森見登美彦の人気小説「夜は短し歩けよ乙女」を原作とした舞台『夜は短し歩けよ乙女』が6月6日(日)に東京・新国立劇場にて幕を開ける。前日に会見とゲネプロが行われた。
ゲネプロでは、映像と音楽、パフォーマンスが絶妙なタイミングで物語を綴り、個性的なキャラクターを俳優陣がさわやかにユーモラスに作り上げ、作品の世界を堪能させてくれた。ゲネプロ終了後にはあちこちから「面白かった!」「すごく好き!」という声が聞こえてくる、楽しい作品となっていた。出演は、中村壱太郎、久保史緒里、鈴木砂羽、竹中直人、玉置玲央、白石隼也、尾上寛之。
原作の小説「夜は短し歩けよ乙女」(角川文庫刊)は、累計発行部数160万部を記録しているベストセラー。人気劇団「ヨーロッパ企画」代表の上田 誠が脚本・演出を担当して舞台化した。
出演は、現代劇に男の役として初出演となる歌舞伎俳優の中村壱太郎が先輩役。乃木坂46メンバーがいない環境での初出演となる久保史緒里が黒髪の乙女役。
さらに、鈴木砂羽(羽貫役)と竹中直人(李白役)のほか玉置玲央(パンツ総番長役)、白石隼也(学園祭事務局長役)、尾上寛之(高坂役)という芸達者が揃った。
【会見】
後)白石隼也 玉置玲央 尾上寛之
前)上田誠 竹中直人 中村壱太郎 久保史緒里 鈴木砂羽
上田:この劇は豪華絢爛・巨大絵巻と申しますか、森見登美彦さんの原作が想像力たくましく書かれた、筆の走るままに描かれた作品です。大学生の男女の恋をめぐる物語が中心にありながら、ゆく先々で春夏秋冬、本筋にかかわりのないありとあらゆるお話が起こっているという作品で、素直に演劇にすると登場人物も多く、事件もたくさんあって、ちょっと大変だぞという原作ですが、我々はそれを正攻法で総勢21人キャストとスタッフ陣で、できる限り原作のそのままに劇にしました。個性あふれるキャラクターたち、音楽はダンスやラップや歌もあります。シーンの数も信じられないくらいあります。稽古は大変でしたが、キャストみなさんがそれぞれのフィールドから持ち寄った知恵と経験と力を結集して、とても爽涼感のある絵巻物が仕上がったと思っております。3時間弱の劇になりましたが、ご覧いただけると多幸感に包まれると思います。
中村:私といたしましては、男のかっこといいますか、素の状態で舞台に立つのは初めてでございまして、そこからがすべてが冒険です。とてつもない世界が舞台で繰り広げられています。私も先輩役として乙女に恋をして、乙女を求めて、ただひたすらに走る、そんな姿を観て頂けたらと思っております。最後まで無事に完走できることを祈って頑張ってまいりますので、どうぞよろしくお願い致します。
先輩役は序盤に乙女に恋をして、そこから先輩自身も変わっていきます。それはただ乙女を求めているだけじゃなく、いろんな出会いや事件に巻き込まれることで変わっていく。恋に気づく。3時間弱の長編ですので、その中で春夏秋冬とどう展開が変わっていくのか、そのあたりを見て頂けたら有難いと思います。
現代劇は主演自体が男の役として初めてです。歌舞伎としては女形が多いですし、今もそうですが、これ(眼鏡)をつけ、どう立つかから自分の挑戦でした。身を守るもの、甲冑なく戦場に出ているようで、そこから挑戦です。歌舞伎も緊張しますが、それ以上の緊張と、その分のワクワクを頂いています。
久保:私にとっても壱太郎さんと同じように冒険というところからのスタートだったのですが、この黒髪の乙女という役がお稽古を通して好奇心旺盛で天真爛漫で、起こることすべてにプラスの感情で向き合っていく部分に、役の力をもらって、私もこの期間、前向きに居られたと思っています。とても素敵なご縁に恵まれていて、キャスト・スタッフのみなさま、素敵な方ばかりで、このご縁が私にとって財産だと感じています。こういう状況ではありますが、楽しいと思ってもらえるような、原作をお読みなった方にも「黒髪の乙女がここにいたな」と思ってもらえるような時間にできたらと思っております。
黒髪の乙女は前向きなところが一番の魅力だと思います。乙女が前に前に歩いていくことで、いろんなご縁をつないでいって、結果、それがひとつの輪になるというのが、この作品の軸になるのではないかと思っています。音楽もですが、視覚的な部分で衣装の数も多くて、春夏秋冬で乙女の服も違います。衣装もこだわりがあって、一瞬しか出ない衣装もありますが、それですら本当に素敵なものばかりなので、楽しんで頂けるのではないかと思います。
竹中:僕もずっと昔は若かったのですが、気が付けば、みなさんが若くてキラキラしていてて、稽古場で追いついていくのが大変でした。老体にムチ打ちながらやらせていただきますが、楽しい舞台になっているといいなと願っています。
鈴木:演じる役は鯨飲、クジラのようにガブガブとお酒を飲む役です。私は(現実には)イルカぐらいなのですが(笑)、劇中ではクジラのように飲まさせて頂いております。ただお酒だけでなく、お酒にまつわる夜の世界観に、私の役はとても大事な要因だと思うので、物語の扉を開ける人物としては、重要な役だと思って、飲んでばかりではなく、物語をひっぱっていけるように稽古しています。こんなご時世ですが、たくさんのお客様に来て頂いて、ひと時、「楽しいな」「幸せだな」と思って頂けると幸いです。
玉置:このご時世に劇場に足を運んでくださる方がいるのは、とても幸せなことだと思います。僕はみなさんが満足して頂くために、この役と劇と、つとめていければと思っております。みんなで最後まで無事に完走できるように努めてまいりますので、よろしくお願い致します。
白石:学園祭事務局長役の白石です。この舞台は、本当に壮大で濃密で、スケールの大きい舞台です。それ故に大変で、時間が無かったのですが、僕も夜、家で芝居をしていたら、2回ほどマンションからクレームがきたりして大変なのですが、その分を取り戻せるようにいい舞台にしたいと思います。このご時世に舞台にでられることに感謝しております。後は、観てくださる方々が笑顔になって、前向きな気持ちになれる舞台だと思います。がんばります。
尾上:高坂先輩役の尾上寛之と申します。高坂先輩やくだけでなく、(他のキャストの)みなさんそうですが、いろんな役をやらせてもらっているので、客席から見ることはできないのですが、袖から舞台を見ていて、笑顔になったりキュンキュンしたり、2人の話が進むにつれて涙がでそうになる瞬間があって、心に栄養をもらっている、元気をいつももらっています。僕らは舞台に立ってお芝居ができることが心の栄養になっていますし、観に来て下さる方が心の栄養をもらうことも不要不急ではないと思うので、是非劇場に来て頂きたいですし、このパワーを皆さんにお伝えできればいいなと思っています。ぜひ、劇場に足を運んでください。
高坂先輩は、(先輩と黒髪の乙女とは)まったく別のドラマをはしらせています。‘(ここでキャストのあちこちから噴き出す声が響く)この物語の中では、みんなが乙女に翻弄されて進んでいくストーリーですが、僕だけは全く別のドラマをはしらせています。これだけで感動してもらえるように(キャストは爆笑)全力で生きています。その部分を楽しんでいただけたらなと思います。
久保は「みなさんがお優しすぎて、救われています。そのおかげで今、ここにいると言ってもいいくらい」と、涙を潤ませる瞬間も。
会見は、まだゲネプロを観る前に行われたため、上田の壮大な絵巻という意味がよくわからなかった記者だが、ゲネプロを見て、この作品のすごさ(スケールは大きく、場面展開は目まぐるしいのにスムーズで、観る者にとっては楽しい仕掛けだらけ。だがそれは、演者にどれほどの負担を強いるものなのかということ)を知ってからは、上田や久保の言葉に納得したのでした。
【ゲネプロ】おそらく一般的な舞台作品の5倍以上の場面展開があっただろう。それが少しの違和感もなく小気味よく物語を進める。個性豊かな俳優陣の生み出すキャラクターの懸命に生きる姿が、ユーモラスでキュートで、しかもさわやか。ゲネプロのカメラマン席からも、笑い声が終始絶えず、終演後には誰もが笑顔いっぱいとなって帰っていった。
映像と音楽、パフォーマンスが絶妙なタイミングで物語を綴る。舞台マジックをあちこちで見せてくれるのも楽しい。
中村壱太郎は顔も身体も表情豊かで、魅力的な先輩を作り上げ、演劇にジャンルの壁はないことを教えてくれた。彼は、今後、現代劇でもひっぱりだことなること間違いないだろう。
久保は、劇の中心でほぼ出ずっぱり。歌もダンスも台詞も殺陣(⁈)を休みなく演じ続ける難役を見事に演じきり、彼女らしい、さわやかな黒髪の乙女を見せてくれる。
こちらは先輩が黒髪の乙女に一目ぼれする場面。
原作を知る方、映画を見た方はもちろん、全く知らない方もスルッと物語に入っていける。
上田誠が「森見さんの小説の文章がリズム良く、韻律が心地よく、台詞からのアプローチで昇華していったという感覚で、結果として曲数も多くて、音楽劇と呼んでも差し障りのない楽曲数になっていると思います。歌うシーンもあれば、ダンスシーンも群唱のようなシーンもある。ミュージカルという言葉に限定してしまうより、もう少し多様なことをやっている感覚」というのも納得の音楽とパフォーマンスの多様さ。それが自然で馴染みよい。
これぞ!という場面では、俳優陣の切り札・裏技も乱れ飛ぶ!
登場する度に爆笑をさそったのは、尾上寛之。会見でのコメント通り、我が道をゆく物語で客席を席捲。
キャストは、先輩・乙女役をのぞいて、メインの役以外にもいろいろな役に扮して登場。
興行的にも厳しさが続く演劇界では、その財政的な厳しさが舞台上にも反映されがちではあるのだが、本作ではそれをまったく感じさせない。それはきっと発想の方向と創意工夫のエネルギーのおかげも大きいに違いない。京都の町を歩き回る黒髪の乙女につれられて、いろいろな場所を訪れるワクワクも体験できる。
一度目の観劇は物語を追って、二度目以降の観劇は一人のキャストに注目して、舞台の細部に注目して、何度も見たくなる。何度も笑い、何度も楽しめる舞台となっていた。
公演は、6月22日(火)まで、新国立劇場 中劇場、6月26日(土)~6月27日(日)クールジャパンパーク大阪 WWホール にて上演。
◆公演概要◆
『夜は短し歩けよ乙女』
原作:森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」(角川文庫刊)
脚本・演出:上田 誠(ヨーロッパ企画)
<キャスト>
中村壱太郎
久保史緒里(乃木坂46)
玉置玲央
白石隼也
藤谷理子
早織
石田剛太
酒井善史
角田貴志
土佐和成
池浦さだ夢
金丸慎太郎
日下七海
納谷真大
鈴木砂羽
尾上寛之
藤松祥子
中村 光
山口森広
町田マリー
竹中直人
<スタッフ>
美術:長田佳代子 音楽:伊藤忠之 振付:EBATO 照明:倉本泰史
音響:加藤 温 映像:大見康裕 衣裳:坂東智代 ヘアメイク:大宝みゆき
演出助手:山田 翠 舞台監督:川除 学 制作:佐々木康志(PRAGMAX&Entertainment)
宣伝美術:山下浩介 宣伝写真:神ノ川智早 宣伝衣裳:酒井タケル 宣伝広告映像:AOI pro.
企画・制作:フジテレビジョン
主催:2021『夜は短し歩けよ乙女』製作委員会
公式ホームページ:https://www.yoruhamijikashi.jp/
舞台公式twitter:@NakameOperation
<公演日程>
■東京公演 2021年6月6日(日)~6月22日(火)
会場:新国立劇場 中劇場 東京都渋谷区本町1丁目1番1号
■大阪公演 2021年6月26日(土)~6月27日(日)
会場:クールジャパンパーク大阪 WWホール 大阪市中央区大阪城3番6号