今回、Astageが訪ねたのは、数々のミュージカルやショーなどで演出家・脚本家・作詞家・訳詞家として活躍する小林香。
近年手掛けた作品は、8月14日(金)に帝国劇場で上演が始まった『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』(構成・演出)をはじめ、「シャボン玉とんだ 宇宙までとんだ」(演出)、「Indigo Tomato」(作・演出)、「Little Women -若草物語-」’19(演出)、「ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレートコメット・オブ・1812」(演出・訳詞)など数多く、今や日本になくてはならない演出家のひとりだ。
だが、その素顔は意外に知られていないのではないだろうか。
今回、Astageは、才能あふれるアーティストであり、幼い子供を持つ母でもある小林香の素顔に迫ってみた。
―シアタークリエでの『SHOW-ISMS』を終えて、8月14日からは帝劇で『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』が開幕ですね。また公演が出来るのは、うれしいですね。
私にとってはシアタークリエで4月7日から上演予定だったミュージカル『モダンミリー』が公演中止になったので、7月20日の『SHOW-ISM』が半年ぶりの初日でした。最初の曲が始まって、照明がついてお客様のシルエットが見えた時、お客様がそこにいて観てくださっているのが嬉しくて泣いてしまいました。お客様がそこにいてくださる有難みを実感しました。
―その『SHOW-ISM』では劇場での観劇と共に配信という新しい取り組みが始まりましたが、いかがでしたか?
それまでは配信という発想がなく、自分の作品が DVD になる時にも少し抵抗感がありました。自分が届けたい部分と違うところが映されていた時に、やはり少し残念に思うこともあったので、映像で舞台を楽しむということはなかなか難しいと思っていました。
今回、配信をやるにあたっても、確かにその点はあったと思います。特に今回は私にとっても多くのスタッフ・キャストにとっても初めてのコロナ対応で、全員がとても忙しく、私も映像の監督と「この部分のこれは絶対撮ってください」というお話ができなかったということもあります。しっかり打ち合わせたらもっと面白く感じていただけるだろうと思います。
その一方で様々な理由で劇場に来られない方や、元々観劇に時間とエネルギーをかけられなかった方たちが「ちょっと見てみよう」とすそ野が広がったことはとても嬉しかったです。
それから、想像以上に「配信を見て下さっている」という実感がありました。どうしてそう感じたのかわからないのですが、最後に俳優陣に「カメラの向こうのお客さんに向けて歌いかけてください」とお願いした時に「しっかり届いている」と実感でき、「普段見て頂けない方にもお届けできた」という喜びがすごくありました。
―私も配信で拝見しました。チケットは完売でしたが特等席で見る感じがして、とても楽しかったです。
それも配信の良いところですね。演出家は舞台稽古では、客席の真ん中から見るのですが、幕が開いたら大抵客席の一番後ろから観ているので、俳優の表情までよく見えないのですが、配信だと良く見えました。それに全席完売でも見られる。それは嬉しいですよね。ただお客様が見るポイントを選べないのが、少し惜しいところです。今後は「劇場で観て、配信でも観る」がお勧めですよ。(笑)
―さて、小林香さんご自身に迫りたいと思います。ご出身は京都で大学卒業後に、謝珠栄先生のお弟子さんになるため上京されたと伺っています。演劇の演出家となるための基礎力は、どこで養ってこられたのでしょうか?
私は大学を出るまで演劇をかじったことがありませんでした。演劇コース等にも行ったことがなかったので、テクニカル的なものは謝珠栄先生の弟子になって以降にゼロから吸収しました。演劇のノウハウ、テクニカル的なノウハウを身につけるのは遅めのスタートでしたが、それはおそらく後でも吸収できることだと思います。
ただ演劇は取り扱うものが、言葉・音・視覚と五感全体、いろんなものによって成り立っていますから、何を見て聞いて感じてきたか…が大切ではないかと思います。
思い返せば、かなり幼い頃、早い時期から「芸術を作る人になりたい」という気持ちが強く、子供ながらに本や映画や美術など、簡単に手に入るアートはできるだけ吸収してきました。「大人になったら忙しくなって、自由にできる時間はきっとないだろう」と思って「学生で時間がある時に、何か今しかできないものを吸収しよう」とすごく考えていた気がします。
―演劇を意識されたのはいつですか?市民オーケストラを作って、それがきっかけで大学在学中にニューヨークフィルに留学されましたね。その時には?
全く演劇を意識してなかったですね。ニューヨークに行って初めてプロのミュージカル…『ミス・サイゴン』や『ライオンキング』など、オーソドックスな作品を見たと思います。我が家にはライブパフォーマンスのカルチャーがあまり無く、どちらかと言えばファインアートばかりで、あまり演劇に親しみがありませんでした。ただ「映画を撮りたい」「音楽とダンスがある映画を作りたい」とは思っていました。
―そして京都から東京に出て来られたのですね。
大学3年ぐらいまでは東京には全く興味がなく、まさか自分が東京に出ようとは思いもしませんでした。「どこか広い所に行くのだったら、海を越えて…」と思っていたのですが、ただ日本語が好きなのかもしれません。「日本語でモノや舞台を作るなら、やっぱり東京を踏まないと」と思ったのでしょうね。
―そして謝珠栄さんに弟子入りされた。何かご縁があったのですか?
私が手紙を書きました。当時は女性のミュージカル演出家は、謝先生を筆頭に数人いらっしゃるかな…という感じだったと思います。謝先生の作っておられた作品がすごく面白かったですし、魅力を感じていたのだと思います。手紙を書いて弟子にしてくださいなんて、若いってすごいですよね。(笑) 今はそんな行動力はないかもしれません。
―謝先生の元にいらして、その後演劇プロデューサーに?
2年間、謝先生の元でお世話になり、辞めた頃にちょうど東宝株式会社演劇部(以下、東宝演劇部)にプロデューサーのアシスタントで呼んでいただけました。「演出家になりたいのにプロデューサーのアシスタントはどうなのかしら?」「違う道に行ってしまうのでは?」とも思ったのですが、「広いところを見ておくのは大切かも」「求めて頂けるなら応えたい」と思い働くことにしました。
―不安もあったのですね。
でも、そこでいろんな人…ミュージカル界のありとあらゆる人に出会えたことは、とても大きいことでした。一流の方たちのパフォーマンスをずっと見ることができたのも、とても良い勉強になった気がします。舞台の裏側の大変さも、十分に経験できたので、全体をとらえるという意味でもはすごく勉強になったと思います。
―そして、その後、演出家としてたくさんの作品を手掛けてこられました。今、小林さんがお客様に向けて心掛けていることは?
なぜ私がミュージカルを好きかというと、人間の良いところを全力で肯定する、その人の存在に対して「YES!」と言い切るような、そんな大きな力があることが大好きなのです。
だから自分の作品でも、そのミュージカルの力を存分に発揮して、お客様が「明日も頑張ろう」と希望を持てるような作品を作りたいとずっと思っています。そして「世の中を良くすることに、ミュージカルを通して少しでもいいから役に立ちたい」。私がミュージカルをやる一番の目的はそれなので、そこをきちんと考えていけば、きっとお客様に届けられると思っています。
―では、制作の現場では?
稽古場や一緒に作品をつくる仲間たちに対しては、『あきらめない、しつこい、怒らない』という三原則で向き合おうと思っています。
作品づくりは本当に大変なことで、どこまでも追求できるものです。自分の強い思いとギャップがあった時には、つい怒ってしまうこともあると思いますが、私もいい感じで歳を取ってきたので、その人の力を引き出すための冷静さが少しずつ出来てきたかなと思っています。
―その三原則をうかがって、子育てにもぴったりだと思いました。
息子が生まれて「子供は本当に言うことを聞いてくれない!」と思いましたから、個性的な俳優さんを相手に稽古するのは、子供に比べたら大丈夫!大人ですから言葉も通じますしね。 (笑) 私の場合は、私が息子から学んでいるところがあると思いますね。
―とはいえ、子育てと仕事の両立は大変だと思います。どう両立されていますか?
稽古中に保育園からの着歴を見つけると、ドキッとします。(笑) でも、いろんな方に助けられて、なんとかやっています。とにかく朝の気合が違います。「今日は何がなんでもこのシーンの最後まで稽古するぞ」とか。(笑) それに時間がないから決断が早い。決めたら迷いません。(笑)
演劇界も元々は男性社会ですし、ましてや子供を育てているという状況を理解してくださる方は正直少なく感じます。
でも「この業界で子供を育てて仕事をしていけるかな」と不安に思っていた時に、お子さんをお持ちの方に「きっとみんなが力を貸してくれるわよ」とおっしゃっていただいたのです。そして本当にそのとおりで、たくさんの方が私のためでなく子供のために力を貸してくださっています。「子供はみんなで育てていくものだな」と感じています。現場でも子育てを理解してくださっている方…昨日も瀬奈じゅんさんと、ちょっとお話しただけで和みました。
―最後にこれからに向けてのお話をお願いします。
私はなぜかファーストペンギンになることが多いのです。東宝演劇部での女性プロデューサーも私が初めてで、シアタークリエではこけら落とし公演をやらせていただきました。そして、帝国劇場で日本人女性としてミュージカル系作品の演出をするのも、私が初めてです。
何かと女性として先陣を切ることが多いので、子供を持ちながら仕事をしている私が、下手なことをしては、次に繋がる若い女性たちに迷惑がかかるだろうと思うので「絶対に頑張らなくては」という気持ちで挑んでいます。勝手な気負いなんですが…。
ただ私も先輩や先人が拓いてくださった道の上を歩いてきたわけですから「後の女性たちがもっと活躍できるように、自分も頑張りたい」と思っています。女性の立場を良くしていくことがなかなか進まないですが、関心を持っていたいです。
『THE MUSICAL CONCERT at IMPERIAL THEATRE』
LIVE映像配信 ¥3,800.-
詳細: https://eplus.jp/sf/detail/3302640003-P0030003?P6=001&P1=0402&P59=1
構成・演出:小林香
音楽監督・編曲・指揮:甲斐正人
振付:原田薫、麻咲梨乃、港ゆりか、木下菜津子
8 月 14 日(金)~8 月 17 日(月)Program A (公演終了)
8 月 19 日(水)~8 月 22 日(土)Program B
8 月 23 日(日)~8 月 25 日(火)Program C
<CAST(五十音順)>
MC
井上芳雄 Program A・Program C
山崎育三郎 Program B
Program A 出演キャスト (公演終了)
朝夏まなと 生田絵梨花 一路真輝 今井清隆 和音美桜 加藤和樹 城田 優 瀬奈じゅん 田代万里生 新妻聖子 花總まり 古川雄大 森 公美子
Program B 出演キャスト
朝夏まなと 海宝直人 加藤和樹 笹本玲奈 涼風真世 瀬奈じゅん 田代万里生 中川晃教 花總まり 福井晶一 藤岡正明
Program C 出演キャスト
朝夏まなと 石井一孝 一路真輝 佐藤隆紀 島田歌穂 瀬奈じゅん ソニン 田代万里生 平野 綾
Special Guest
市村正親 Program A(17 日昼夜のみ)(公演終了)
大地真央 Program C