新作ミュージカル『COLOR』が9月5日(月)に新国立劇場 小劇場にて幕を開け、大好評を受けて公演を重ねている。草木染作家の坪倉優介が自らの体験を綴った「記憶喪失になったぼくが見た世界」(朝日文庫)を原作に、シンガーソングライターの植村花菜が初めてミュージカル作品の楽曲を手掛け、稽古にも参加。歌詞・脚本を担当した高橋知伽江、演出の小山ゆうな、出演する浦井健治、成河、濱田めぐみ、柚希礼音が共に稽古場で練り上げたオリジナルのミュージカルの初演だ。
東京での公演半ばとなったある日、公演を終えたばかりの成河と濱田めぐみを迎えて、本作を舞台に乗せての実感と、観客を迎えての手応えを聞いた。
東京公演は新国立劇場 小劇場にて9月25日(日)まで。その後、大阪、愛知にて上演。
―幕開けから10日が経ちました。いかがですか?
成河:大変です!(笑)でも毎日がベストステージで、さらに日々更新しています。
濱田:毎日がっぷり四つに組んでやっている感じです。
成河:公演で楽器を生演奏してくださっていているお二人が素晴らしいです! どんなトラブルがあっても、カバーするように自然に弾いていてくださる。東京公演が終わったら、一度ゆっくりお話ししたいです。
濱田:ホントに進化してます。
成河:安心感を生む進化ですね。
―本作では1組は草太役を浦井健治、その母の葉子役を柚希礼音、大切な人たち役を成河、もう1組は草太役を成河、その母の葉子役を濱田めぐみ、大切な人たち役を浦井健治というかなり珍しい配役での2組の公演です。その点について本番をやってみて、いかがですか?2役を演じる成河さんは、台詞量も二人分で大変だったと思うのですが。
成河:今回はたまたまこういう形での公演になりましたが、本作のプロデューサーにもお願いしましたけど、今後、こういう配役が当たり前にならないといいなと思っています。やるほうは大変だし(笑)、本当は最低二か月は稽古期間が必要だから。でも実際に公演が始まったら、これはきっと健ちゃん(浦井健治)も一緒だと思いますけど、(にっこり笑いながら)草太を1日2回やらなくていいというのは、すごく助かっています。
―濱田さんは、この2チームでの公演をやってみて、いかがですか?
濱田:公演が始まってからは、ちえちゃん(柚希礼音)とはすれ違いなのです。いろんなことを話しながら作ってきて、今どういう状況なのか見えないのは、ちょっと寂しくはあるんですが、すごく仲良しなので、ちょこちょこ連絡とり合って、励まし合っています。2チームというよりも「大きなチームを4人でゴロゴロ転がしている」という感じがしています。
成河:ホントにそうです。だからくどいようですけど「こういう配役が当たり前にならない方がいい」って言います!今回出来たから、他でもやると言うなら「やれるものなら、やってみろ」と思います。(笑) 今回は(小山)ゆうなさんがみんなを1つにしてくれたということもあるし、誰とでも出来たわけじゃないんです。稽古がやり足りないと、本番中でも後ろを振り返ってしまうこともある。でも今回はみんなで話し合いながら作ってこれたので、今は毎日正しく前に進んでいける。すごいことだと思いますし、こんなことはもうないかもしれないから、是非観てほしいですね。
―舞台に立ってわかったことがありましたか?
成河:僕はそんなにミュージカル出演は多くないんですが、初めて「こんなに歌いながら会話ができるものなんだ」と思いました。それはもちろん、いろんな種類、いろんなタイプのミュージカルがあって、もっとモノローグ的に歌う作品もありますから一概には言えないですけど、こんなに毎日、会話ができている歌唱っていうのが初めてで、すごく新鮮で楽しいです。
濱田:(頷きつつ)私は本番が始まってからは、舞台上で(成河が演じる)草太と歌う時間が長くて、母・葉子としてずっと草太を見ているので、成河くんがすっかり息子のイメージになってしまっていて、本当の息子みたいで日々可愛くなってます。なので、今こうやって成河くんと喋っていると「あ、そっか、成河くんってこんな感じだったな」なんて不思議な気がしています。
成河:ホントだよね。それから、お客様の力でピースが埋まってくる部分と、「こんなお話だったのか」という戸惑いもあって、やはり本番って楽しいです。戸惑いがあってこそ理解があると思うから、僕は演じる時も自分が観客で観るときも、その過程を大事にしたいし、お客様の戸惑いも大好きなのです。
稽古の頃は、「この舞台はお客様を置いていくようなところがあって、お客様がちょっとポカンとしてしまうことがあるかも」と思っていて、その先にある余白のようなものをイメージしていたのですが、お客様はちゃんとついてきてくださっている。
濱田:確かに最初は「とりあえず終幕までやってみよう」と思っていましたけれど、お客様がその都度反応してくださっているから、「ちゃんと伝わっているらしい」と感じています。
成河:ただ坪倉さんのお話は簡単じゃない。現在進行形の実話がベースですから、「この人たちのこういう話です」と決めつけたものをやったらいけない。「お客様を泣かせるだけにはしたくない」という思いは、ゆうなさんを筆頭に思っていて…。泣いて浄化されるお客様もいれば、すごく考え込んでしまうお客様がいていいと思っています。
―そういう意味では、初日前の会見で濱田さんはこの作品について、ご自身も、おそらく観客も“自分探しの旅に出るような作品”になるんではないかとおっしゃっていましたね。
濱田:私もこれまで生きた中で、舞台上で葉子さんが経験する感情や状況に似たり寄ったりのことがあったりするんです。舞台上で葉子さんがそういう感情や状況になった時、足がすくむぐらい怖くなるときがあって「私はこういう感情がものすごく苦手なんだ」「私にはこういう恐怖心があったんだ」と気付いてゾッとすることがあります。
そして、葉子さんは草太と共に生きながら、見えないところで常に泣いている…辛さを必死に堪えてがんばっているので、私も常に両面を抱えて舞台に立っています。「人間って一色で生きているんじゃないんだな」と、いろいろな考えが自分の中で響き過ぎてしまって「メンタルが危うくなるな」と思ったときもありました。それだけのことを葉子さんは経験しているので。
―観客も程度や状況は違えども、響くところが多いでしょうね。
濱田:そうなんですよ。
―私も冒頭の葉子さんの歌で涙腺が崩壊してしまいました。
濱田:初っ端からトップギアで始まるので、たまらないですよね。実は長さではなく濃さが強烈なんです。
成河:むちゃぶりって言っていいぐらいですよ。だから…、僕と健ちゃんはほとんどの日、一日2回、めぐさんとちえちゃんは変わりばんこで舞台にあがりますよね。それが毎日毎日で、僕も時間に追われたりもする。そんな本番直前に僕が草太役で舞台袖でスタンバっていると、すっとめぐさんのお母さんが舞台に入ってくる。座ってスタンバイしているめぐさんに、ブラックホールのような質量というか熱量が見えるんですよ。 “一回一回の公演にすべてを賭ける”のは、役者として当たり前のことではあるけれど、でもそれがホントに目に見えるんです!僕はそれに何度、役者として救われたことか!トップギアから始まる母さんにグッと背中を押されて、ほとんど日々のように救われています。
濱田:こちらこそですよ、ホントに。
―これまでにも本になり、ドキュメンタリーやドラマになってきた坪倉さんのお話を、今回は演劇で表現します。成河さんは初日前の会見で、このお話を演劇で表現することのメリットとデメリットを日々考えているとおっしゃっていました。
成河:この作品の何が特別かといえば、実在の坪倉さんのリアルな30年を追体験していくことです。僕らは本を読んだり、いろいろとお話を聞いたりしていますが、本当はどんなだったのか、やはり想像するしかない。坪倉さんが事故に遭われた直後の記憶喪失の状況は、傍目からみたら一体どういうことになっていたのか、非常にわかりづらい状態だったようなんです。
それを演劇にして短い時間で伝えようとしても、実は伝わらないです。だって、それで伝わるくらいなら、現実にその当時にもっと理解してもらえたでしょうから。坪倉さんの本を読んでいて、それがしっかり書き込まれていると思いました。
そんなわかりづらい様子を演劇にする。ドラマ仕立てで、どう表現するのか。それが今回のとても大きなテーマです。そう簡単にわかっちゃいけないし、わかることじゃない。そうだったかもしれないし、そうじゃなかったかもしれないと思いながら、健ちゃんと僕の2つのアプローチがあって、2つは違った形だと思います。このふたりの違いをお客様は楽しまれていると思います。でも「そのどちらも正解であり、どちらも正解じゃない」という気持ちは、ずっと持っています。
そこで「演劇ってどういうメディアなんだ?」と考えたときに、とても難しくなってきます。でもそれを考えながら、毎日実践できていることが、とても幸せだと思っています。
―今のお話を考えながら、2チームをもう一度、見たくなりました。では最後に、これから観る方へ、そしてもう観た方へもメッセージをお願い致します。
濱田:私たちは無心に演じて、違うことをやろうとしているわけではないのですが、観る方が観る度にいろんな発見をしてくださっている気がします。観る度にいろんな色を見つけて頂けるといいなと思います。
成河:ほんと!良い喩えを思いつきました!お客様はそれぞれ自分の画用紙を持って客席に来て、僕たちが色を入れるんですけど、画用紙の色も質感も状態も、一人ひとり違っている。でも、その違いをお客様自身は気が付いていないんです。だから僕たちにとっても、毎日がすごい体験になる。日によって違うかどうかは、いろいろですけれど、お客様が今日持ってきた画用紙に色をのせて、いろいろなことを考える。それが演劇の一番よいかたちだと思うので、いつでもそれを試しにミュージカル『COLOR』に来てほしいと思います。
濱田:素敵な喩えです。
―本当に『COLOR』ですね。ありがとうございました。
ミュージカル「COLOR」初日前会見
新作ミュージカル『COLOR』
<キャスト (五十音順)>
浦井健治 成河 濱田めぐみ 柚希礼音
<スタッフ>
原作:坪倉優介「記憶喪失になったぼくが見た世界」
音楽・歌詞:植村花菜
歌詞・脚本:高橋知伽江
演出:小山ゆうな
編曲・音楽監督:木原健太郎
振付:川崎悦子
美術:乘峯雅寛
照明:勝柴次朗
音響:山本浩一
映像:上田大樹
衣裳:半田悦子
ヘアメイク:林みゆき
ボーカルスーパーバイザー:ちあきしん
演出助手:守屋由貴/野田麻衣
舞台監督:加藤高
<東京公演>
期間:9月5日(月)~9月25日(日)
会場:新国立劇場 小劇場
主催・企画制作:ホリプロ
<大阪公演>
期間:9月28日(水)~10月2日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
主催:サンケイホールブリーゼ
<愛知公演>
期間:10月9日(日)~10月10日(月祝)
会場:ウインクあいち
主催:中京テレビ放送
公式HP= https://horipro-stage.jp/stage/color2022/
#ミュージカルカラー