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ミュージカル『いつか~one fine day』インタビュー 藤岡正明「初演を軽く上回る作品に」&西川大貴「自分もどう生きたいのかと日々考えながら稽古を」

2019年の初演で第27回読売演劇大賞上半期スタッフ賞にノミネートされ、高く評価された日本発のミュージカル『いつか~one fine day』(以下『いつか~』)が、新たなキャストを得て6月9日(水)から20日(日)まで、CBGKシブゲキ!!で上演される。

本作は、韓国映画『ワン・デイ 悲しみが消えるまで』(2017年、イ・ユンギ監督 キム・ナムギル主演)をベースに、板垣恭一が新たな解釈で脚本・作詞・演出を手がけ、桑原まこが作曲・音楽監督を担って作り上げるオリジナルのミュージカルだ。

その物語は…
妻を亡くして心の整理がつかないままの保険調査員テルに話しかけてきたのは、彼が調査を担当する交通事故のために植物状態となった女性エミ。信じられないと思いながらもエミと交流を続ける中で、テルはエミについて知るようになる…。

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藤岡正明   西川大貴

今回、ご登場願ったのは、初演からこの作品に出演し、主人公のテルを演じる藤岡正明さんと、エミ(皆本麻帆)の親友役トモヒコとして今作から出演する西川大貴さん。
クリエイティブなふたりの、ミュージカルへの熱い思いの伝わる対談となりました。

―おふたりが共演されたことは?
西川:舞台作品で共演するのは初めてですね。
藤岡:5年くらい前に、西川くんと吉原光夫さんの配信番組の公開収録に
西川:正(まさ)さんにゲストで出演していただいて
藤岡:リラックスした感じでおしゃべりしたね。
西川:ご一緒したのは、それが初めて。それからは舞台を拝見させて頂いた時にご挨拶させて頂いたり、自分がプロジェクトをやるときにお声をかけさせていただいたりしていたけれど、まだそれは叶ってなくて…。

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―では、念願の共演ですね。互いにどんな魅力のある方だと思っておられましたか?
藤岡:恐縮なのですが、西川くんには「自分と似ているな」と思うところがあって、それは「バイタリティ」です。僕自身もいろんな状況下でも「なにかを作っていたい」「発信していきたい」「動いていたい」というタイプなので、西川くんともそこがすごく似ている感じがしていて、すごく好きだなと思っています。
そして、西川くんは頭がいい。舞台の上では相手がどういう意図でやっているのかを感じ取ること、瞬間的に空気を感じて動くことは、俳優として大切なこと。生放送でご一緒した時に、まさにそこが素晴らしいと思いました。信頼感があります。

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西川:ありがとうございます。僕の方こそ恐縮ですが、ふたりが似ているという話だと、今日お会いしても感じたことですが、藤岡さんは最初にこの世界に入った時に生まれた反骨心やエネルギーを、いつも心のどこかにもっている方だなと。自分が好きなことをやる時も、任された仕事をやるにしても、自分の信条に反していないか、確認しながら現場にかかわっていらっしゃるのだろうと思っていて、そこがとても好きです。
正さんはミュージカル俳優というだけじゃない、ミュージシャンでもある。正さんと共演したことのある知り合いから「正さんが稽古場で音楽的な提案をしたから、こう変わったんだよ」という話を聞いたことがあったので、正さんが芝居や音楽をどう作りあげていくのか、個人的にとても興味があります。

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―たとえば…?
西川:先ほどの制作発表で楽曲のキーの話が出ましたよね。

藤岡:一般的にミュージカルの歌稽古では、俳優に合わせたキーで曲を作ったり微調整したりすることがある…って話だよね。
でも『いつか~』という作品では、役に合ったキー、違和感のない声色、感情が伝わるキーやフレーズを大切にしたいから、(作曲・音楽監督の)まこちゃんとずいぶん話し合った。結果、良いものができたと思う…って話ね。

西川:そうです。俳優が気持ちよく歌えるキーでやるのも1つの正解ではあると思いますが、正さんがおっしゃっていたとおり「作品のキーというのもある」と僕も思っています。
日本語にはまろやかさや、話し声のトーンが低めだという特徴があります。ミュージカルで歌う時に、音楽が西洋的なカタルシスを感じられるようなパーンとはじけたようにあがると、華やかさやエネルギーは感じられるようになるけれども、俳優としては歌に向けて声のトーンやテンションも西洋的にしていかなきゃならない。そこが観客としてはひっかかったり、自分がやっていても違和感を生じたりするところです。
でも『いつか~』ではそんな違和感がほとんどなかった。「馴染んでいる」「合っていてすごいな」と思っていました。正さんとまこさんがその点について深いやり取りをしていたことが、そんな違和感が少ない理由のひとつだったのですね。

藤岡:ミュージカル全般にいえることだと思いますが、「このキーが役を語ってくれる」という作品がある。そういう作品では、俳優はしっかりそのキーで歌って役としての情報量を維持しないといけないと思います。
役で悩みや苦しみを抱えて歌っている時には、歌でも負荷がかかって、それをストレスフルに感じていることが実はお芝居だったりする。そんな場面で歌い手が気持ちよく楽に歌い上げていたら、演技としての情報量を減らしてしまっているし、それは役を手放している瞬間なのかもしれないとも思っています。
キーを選ぶときには、聞く人にどう伝わるかで選びたい。
歌い手が多少苦しいキーでも、伝わるならそれがいい。それでも喉を嗄らさないようにするのがプロの仕事。もちろん、バランスは必要で、無茶な選択はダメだけど。

西川:僕も役や作品が気持ちいい時の歌なら、歌い手が気持ちよく歌えるキーでいいけれど、ストレスから解放されようとする瞬間やハードルを乗り越えようとする瞬間にハードな曲を歌うことが多いのに、歌いやすいキーに設定するのは、何かを欠落させているように思います。
『いつか~』初演では、キャストが作品に真摯に向き合っていると感じました。自分のエゴを出すことがない。観ていて「なぜここでこの歌を歌うのか」「なぜここにいるのか」が、とてもしっくりきた作品でした。そこが一番素敵だと思ったので、今後は自分がその作品の一部になれるように、そこを大切にして稽古したいと思います。

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― 初演では藤岡さんは役を演じるだけでなく、オリジナルミュージカルの作品作りにも深くかわっていたのですね。
藤岡:どの作品でも大切なことだと思いますが、特にこの『いつか~』は、役のひとりひとりがとても密接にかかわっているので、超絶ともいえるチームプレイが必要とされる作品です。ひとりの演技・台詞を他の俳優がどれだけ拾い合って行けるか…リアクションしていけるかが大切でした。
初演では若いキャストも多かったのですが、若い俳優がいきいきとしている方が作品として伸びる。萎縮している俳優がいると、そこからほころんでいくから…。
稽古場では「伸び伸びやろう」「たくさん失敗して、前のめりに転んでいこう」という感じで、板(板垣)さんはワークショップ的なこともやりつつ稽古を進めていました。だから僕も極力みんなの話を聞くように努めました。

西川:そういう意識があるから、初演では良いチームワークができたのでしょうね。

藤岡:初演を踏襲したいと言うつもりはないけれど、初演は和気藹々といいカンパニーがつくれたし、それによって互いのいいところを引き出し合う・支え合うというチームプレイがある程度、うまくできたのかなと思います。
ただ、「前の方が良かった」とは絶対に言われたくないので、初演を軽く上回るつもりでゼロから作っていくつもりでいます。

西川:それは僕ら新参加組ががんばらないと。

藤岡:最後までエミを友人として大切に思い続けるのが、西川くんが演じるトモヒコだと思います。この作品の“妙“は、最後に「そこに行きつくのか」というところで、西川くんは難しい大事な役だね。

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西川:はい、難しい役だと思いますが、まずは自然体で入ってみようと思っています。自分が感じるものに素直に反応していけたらと思っています。
あらすじを見ると、奥さんが亡くなったテルや、植物状態のエミという人物が登場するから、“死”を描いているように思えるけれど、実は「どう生きるか」を問う作品です。「どう死ぬか」は「どう生きるか」だと言いますが、まさにそれを描いた作品だと思います。自分も「どう生きたいのか」と日々考えながら稽古をやることになるのだろうと思います。

―では最後に、観に来て下さる方へ、まだ迷っている方へ、個人的な思いで結構ですのでメッセージをお願いいたします。
藤岡:実は正直言えば、この作品の原作映画を見たときから、そして台本を読んだ時、初演の舞台に立った時も、そして再演の舞台をやろうとしている今も、僕個人としてはこの作品の最終的な選択とは、全く別の意見を持っているのです。

西川:なるほど。

藤岡:だからこそ、この作品に興味が湧いてしまった。「なぜ、ここに行きついてしまったのか」と。その切れ端でもよいのでみつけたいと思っています。

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―では、原作の映画を見てから舞台を見た方がいいですか?
藤岡:いえ、見なくても大丈夫です。映画を見ても見ていなくても、まっさらな気持ちで見て頂けたらと思います。
今でも、僕はこの作品の結末について「その選択でよかったのだろうか」と考えます。でもこの作品は、その選択が良いとか間違っているというのではなく、「この人はこういう選択をしました」というもの。作品としても「ものすごく感動した」という方も、「自分は受け付けなかった」という方も、両方いていいと思っています。
でも「何かを持って帰ってもらえる作品」です。中途半端に合格点をもらおうとは思っていません。すごく大きな問題提起をしている作品だからこそ、観て頂きたいと思います。

西川:僕も今のコメント、そのままです!(笑) 生死については、それぞれの生き方があって、それぞれの“死”との向き合い方があるので、考え方もそれぞれだと思います。それを敢えて真正面から描くと、共感できるかできないかは分かれて当然でしょう。
自分が傷ついたと感じたり、自分の“生と死”への距離感を否定されたような気分になったりして、賛否分かれるとは思います。
『いつか~』は、最後にお話として着地はしていますが、「こうなりました。みなさん分かち合いましょう」というのではない。ありがちな説教臭さは、初演を観て全く感じなかった。ゆだねられている気がしたし、いろんな人がいて、いろんな考えがあって、そこに光を感じるところが魅力だと感じました。だから、さっき藤岡さんのコメントがいいと思います。(笑)

藤岡:カンパニーとしては、高いチケットを買って来てくれたお客様に「観てよかった」と思ってもらえるものに一歩でも近づける努力をしなくては。がんばります!

ミュージカル『いつか~one fine day』期間限定PV&コンサート動画公開

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ミュージカル「いつか〜one fine day」
脚本・作詞・演出:板垣恭一
作曲・音楽監督:桑原まこ

■上演日程:2021年6月9日(水)〜20日(日)
■会場:CBGKシブゲキ!!
■上演時間:125分予定
■チケット料金:一般10,500円 / 平日ソワレ割9,500円 ※いずれも全席指定・税込

●一般発売 5/8(土)10:00〜

企画・製作・主催:conSept