
2015年11月から、芸術監督・坂東玉三郎演出の新作「混沌」の上演を控えて、今回、インタビューに応えてくれたのは、鼓童の副代表であり、演者としても創作者としても活躍している船橋裕一郎と、入団2年目ながら作曲も手がける漆久保晃佑のお二人。
船橋裕一郎 漆久保晃佑
太鼓芸能を現代的なエンターティメントに昇華させた「鼓童」というグループについて、そして太鼓という一見シンプルに思える楽器について、ぱっと見ただけでは分からない、深く楽しいエピソードをお話し頂いた。
―鼓童の本拠地は佐渡で、メンバーは全国から集まっているそうですね?
船橋:僕らはほとんどが鼓童の舞台を見て集まって来たメンバーです。佐渡島に鼓童の研修所があり、2年間研修生としてどっぷり佐渡の素晴らしさを体感し、鼓童が佐渡島に拠点を置く必然性を実感することになります。佐渡はまず自然が豊かです。そして北前船の寄港地であったせいでもあると思いますが、文化的には島国日本の縮図と言われているように、いろいろ文化が栄え、吹き溜まったところでもあります。日本もシルクロードからいろいろな文化が伝わり、それが醸成されていきますね。佐渡もそうなんです。例えば佐渡のお祭りは、鬼太鼓が各地に残っていますが、それに獅子舞やお神輿や神楽など、いろいろなものが付け足されて1つの祭として伝わっています。いろんな文化が入り混じって1つのものになっているのです。新たに来たものを排除するのではなくて、溶けこませる。日本の文化の特徴と言われますが、佐渡の文化の特徴でもあります。そして四季も豊かで農業・漁業も盛んで、林業もあって。まさに日本の縮図です。そこに僕たちの拠点があり、やはり佐渡にいるからこそ、こういった鼓童の様々な作品が生まれているかなぁと思います。
―お二人は鼓童に参加されてどのくらいですか?
船橋:私は鼓童の舞台に立って15年経ちます。
漆久保:正式にメンバーなって2年です。研修が2年、僕はメンバーと一緒に旅をしながら学ぶ準団員を1年。そして選考を経てメンバーになりました。
―研修システムを聞いて、ふと宝塚音楽学校を思い浮かべましたが…。
船橋:システムとしては宝塚音楽学校に似ているかもしれませんが、鼓童の研修所でやっていることは修行僧みたいです。朝4時50分に起きて、掃除、ランニング、食事を作って、畑の作業をしたり、太鼓・歌・踊りの稽古、お茶や狂言など日本の文化を学び、座学だと佐渡の植物や水産物についていろんな方のお話を聞いたりします。カリキュラムとしてはありとあらゆる経験を2年間でやります。
―授業料は?
船橋:寄宿制ですので、授業料というか生活費になりますね。廃校となった中学校の校舎をお借りして、体育館だったところを稽古場に、教室だったところを住居にしています。周りに何もない集中できる環境です。
―研修所には誰でも入れるわけではないですよね?
漆久保:選考があります。入ってからも、1年から2年に上がる時にも選考があります。
―そして厳しい日々が続くのですね?
船橋:でも毎朝4時50分に起きて走るのも、慣れてしまえばそんなに苦でなくなります。むしろ気持ちいいくらいになってきます。ただそこでずっと太鼓と向き合う、仲間と向き合う時に「自分は太鼓が本当に好きなのか」とか「ずっとやっていくのか」と自分に問いかけていくことになります。逃げ場がないので、2年間ずっと自分自身に問い続けて行くことになり、そっちの方がキツイと思います。それに耐えること、精神力を養うことはすごく大事です。私自身もあの2年間はきつかったです。
―現在の鼓童は何名が何チームで稼働していますか?
船橋:全部で34名で2チームに分かれて公演を行っています。この春は「永遠」というツアーと並行して、学校公演を行うチームがありました。残りのメンバーは佐渡で稽古をしたり、小さなイベントに出たりしています。
―最近のお2人の具体的な活動を教えて頂けますか?
船橋:二人ともこの春からは「永遠」ツアーでしたが、彼はその前はアメリカ公演でした。
漆久保:はい。「神秘」という「永遠」の1つ前の作品でアメリカ公演でした。今は「永遠」ツアーを終えて、次は学校をまわる「交流学校公演」です。祭の太鼓ではなく、こうした音楽的な和太鼓をもっと日本国内の人に知ってもらいたいという想いがあって、いつも旅をしています。太鼓は聴いて圧倒され、打っている姿にも惚れます。それをナマで見て聴いて頂きたいですし、その時のキャスティングならではの音を楽しんでもらいたいなぁと。鼓童30数人のうち、そこに来ている何人かのメンバーの作る音、姿を楽しんでもらいたいなぁと思います。
船橋:私は「永遠」の前が学校の公演でした。最近は上演作品がたくさんありまして、私は昨年の夏は「打男 DADAN」でスペインに行きました。作品によって出演メンバーは入れ替わっています。
―作品は同じでもメンバーは替わる…面白そうですが、大変そうですね。
船橋:新鮮ではありますが、大変ですね。
漆久保:この太鼓は得意だけれど、こっちはあまり…という得意不得意があったりしますから。
―得手不得手ができるほど、太鼓に違いがあるのですか?
漆久保:太鼓の打ち方もありますし、太鼓にもスタイルがいろいろあります。
船橋:担いで叩くのもあれば、座って叩く太鼓、立って叩く大きな太鼓…。いろんな太鼓があり、叩き方があります。積み重ねでなんとなく「ああ、このメンバーはこういう太鼓がいいな」みたいなのが分かります。でも何でもできないとね(笑)。
―みなさんは太鼓以外にもおできになるんですか?
船橋:ひと通りはやります。太鼓がメインで、付随して歌、踊り…漆久保なら笛が得意ですし、その他の楽器も演奏します。
―お二人がお好きなのは?
船橋:比較的大きな太鼓が好きです。平太鼓と言われる直径120㎝位のものが結構好きです。逆に小さい締太鼓も好きです。僕は笛を吹かないので、太鼓全般を何でもやります。
漆久保:僕は太鼓も叩きますが、笛を多くやっています。太鼓と笛はすごく密接ですし、楽器の相性がいいのです。
―お互いの魅力を教えて頂けますか?
船橋:漆久保は見てのとおりのイケメンです。こんなイケメンはかつて鼓童にいなかったくらい端正な顔立ちです。それでいて繊細な笛を吹きます。また、純邦楽にマニアックで三味線や尺八など古い楽器の古い音が好きでひたむきに勉強している姿は、とても尊敬できます。僕とは20才近く年が離れていますが、話をしてもとても面白いです。
―では漆久保さんから見た船橋さんは?
漆久保:キャリアがあり、実力もあるので、一緒に舞台に立つとメンバーがぴりっと引き締まる感じがします。また船橋さんは行く先々の劇場のこと良く分かっておられます。僕らはPAを通さず生音をお客さまに届けるので、劇場によって音が響きやすいか、吸い込まれるかで大きな違いがあります。僕の感覚はアバウトですが、船橋さんは「お客さんが入ると、もっと音を吸われてしまうから、もっと大きめに」とか、とても繊細に緻密に計算されます。しかもすごく体を動かしながら、頭を働かせているので、すごいなぁと思います。
―インタビューなどで「太鼓は太鼓といっても、鼓童は音が違う」という話を何度か拝見したのですが、それは研修2年の間に変わってくるものなのでしょうか?
船橋:太鼓の「ドン」には、鼓童には鼓童の「ドン」があります。太鼓のチームには、そのチームの「ドン」があります。
―えっ、そうなんですか?!
船橋:はい。そして「今回はこの『ドン』でいこう」とチームで決めて統一します。良い悪いではなく、それが僕たちのスタイルでもあり…。
―作品でも違う? それは聴きに行かなければわからない?
船橋:そうなんですよ(笑)!
―ナマの音は、そんなに違うものなのですか?
船橋:僕たちのやっているものは、生音の魅力が大きいのです。皆さんもお祭りなどで聞いて太鼓のイメージは持っておられると思いますし、最近は動画などで情報としては簡単に見ることができますが、だからこそより一層、生の舞台を見て、肌で音を吸収して頂けたらいいなぁ。今こういった時代だからこそ、伝わる…感じる部分が大きいのではないかと思います。お客さまにも実際に来て頂いて、生の音を感じて頂きたいと願っています。
―お客さまにも、今まで知らない世界が開けるような気がします。さて、次の作品の「混沌」ですが、船橋さんが参加されると伺っています。ドラムが加わるそうですが、どんな作品になりそうでしょうか?
船橋:1つ前の「永遠」という作品を作っている中でも「自然の営み」などがどんどんイメージされてきたのですが、その中に「混沌」というものが必ずあると思います。グチャグチャした世界の中から新しい物が生まれてくるという感覚が「永遠」であり「神秘」であったようです。僕たちの中にも玉三郎さんの中にも生まれてきたように思います。そういった意味でも、次の段階へ行くための混沌だと思っています。この地球が生まれたのも、宇宙が壊れて偶然のように地球が生まれてきたように、ドラムなど色々な楽器を入れてみたことで、「カオス」になって(笑)、その中から新しいものが生まれ来るのではないかと思っています。それはお客さまに見て頂くことで更に作られていくものです。僕たちは生の演奏で、お客さまの反応を大切にします。ちょっと違うなと思ったら、どんどん変えていきます。
―みなさん自身が作られるのですね?
船橋:玉三郎さんという大きな存在がいらして、提案して下さることはたくさんありますが、あくまで提案なので、それに僕たちがどうやって返していくか…ということですね。
―今の段階で「混沌」での聞かせどころ、見せどころを教えて頂けますか?
船橋:長年やって来て、自分の中で鳥肌がたつ瞬間が何回かありましたが、今回は稽古の段階でそんな湧き立つような瞬間があって、それがすごく新鮮でした。「これは大変だけど、面白くなる」という予感があります。お客さまにとっても、僕たちにとっても「太鼓ってこうだ」という囲いを1つ取っていける…一歩超えられるような瞬間が出てくるかなと思えるので、そこが見どころだと思います。
「歌舞伎」「宝塚歌劇団」のように、いつか「鼓童」がひとつのジャンルになると嬉しいなぁと思っていますし、この「混沌」がその一歩になるかなと思います。
―最後に、初めて鼓童を見に来る方へ、ひと言お願い致します。
船橋:今までもドラム等とセッションしたことはあったのですが、練り込んでいくまではできてなかったと思います。和と洋が対峙したことはあっても、溶け込むまでやるというのは誰もやらなかった挑戦だと思います。たぶん今まで感じたことがないような響きをお届けできると思いますので、新しい音の世界、鼓童の世界を肌で吸収し、体感して頂きたいです!
「鼓童」
太鼓を中心とした伝統的な音楽芸能に無限の可能性を見いだし、現代への再創造を試みる集団。
1981年、ベルリン芸術祭でデビュー。以来47ヶ国で5,600回を越える公演を行う。劇場公演のほか、小中高校生との交流を目的とした「交流学校公演」、異なるジャンルの優れたアーティストとの共演や、世界の主要な国際芸術祭、映画音楽等へも多数参加。
2012年より坂東玉三郎氏を鼓童の芸術監督に招聘し、新作を発表し続けている。
ウェブサイト : http://www.kodo.or.jp/
フェイスブック: KodoHearbeatJp
船橋裕一郎(ふなばし ゆういちろう)
1974年5月9日生まれ
考古学を専攻していた学生時代に太鼓に出会う。1998年に研修所入所。2001年よりメンバーとして舞台に参加。太鼓、鳴り物、唄などを担当、数多くの演目を表情豊かに表現。これまでに国際芸術祭「アース・セレブレーション」城山コンサートの演出も手がける。交流学校公演、海外での共演など様々な分野を牽引。「BURNING」「山笑ふ」などを作曲。また2012年4月より鼓童の副代表として代表を補佐し、舞台を支えている。2014年交流学校公演では「大太鼓」を務め、各地の子ども達に太鼓の魅力を伝える。
漆久保晃佑(うるしくぼ こうすけ)
1992年9月3日生まれ
2011年研修所入所。準メンバーながら2013年「アマテラス」のツクヨミ役に抜擢。2014年よりメンバーとして活動。舞台では主に笛をはじめとする旋律楽器を担当する。「神秘」公演では長い手足を活かし「獅子舞」をダイナミックに可愛らしく表現。新作「永遠」では作曲も手がけ、独自の世界観を笛の旋律で描写する。長身に端正な顔立ちで、爽やかな笑顔が際立つ若手メンバー。
鼓童ワン・アース・ツアー2015 ~混沌
11月23日(月・祝)新潟県佐渡市 アミューズメント佐渡
11月29日(日)福井県越前市 越前市文化センター
12月1日(火)富山県富山市 オーバード・ホール
12月3日(木)新潟県新潟市 新潟県民会館
12月5日(土)大阪府大阪市 NHK大阪ホール
12月6日(日)大阪府大阪市 NHK大阪ホール
12月9日(水)福岡県福岡市 博多座
12月11日(金)広島県広島市 アステールプラザ
12月13日(日)岡山県岡山市 岡山市民会館
12月15日(火)愛知県名古屋市 愛知県芸術劇場 コンサートホール
12月17日(木)神奈川県横浜市 神奈川県民ホール
12月19日(土)東京都文京区 文京シビックホール
12月20日(日)東京都文京区 文京シビックホール
12月21日(月)東京都文京区 文京シビックホール
ウェブサイト : http://www.kodo.or.jp/
12月19日(土)~23日(水・祝) 文京シビックホール 大ホール
S席7,000円 A席5,000円 学生券(S席A席共通)3,000円
(全席指定 学生券は小学生~24歳以下の学生対象、入場時に学生証・身分証明書をご提示いただきます)
チケット購入・お問合せ : チケットスペース TEL:03-3234-9999 http://WWW.ints.co.jp