Open Close

「お笑いの基本が詰まった古典に、プルカレーテ演出の魔法がかかっている」舞台『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』 竹内將人 インタビュー 本日11/23開幕(水・祝)

ルーマニアの鬼才と言われるシルヴィウ・プルカレーテによる演出で、東京芸術祭2022 芸劇オータムセレクション『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』が上演される。
プルカレーテ演出作品に出演するのは『リチャード三世』に続き2作目となる佐々木蔵之介が、モリエール作のコメディで吝嗇で強欲なアルパゴンを演じる。

今回Astageにご登場頂くのは、オーディションで出演が決まったというアルパゴンの息子・クレアント役を演じる竹内將人。

IMG_5326

 

子役として博多座で多くの舞台に立ち、東京藝術大学声楽科、英国王立音楽院修士課程ミュージカル科を卒業。帰国後にミュージカル『レ・ミゼラブル』(2021年)マリウス役をオーディションで獲得し出演。その後も、『ピアフ』、ミュージカル『ガイズ&ドールズ』と大舞台で目覚ましい活躍を見せる若き俳優だ。

『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』のために劇場入りしたばかりの竹内に、本作の魅力と意気込みを聞いた。

IMG_5488

―今の状況は、いかがですか?
稽古場で軸をしっかりと作りましたが、プルカレーテさんの独創的な考えに全員が完全に追い付けているかというと、まだかもしれません。先輩方の話では、舞台稽古でライティングもかなり変わるそうなので、これからどう枝葉を伸ばし花を咲かせるのか。期待と不安が入り混じっています。

―今回はモリエールの古典を、プルカレーテさんが演出されますね。
翻訳作品なので、日本にはない欧米の文化があり、俳優としては、それを日本のお客様に届くように自分の中で噛み砕いて表現するのが面白いところのひとつです。
プルカレーテさんが最初にお話しくださったのが、この作品は(16世紀頃)イタリアで生まれ、今も続くコメディア・デラルテの影響を受けているということ。コメディア・デラルテというのは、独特の個性を持つ類型的なキャラクターが、決まった設定と落ちがある即興的なコメディです。僕も最初に台本読んだ時に、まっすぐに笑いを取る、わかりやすいコメディだと感じました。これをプルカレーテさんがどう演出するのかと楽しみでした。

―お稽古はどうでしたか?
めちゃくちゃ楽しいです!最初に「1回見せてください」と言われてやってみるのですが、すぐにプルカレーテさんから「このセリフでこう動いてください」「ここのセリフはこういう哲学なんです」と細かく解説があり、実際にプルカレーテさんがやって見せて下さるときもあって、それがすごく上手なんです。出演者たちも「プルカレーテさんの芝居が一番上手い」と言っていたほどです。(笑)
そして例えば「1幕1場から5場までやりましょう」とざっと演出をつけて下さったら、2回目の稽古では1回目の演出とはまったく違う演出をされたりするんです。俳優は最初の演出に沿って感情の移り変わりや、プルカレーテさんの意図を考えて突き詰めて稽古場に持っていくのですが、1回目で突き詰め過ぎていたりすると、新しい演出の時にも1回目の癖が抜けなかったりする。でも、1回目の演出が自分の考えと合わなくて良いパフォーマンスができなくて悔しい時もあり、新しい演出がパチンと自分にはまったりする時もある。演出はいろいろ変わりますが、考えた分だけ役への理解が深まり、無駄にはならない。その全てがあって、結果的に役が出来上がります。「プルカレーテさんはそれを全部見越してやってるのかな?」と思うと「プルカレーテさんはすごい」と思いますし、ご一緒できるのがとても嬉しいです。プルカレーテさんと先輩方が生み出す化学反応を見るのも本当に楽しいです!

IMG_5528

―プルカレーテ演出のみどころはどこでしょうか?
本作は1668年に発表された古典でお笑いの基本が詰まっていて、今読んでも面白いんですけど、そこにプルカレーテ演出という魔法がかかっています。アルパゴンの屋敷での1日を描いたお話ですが、その屋敷にファンタスティックで想像を超えた世界が広がっています。
さらに、プルカレーテさんが登場人物に俳優それぞれへの当て書きのようなバックストーリーを作ってくれて、それがまた素晴らしいんです。

―稽古中に驚いたプルカレーテ演出をもう一つ、教えてもらっていいでしょうか?
時空を超えてシーンを動かす手法です。物語を進めるのは俳優の台詞ですが、場面の雰囲気を音1つで一瞬で変えてしまう。例えばカラスのなき声ひとつで。「やはり鬼才と言われる方だな」と思いました。

―竹内さん演じるクレアントは、どんな役ですか?
蔵之介さん演じるアルパゴンが、ドケチで怒りっぽいモンスターのような男で、僕が演じるクレアントは、そんな親父に養われてきた息子です。お金はあるのに使えず、ずっと抑圧されていて、人間的にもあまり成長できなかったようで繊細で子供っぽい。でもマリアーヌと出会って恋をして、少しずつ相手から学んで成長していきます。

IMG_5476

―佐々木蔵之介さんとは?
クレアントとアルパゴンは、喧嘩して怒鳴り合う芝居が多いのですが、蔵之介さんは老人がイライラして怒りがふくらんでいく様が完璧で、その怒りが老いを超えて爆発する瞬間がすごいのです。稽古中の蔵之介さんはアルパゴンにしか見えないので、休憩中にカツラを外して背筋を伸ばして歩いている姿を見ると逆に驚いてしまいます。(笑)
それに、アルパゴンの台詞の量が尋常じゃない。蔵之介さんご自身も稽古中に「台詞、長い!」と言ってしまうほど長いし多い。だからとても大変なのに、僕が演技で迷っていると、すぐに声かけてくれてアドバイスをくださる。その時の「こうしたらええねん」という関西弁にすごく人間味が感じられていいんです!ご自身はストイックですが、周りの人には優しくて本当に素晴らしい座長さんです。

「守銭奴 ザ・マネークレイジー」の公開ゲネプロ

―これまでミュージカル作品に多く出演されてきた竹内さんが、演劇で活躍されてきた出演者の方々とご一緒してみて、いかがでしたか?
以前、大竹しのぶさんが主演された『ピアフ』に出演させて頂いた時に芝居の楽しさを教えて頂きました。その時も今回も、素晴らしい俳優は台本の読み合わせの段階でもう役として存在しているように感じました。ご本人と役との境目がなく感情が一致していて、毎回同じ反応しているわけではないのに、声の感じや受け答えがいつも自然で。
今回も個性的で演劇哲学や演技論をずっと考え続けてこられた出演者ばかりなので、僕が「これはどう思われますか?うまくいかなくて…」と尋ねると、みなさんがすぐに返してくださる。それが結論を下さるのではなくて、僕が1歩前に進むためのヒントや別の方向に目を向けたり、自信をもらえるアドバイスだったりするんです。それが嬉しくて有難いです。

―いろんな方からたくさん情報をもらって、凹んだり、混乱したりしませんか?
よく山頂を目指すにもいろんなルートがあるという例えがありますが、頂いたアドバイスをよく考えると「このシーンでこういうものを見せたい、お客様に伝えたい」という思いは同じなので、その結果をいろいろな方向から見ているだけで、結局同じことを言っているのかなと思うことが多いです。
そして船を間違った漕ぎ方をしていても前には進むことはあるでしょうけれど、素晴らしい先輩方が下さる言葉は、お芝居としても人間的にも核心を突いているので、そういう言葉をいっぱい貰って、どれが一番自分の役に合うか、自分に近いか、自分で考えていくのが、今の僕の俳優としての進み方だと思っています。そして将来は素晴らしい先輩方のように0から1を作れるようになりたい。ミュージカルは僕の芯になる部分ですけれど、今はすごく芝居が楽しい。今後も芝居もやっていきたいとすごく思っています。

IMG_5533

―そういう考えになれたきっかけは?
現役で東京芸大声楽科に受かった時には、周りからも「才能あるんじゃない!」と言われ、自分でも「有るかも」と思っていましたが、英国王立音楽院に留学して、歌についても芝居に関しても別格の才能を持つ人を見て「自分にはそういう才能は無いんだ」とわかりました。そして「マイペースでやっていては、この才能ある人たちとは競えない」と勉強への意欲もスピードも内容も上げて、精神的にも強くなりました。

―そこで諦めて別の道を選んでしまう人もいると思いますが、そうしなかったのは?
僕の唯一の取柄は「人前に出るのが好きなことだ」と思います。そして「死ぬまでに、この人たちより感動を与えられるパフォーマーになってやる」という思いです。負けず嫌いなんです。

―そこですごく努力をされたのですね。
でもちっとも苦労とか努力だと思いませんでした。「今日のあの歌、すごかったな。なぜあんな表現になったのだろう」とか、寝ている時以外はずっと考えていて「次はこういう練習してみよう」「こういう読み方してみよう」と取り入れてみるような毎日で。ただその頃はその他の時間が無かったことだけは覚えています。

―今後の野望を教えてください。
野望ですか?!ブロードウェイとウエストエンドの舞台に立って、トニー賞とローレンス・オリヴィエ賞を取りたい!大きな夢ですが、負けず嫌いなんで。(笑)

shusendo_main

東京芸術劇場2022
芸劇オータムセレクション
『守銭奴 ザ・マネー・クレイジー』
2022年11月23日(水・祝)~12月11日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
作:モリエール
翻訳:秋山伸子
演出:シルヴィウ・プルカレーテ
舞台美術・照明・衣裳:ドラゴッシュ・ブハジャール
音楽:ヴァシル・シリ―

出演:佐々木蔵之介 加治将樹 竹内將人 大西礼芳 天野はな 茂手木桜子 菊池銀河 安東信助
長谷川朝晴 阿南健治 手塚とおる 壤晴彦

宮城公演:2022年12月15日(木) 開演19:00
会場:えずこホール(仙南芸術文化センター)大ホール

大阪公演:2023年1月6日(金)開演18:30、1月7日(土)開演14:00、
1月8日(日)開演13:00、9日(月・祝)開演13:00
会場:森ノ宮ピロティホール

高知公演:2023年1月14日(土) 開演14:00
会場:高知県立県民文化ホール オレンジホール

https://www.purcarete-fes.jp/shusendo