本作は、ピューリッツァー賞戯曲部門を受賞したデヴィッド・リンゼイ=アベアーによる戯曲。愛する幼い息子を交通事故で失った悲しみと向き合いながら、一歩を踏み出そうとする家族の物語を、篠﨑絵里子による上演台本で、小山ゆうなが演出。観客の一人ひとりの心に沁みとおる作品となった。
夫婦を演じるのは小島聖と 田代万里生 。アメリカのライフスタイルであることを除けば、日本での日常と変わらないであろうある家庭の風景が描かれる。
冒頭の妻と、占部房子演じる妻の妹との会話は人物像をくっきりさせてくれる楽しい場面だ。
ただ一つ、ありきたりの日常風景と違うのは、ふたりが幼い息子を亡くして半年だということ。それをわかっていると、何気ない会話の底に沈む思いが察せられてせつなさがあふれ出す。観客が一幕一場から涙をぬぐっている姿があった。
やり場のない悲しみに自分を責めることしかできず、互いを思いやりながら、だからこそ傷つけてしまうこともある家族だが、時にはユーモアが劇場を包み、笑いをもたらす。それが登場人物をより身近に感じさせてくれる。
悲しみの底でもがく家族の前に現れたのは、事故を起こした青年(新原泰佑)。彼の出現が、少しずつ変化を生んでいく。
新原泰佑はストレートプレイは初挑戦。音楽劇「クラウディア」Produced by 地球ゴージャスへの出演も本日発表された。注目の若手俳優だ。
心に沁みる場面や台詞が多くあるのだけれど、なかでも母(木野花)が娘に“大切な人を亡くしてからの時間”を語る場面は特別だろう。
観客の想像力を舞台に乗せて羽ばたかせる演劇もあるが、これは観客一人ひとりの心に灯りを照らし、心の中を探るように進む演劇。
あなたの心の中で照らされた顔は誰だろうか?
本公演は3 月 6 日(日)まで、KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉にて。その後兵庫公演もあり。貴重な公演をお見逃しなく。
ストレートプレイに初挑戦『ラビット・ホール』インタビュー 新原泰佑
『ラビット・ホール』初日コメント
演出:小山ゆうな
この状況の中、お客様と共に初日を迎える事ができ、満席の客席を見ただけで、胸がいっぱいになりました。
ご観劇くださった皆様ありがとうございます。
『ラビット・ホール』は、とても悲しい出来事を抱えた家族とその出来事に関わる青年の話ですが、繊細に日常の会話の中のささやかな事の積み重ねで構築された戯曲です。
その繊細さを客席の皆様と共有し、お客様の呼吸や眼差し、存在によって作品の温度がより確かなものとなり、浮かび上がってきました。
出演者の皆は、初日終わってからも、演技についての議論を重ねていました。
毎公演新鮮な瞬間が生まれると思います。引き続き、無理ない範囲でご観劇いただき、作品を応援いただければ幸いです。
小島聖
この作品は、非常に心に響くセリフが多く、そのセリフの言葉たちがその日の気持ちによって、心への刺さり方が毎回違います。なので毎日新鮮で発見が多いです。
俳優は 5 人だけですが、演出の小山さんが、それぞれが考えていることや感じていることを垣根なく話し合う時間を作りながら稽古を進めてくださったので、少しづつ日常会
話や芝居について言葉を交わすことで皆さんとの距離感が縮まりだんだん家族のようになってきました。そういう舞台上以外での時間がやはりお芝居にも表れるものだと思うので、信じられる 5 人で良かったなと思っています。
幕が開いたことが本当にありがたいと思うのと同時に、千秋楽まで全員が健康でありますように、そして世の中も落ち着いていくことを願うばかりです。
田代万里生
KAAT 神奈川芸術劇場の今年度のテーマは「冒(ぼう)」。そのメインシーズンの最後を飾る作品、『ラビット・ホール』が、ついに開幕致しました。僕らの日常には、変える
ことの出来ない苦しみや哀しみが沢山潜んでいます。人はその痛みとどう向き合い、どう前に進んでいくのか、僕自身もこの作品と向き合う度に、新たな気付きを得ています。
また今回の会場は<大スタジオ>という名称ですが、客席数は約 200 席ほど。役者は体にマイクを身に付けず演じています。生の舞台ならではの繊細な息づかいや感情の揺ら
ぎを、是非体感して下さい。劇場でお待ちしております!
KAAT神奈川芸術劇場プロデュース
「ラビット・ホール」
2022 年 2 月 23 日(水)~3 月 6 日(日)(2/18(金)~20(日)の公演は中止となりました)
KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
作:デヴィッド・リンゼイ=アベアー
上演台本:篠﨑絵里子
演出:小山ゆうな
出演:小島聖 田代万里生 占部房子 新原泰佑 木野花
公演 URL https://www.kaat.jp/d/rabbithole2022 企画製作・主催:KAAT神奈川芸術劇場
兵庫公演
2022 年 3 月 12 日(土) 15 時開演、3 月 13 日(日) 13 時開演 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール