みなもと太郎原作、三谷幸喜作・演出、松本幸四郎、市川猿之助、片岡愛之助、松本白鸚出演で、6月1日(土)から25日(火)まで、歌舞伎座夜の部で三谷かぶき『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』が上演される。佳境に入った稽古風景が、5月22日(水)に公開された。
原作はみなもと太郎の歴史ギャグ漫画。関ヶ原の戦いから幕末までを描いて、1980年から現在まで連載が続く人気作を、歌舞伎を手掛けるのは13年ぶり2度目となる三谷幸喜が作・演出する。本作が三谷幸喜の歌舞伎座への初登場作品となり、豪華な出演者も揃い、大きな注目を集めている。
物語は、江戸時代も天明2年(1782年)。
大黒屋の息子・光大夫(松本幸四郎)は船頭として江戸を目指して商船神昌丸で伊勢を出港するも嵐に見舞われ船は転覆の危機に陥ってしまう。光大夫は帆を折ることで転覆を避ける決断をし、なんとか無事に嵐を乗り切ったものの、帆がなく大海を漂流する羽目に。
稽古が公開されたのは、一幕の冒頭。
大海を漂流する神昌丸の上…。17名の個性派ぞろいの乗組員は、大海を漂流していた。
帆の代わりにと畳表を持ってきた光大夫(松本幸四郎)だが、
すでに皆の着物で帆が出来上がっていた。
役立たずの船頭だと落ち込む光大夫にカツを入れたのは、
船乗りの経験豊富な船親司の三五郎(松本白鸚)。
個人主義者の新造(片岡愛之助)と愚痴をこぼす庄蔵(市川猿之助)も喧嘩ばかり。
食糧は尽きて、食べ物は積荷の米ばかり。
塩握り飯にも飽きたと庄蔵は悪態をつく。
「ならば自分の沢庵を売ってやる」と新造。またもや喧嘩になりそう!
帆柱の下敷きになり記憶喪失になった者、体調を崩してしまった者など
途方に暮れる水夫たちを励ますために陸までの距離を占うのですが、結果は…
「昆布があれば陸が近い!」と全員総出で昆布探し。
「何がなんでも正月には伊勢へ帰ろう!」と固く誓い、皆を励ます光大夫。
個性的な人物たちが生死のかかった厳しい状況で繰り広げるスリル満点の悪戦苦闘。個性のぶつかり合いに笑わされる場面が多いのだが、早くも一幕で目頭が熱くなるエピソードが織り込まれているのは、さすがの三谷幸喜脚本。
演出家・三谷さんはどこに? と稽古場を見渡せば、
スタッフの一番後ろの壁際に立って頬を緩ませて稽古を見ていました。
さて、こののちにどんな冒険が待っているのか?!(ロシアまで行ってしまい、エカテリーナ女帝に会うらしいです!)
どんな笑いと涙がつまっているのか、期待がふくらみます。
囲み取材では松本幸四郎、市川猿之助、片岡愛之助、松本白鸚と三谷幸喜が登場。
松本白鸚 片岡愛之助 松本幸四郎 市川猿之助 三谷幸喜
三谷幸喜:「前回『PARCO 歌舞伎 決闘!高田馬場』(2006年、以下『高田馬場』)も今回も幸四郎さんからお話を頂きました。このメンツなら断る理由がありません。是非やりましょうと。前回はパルコ劇場でしたので、より歌舞伎らしく作らないと歌舞伎でなくなるのではという不安がありましたが、今回はこれだけの俳優の皆さんが揃い、歌舞伎座でやるのですから何をやっても歌舞伎。かなり自由な発想で作らせてもらいました。
歌舞伎でやる難しさは何一つありません。みなさん、役をつかむのがものすごく早いので、やりやすい。立ち稽古の頭から出来上がっています。(猿之助を指して)この方はとにかく早く帰りたいと、稽古場に来た瞬間から帰ろうと、雨なら中止じゃないかと(笑)。でも舞台に立つと、とてつもない力を発揮される方。僕はもう見ているだけです。歌舞伎俳優はみなさんが演出家でもあるわけですから、自分の演出…音や音楽はイメージがあるので、僕はそれを見ながらコントロールしていくわけですが、たまに僕を通さずに勝手に音楽の調整をされていることがある。それだけちょっと注意しておきます。(爆笑)
松本白鸚:『高田馬場』も素晴らしかった。舞台で観ても、TVで観ても両方とも素晴らしかった。両方とも素晴らしいというのはなかなかない。それに出させていただけるので、ワクワクしています。
片岡愛之助:『高田馬場』を客席で見て「面白い。出られたら」と思っていました。
松本幸四郎:『高田馬場』は芝居も突っ走り、一座も走り抜いた記憶があります。また三谷さんと歌舞伎で再会できることが出来て幸せです。新作歌舞伎とか関係なく、三谷さんの作品をどれだけ面白くできるか、それだけを考えてやっています。
市川猿之助:歌舞伎座でやるので怖さもありますけれど、そこは三谷さんが責任をとってくれると。(笑)信じて、お稽古します。今回はエカテリーナ女帝もします。ロココ調の衣装ですが、時代考証もしっかりしていて、衣装や舞台美術も見どころだと思っています。
三谷が「今日は染五郎さんがいませんが、ずっと彼を見ていたい。それだけで元がとれるくらい」と染五郎を推しを披露すると、間髪を入れず幸四郎が「主役は僕ですけど」と張り合って笑いが起きた。
「僕が関わることで初めて歌舞伎を観る方がいるかもしれない。そういう方に歌舞伎の面白さ、すごさを知ってもらいたい。ずっと歌舞伎をご覧になってきた方々にも『こういうのがあるんだ』『面白いな』と言って頂かないと意味がないと思う。その両輪を常に考えて作っています」と三谷は自信をのぞかせた。
公演は6月1日(土)から25日(火)までの歌舞伎座・六月大歌舞伎・夜の部にて。
公式HP :https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/609