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忘れたくない日本の名作、ここにあり!新橋演舞場10月 花柳章太郎 追悼「十月新派特別公演」レポート

新橋演舞場10月 花柳章太郎 追悼「十月新派特別公演」が、本日10月2日に初日を迎えた。花柳章太郎は大正から昭和30年代まで活躍し、初代水谷八重子との名コンビによって次々に傑作を世に送りだした女形の大スター。
今回の公演は、水谷八重子が82歳にして初めて一重役に挑む『小梅と一重』一幕と、波乃久里子と藤山直美が新橋演舞場で約24年ぶりに共演する『太夫さん』という、花柳章太郎 に縁の深い演目を上演。1年8ヶ月ぶりの新派本公演となった。

『小梅と一重』一幕 花柳章太郎 が得意とした新派の華・芸者の物語。
一幕ものながら、登場人物の濃いキャラクターが際立ち、その時代の日本人の気風が描かれて味わい深い。

家柄門閥がないにもかかわらず、澤村銀之助が人気役者となったのは、芸者小梅の肩入れがあったから。

だが銀之助は、新富町の下っ端芸者蝶次を可愛がって噂となっていた。銀之助の男衆も蝶次につらくあたり、蝶次は思い詰めていた。

『小梅と一重』宇治一重=水谷八重子
そこに現れたのは、一中節(瑠璃の一種)の師匠、一重(水谷八重子)

ことの仔細を聞いていると、銀之助も現れて、思いの丈を話出す。『小梅と一重』(左から)兼吉=田口守、おかね=伊藤みどり、蝶次=瀬戸摩純、宇治一重=水谷八重子、澤村銀之助=喜多村一郎
兼吉=田口守、おかね=伊藤みどり、蝶次=瀬戸摩純、宇治一重=水谷八重子、澤村銀之助=喜多村一郎

そこに怒りを今にも爆発させんばかの小梅が酔って現れた。

銀之助と蝶次が一緒にいるところを小梅が目にすれば、どうなるか⁈
一触即発?! ハラハラ・ドキドキ!

『小梅と一重』假名屋小梅=河合雪之丞
小梅(河合雪之丞)

『小梅と一重』(左から)宇治一重=水谷八重子、假名屋小梅=河合雪之丞_1SS1467s

最大の見せ場は一重の小梅への気風のいい長台詞。心地よい名調子に拍手喝采!気持ち爽快!

筋書きも上手い物語なのはもちろん、絵として眺めているだけでもうっとりとしてしまう美しさ。
心は懐かしく、目見惚れる贅沢な一作となっていた。

『太夫(こったい)さん』三幕。舞台となるのは、第二次世界大戦後、京都の遊郭・島原の妓楼宝永楼。

始まりは、その朝の日常風景から描かれる。そんな様子も、今の我々には新鮮で、面白い。

その朝餉を取る部屋に、裏の印刷所の工員たちのストライキのシュプレヒコールが響いてくる。

『太夫さん』おえい=波乃久里子

おかみのおえい(波乃久里子)

『太夫さん』(左から)善助=田村亮、おえい=波乃久里子

昔馴染みの善助(田村亮)に「なんとか伝統を守りたい」と話すおえい

そこに男が「親の薬代に困っている。妹を太夫にしてほしい」と連れてくる

『太夫さん』喜美太夫=藤山直美

妹の名は喜美(藤山直美)

おえいは喜美を引き受けるのだが、なんと喜美は妊娠していて、産所に連れてこられたと思っていた。

遊郭とストライキという始まりから驚きなのだが、次々に起こる思いがけない展開にびっくりしつつも引き込まれる。
おかみおえいが語る自らの人生には、時代が色濃く映し出され、ほんのちょっと前の日本人の暮らしを思い、今の日本についても考えさせられる。

遊郭ものの華やかさの楽しさあり、心をくすぐるユーモアに笑いながら、見事なオチに涙する。忘れたくない日本の名作、ここにもあった!
公演は10月25日(月)まで、新橋演舞場にて上演。
新橋演舞場10月公演
花柳章太郎 追悼「十月新派特別公演」

◆日程:2021年10月2日(土)初日~25日(月)千穐楽

◆出演:水谷八重子、波乃久里子、喜多村緑郎、河合雪之丞 / 藤山直美、田村亮
(※出演予定の喜多村緑郎は、体調不良のため休演していたが、10月16日(土)昼の部より舞台に復帰 )

公演ホームページ

花柳章太郎 追悼十月新派特別公演