東京・日生劇場にて、高畑充希主演のミュージカル『ウェイトレス』が、絶賛上演中だ。Astage記者が観劇した3月11日(木)昼公演からレポートをお届けする。(写真提供/東宝演劇部)
本作は、映画「ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた」(2007年)をベースに、楽曲、脚本、作曲、演出、振付など、主要クリエイティヴを全て女性クリエイターが担当して2016年にブロードウェイで初演され4年間ロングラン公演された新しいミュージカルだ。
今の女性が直面している恋愛・結婚・妊娠という現実をポップな音楽にのせて描き、登場人物たちのリアルなキャラクターも女性たちの心をつかみ、ブロードウェイからロンドン・ウエストエンドでも大ヒット。グラミー賞にもノミネートされた。
本作をブロードウェイで初めて観た高畑充希は、あまりに面白くて大感激。もう1回見たいとウエストエンドで観て、またブロードウェイでも観たほどだったとか。
今回の日本版初演では、その高畑が主演をつとめ、さらに、宮野真守 宮澤エマ LiLiCo/浦嶋りんこ(Wキャスト) 渡辺大輔 おばたのお兄さん 勝矢 佐藤正宏と個性あふれる実力派のキャストがずらり。筆者も期待に胸膨らませて劇場に赴いた。
主人公は田舎町のウェイトレスをする人妻のジェナ(高畑)。
幼い頃から母のパイ作りを見て育ち、ジェナがその時々の思いを込めて作るオリジナル手作りパイは店の看板メニューとなっている。
レストランのオーナー・ジョー(佐藤正宏)も毎日、ジェナのパイを食べに来る。
だが、ジェナは幸せそうではない。
というのも…
ジェナの夫・アール(渡辺大輔)は、見た目は魅力的なのだが、たいした仕事もせず、ジェナから金をせびり取る。暴言・暴力に及ぶ…。
高畑演じるジェナのアールを見る目に恐怖が見えて、客席にいてもその恐怖に体が固まる。
ジェナが心を許せるのは、レストランの同僚のドーン(宮澤エマ・右)とベッキー(W キャストで、この公演では LiLiCo・左)。女三人が集まったシーンの楽しさは、きっとどんな女子から見ても最高の女子会。「何はなくても、こんな友達さえいれば」と思わせてくれる楽しさ。
ドーンはちょっぴりオタク体質な、初心で心優しい乙女。
ドーンの見せ場は、オギ―(おばたのお兄さん)との恋物語。
宮澤の美しい歌声も透明感ある容姿もピュアなドーンそのもの。2019年のミュージカル『ピピン』出演時に、本作と『ピピン』の演出家ダイアンが「あなたはドーン役にぴったりだと思う」と漏らしたのも納得の歌唱力・演技力、そしてコメディ力!
本作が初のミュージカル出演というおばたのお兄さんには、何度も何度も驚かされた。
まず、会場の視線を独り占めにするほどに「歌える!」度肝を抜かれるほどに「動ける!」
そして、ミュージカルではめったに起こることがないほどの大爆笑を何度も巻き起こすほどに「笑える!」
お笑い芸人さんたちの演劇への進出は目覚ましく、その演技力の高さは、よく知られていることではあったのだが、その期待のはるか上をいく活躍だ。ぜひとも劇場で驚かされてほしい。
もう一人、初のミュージカル出演ですごい才能だったことを示してくれたのはLiLiCo。
「18歳の時に歌手を目指して来日」というプロフィールと、これまでの数々のキャリアのすべてがこの演技に結晶しているのではないだろうか。万雷の拍手を受けたほどに「歌える!」そして、絶妙な間と目力での「抜群の演技力!」 さらには、にじみ出る「人間力」が、自宅で身動きならない夫を介護しながら働くベッキーという人物に、広い心と強さを与えている。
仲良し3人組を厳しく管理しようとする店長のカル(勝矢)は、ありがちなタイプに見えるけれど、なにやらわけありにも見える人物。数々のミュージカルに出演してきた勝矢の魅力がここでもドンピシャ、役にはまっている。
ネタバレできないので、彼の紹介はここまで!
話を主人公・ジェナに戻そう。
アールに愛を感じられなくなって久しいジェナだが、一夜の過ちでアールの子を妊娠してしまった。
訪れた産婦人科でポマター医師(宮野真守)と出会い、なんと恋に落ちてしまう。
ジェナもポマターも既婚者。許されない関係の二人・・・・。
不倫をしている悪い男のはずなのに、全然悪い奴に見えない宮野真守演じるポマター医師。
「お医者さんなら成功者でしょ?」と思うのですが、なにやら彼も訳ありの人生を感じさせ、だからこそジェナとの恋に堕ちていく…?
「それこそ、この作品の肝かもしれない?!」と感じたのは終演後。宮野真守の軽妙な演技と、その裏に潜む深いわけは、ぜひとも劇場で感じ取っていただければと思います。
妊娠したことで、アールから離れようと思い始めるジェナ。
複雑な心の内を込めて、ジェナは様々なオリジナルパイを焼く。
そして、自立のためにパイのコンテストへの参加を決心。参加費用をこつこつと貯め始めるのだが、その目論みもアールに露見してしまい…。
恋と不幸な結婚と、そして出産…ジェナと、その仲間たちはどうなっていくのか?!
高畑充希演じる自己評価が低い、けれど幸せになりたいともがくジェナに、境遇は違ってもなぜか共感できてしまう点を感じる女性は多いのではないだろうか。
ジェナの変化を、高畑は多くの楽曲を通してずっしりと届けてくれる。
昨年、ヒロインのキム役で出演予定だった『ミス・サイゴン』がコロナ禍により公演中止になったため、本作が4年ぶりのミュージカル出演となった高畑。今後は映像での活躍のみならず、ぜひともコンスタントにミュージカルにも出演してもらいたい。
主人公ジェナの先行きだけでも目が離せないのだが、その他の登場人物たちが誰もがリアルで、感情移入できてしまうから、ドキドキが止まらない。
こちらでベッキーをつとめるのはW キャスト浦嶋りんこ(左)
その上に音楽がまた楽しい!
楽曲が良いのはもちろん、ミュージカルの醍醐味を満喫できる俳優陣の歌唱力に毎回大きな拍手が起きた。
衣装もセットも目もくらむばかりに豪華絢爛という、いわゆる夢見るミュージカルではないが、寄り添いながらエネルギーを注入してくれるミュージカル『ウェイトレス』。
終演後には「どうにもこうにも、パイが食べた~い!」と叫びたくなるほどの元気をもらえます!
東京公演は3月30日(火)まで。その後、福岡公演 博多座 ・大阪公演 梅田芸術劇場メインホール ・名古屋公演 御園座で上演。
ミュージカル『ウェイトレス』
脚本:ジェシー・ネルソン
音楽・歌詞:サラ・バレリス
原作映画製作:エイドリアン・シェリー
オリジナルブロードウェイ振付:ロリン・ラッターロ
オリジナルブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス
出演:高畑充希 宮野真守 宮澤エマ LiLiCo/浦嶋りんこ(Wキャスト)
渡辺大輔 おばたのお兄さん 勝矢 佐藤正宏
黒沼 亮 田中真由 茶谷健太 中野太一 藤森蓮華 麦嶋真帆 渡辺七海
製作・主催:東宝/フジテレビジョン/キョードー東京
共同制作:バリー&フラン・ワイズラー
公演情報
■作品公式 WEB サイト https://www.tohostage.com/waitress/
■公式プロモーション映像 https://youtu.be/w4GAjNevvPY
■2021 年3月9日(火)~3月30日(火)東京 日生劇場
(全席指定・税込)料金:S 席¥14,000 A 席¥9,000 B 席¥4,500
■全国ツアー公演
★2021 年4月4日(日)~11日(日)福岡公演 博多座
★2021年4月15日(木)~19日(日)大阪公演 梅田芸術劇場メインホール
★2021年4月29日(木)~5月2日(日)名古屋公演 御園座