2020 年 10 月 31 日(土)~11 月 23 日(月・祝) 紀伊國屋ホールにて上演される鴻上尚史 作・演出『ハルシオン・デイズ 2020』の稽古場レポートが届いた。
鴻上尚史のプロデュース公演 18 弾となる作品で、柿澤勇人、南沢奈央、須藤蓮、石井一孝 4 名の実力派キャストを迎え、2004 年の名作が 2020 年版として生まれ変わる稽古場の様子が伝えられた。
テーマは、絶望と救済、そして希望。物語は、4人の登場人物が妄想・幻影・虚構と向き合いながら、目まぐるしく展開していく。
鴻上作品の中で最も多く上演されている衝撃作『トランス』のテーマを引き継ぎ、2004 年に初めて上演された本作は、2011 年のロンドン公演を経て、「今だから」届けたい作品として 2020 年版が上演される。
出演はミュージカル「フランケンシュタイン」や現在放送中の連続テレビ小説「エール」で注目を集め、舞台だけでなくテレビドラマなど幅広く活躍している柿澤勇人、舞台でも映像でも活躍する南沢奈央、さらに須藤蓮、石井一孝といった実力派キャストが揃った。
稽古場レポート
取材・文:久田絢子 / 撮影:田中亜紀
「芝居」という言語で、語りかけることを止めない 鴻上尚史が様々な人たちと出会い、公演するために作ったプロデュース・ユニット、KOKAMI@network の第 18 弾公演『ハル シオン・デイズ』が 2020 年 10 月 31 日に紀伊國屋ホールで開幕する。2004 年に初演、2011 年にロンドンで公演、そして新 たに 2020 年版として上演する今作は、Twitter(ツイッター)の「#(ハッシュタグ)自殺」で出会った 4 人の物語だ。
柿澤勇人、南沢奈央、須藤蓮、石井一孝という 4 名のキャストで挑む今作の稽古場を取材した。
稽古はまず、ウォーミングアップを兼ねてダンスシーンから始まった。ミュージカルで活躍する柿澤と石井が出演するとあり、ダ ンスと歌のシーンは見せ場の一つだろう。鴻上作品といえば、川崎悦子振付のダンスシーンが欠かせないが、今回も役者が 身体で語るように踊るダンスに注目して欲しい。歌稽古では、柿澤と石井の美しいハーモニーを聞くことができ、本番での歌 唱シーンが非常に楽しみだ。
続いて、和美(南沢奈央)と明生(須藤蓮)の回想シーンの稽古が始まった。なぜ和美が明生の幻を見るようになったのかが明 らかになる、物語のキーポイントとも言えるシーンだ。スクールカウンセラーとして明生と向き合う和美を、南沢は安定感のある 落ち着いた芝居で見せる。自殺を思いとどまらせたい、という真っ直ぐな気持ちを持ちながらも、何か秘めたようなクールさも 持ち合わせており、この後の展開を予感させる深みがある。回想シーンを演じる須藤からは、孤独を抱える多感な高校生の今 にも爆発しそうな苛立ちが伝わってきたが、回想シーン以外の明生、つまり和美の見ている幻の明生を演じる須藤からは、抱 えていた負の感情や肉体の重みから解放されたような軽やかさが感じられ、何とも言えない切ない気持ちになった。
次に、雅之(柿澤勇人)が突如として「自粛警察」と戦うと言い出すシーンの稽古が行われた。雅之がテンション高く自分の決 意や計画を語る場面なのだが、柿澤はテンション一辺倒にならず、見事な緩急でこのシーンの面白さを膨らませている。雅之 の繊細さや力強さ、様々な顔が見え隠れして、人間は決して一面では語れないということを思わせる。雅之の変貌ぶりに困惑 する哲造(石井一孝)を、石井は大らかで伸びやかな演技で表現する。素直に戸惑ったり、雅之を心配したりする姿からは、 自殺しようと考えている人間とは思えない明るさや優しさがにじみ出ている。自殺願望のある人間全員が、暗くふさぎ込み退廃的な気持ちに支配されているわけではない、表面ではわからないことが誰にだってあるのだ、ということに気づかされたて、 はっとした。
このコロナ禍で、一時期よりは緩和したものの、なかなか人が集まることが厳しい状況は続いている。万全の感染症対策をしな がら稽古場に人が集まり、芝居を作っている様はそれだけで感慨深いものがあった。直接会わなくても、リモートでコミュニケ ーションを取る方法は様々ある。でも、このコロナ禍で私たちが思い知ったのは、直接会わないと出来ないことがあるということ だ。同じ空間で、生身の肉体同士で向き合うからこそ、伝わるものがある。
閉塞感のある今の時代にコロナ禍が重なったことで、生きづらさを感じている人は少なくないだろう。悲しいニュースが続く中、 「死んじゃダメだ」「生きよう」という励ましの言葉は空虚に響くばかりに感じられる。それでも鴻上は、きっとこの芝居を上演する ことで、少なくともこの作品を見てくれる人に声をかけたい、手を差し伸べたい、と思っているのではないだろうか。終盤、自殺 を止めようとする和美は「死ななくても、戦う方法はあります」と叫ぶ。芝居という“言語”を使って観客に語かけることを止めな い、それが鴻上の戦い方なのだ。
間もなく本番を迎える 2020 年版の『ハルシオン・デイズ』という芝居が観客に何を語りかけてくるのか、ぜひ劇場で耳を傾けて欲しい。
公演詳細
KOKAMI@network vol.18 「ハルシオン・デイズ 2020」
【東京公演】2020 年 10 月 31 日(土)~11 月 23 日(月・祝)
【大阪公演】2020 年 12 月 5 日(土)~12 月 6 日(日)
作・演出:鴻上尚史
出演:柿澤勇人、南沢奈央、須藤蓮、石井一孝
制作協力:new phase 企画・製作:サードステージ
公演に関するお問合せ:サードステージ 03-5937-4252 (平日 11:00~18:00)
チケットに関するお問合せ:サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(平日 12:00~18:00)
公式 HP: http://www.thirdstage.com/knet/halcyondays2020/
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STORY
Twitter で「#自殺」と打ち込んでみる。流れるタイムラインに悲鳴が溢れる。
誰かと一緒なら生きる勇気がわくように、誰かと一緒なら死ぬ勇気もわいてくる。
3 人と 1 人は、仲間を Twitter で探し、DM でつながり、公園で出会った。
終わらせたい男たちと、始めるために嘘をついた女性と、終わってしまった青年が出会う物語。
やがて、男は自殺そっちのけで、自分の使命に目覚める。