2023年に50周年を迎えるPARCO劇場が、2023年3月12日(日)~4月2日(日)にハイバイ主宰、岩井秀人の最高傑作『おとこたち』をミュージカルで上演する。(大阪、福岡 公演あり)
描かれるのは、4人の男の人生悲喜劇。
岩井は『世界は一人』(2019年)でタッグを組んだ前野健太の音楽と、ユースケ・サンタマリア、藤井隆、吉原光夫、大原櫻子、川上友里、橋本さとし という豪華キャストで、どんなミュージカルを生み出すのか。
岩井秀人とユースケ・サンタマリアが揃って取材に応じ、ミュージカル『おとこたち』の魅力を語ってくれた。
岩井秀人 ユースケ・サンタマリア
―岩井さんが、『おとこたち』をミュージカルにしようと思われた理由は?
岩井:ストレートプレイでもミュージカルでも、しっかり描ければよいと思っていましたが、ミュージカルが与える感動や衝撃の最高値は圧倒的に思えて、いつかミュージカルをやってみたいとは思っていましたが、『レ・ミゼラブル』や『ミスサイゴン』のように社会的な大きなテーマが無いとミュージカルにするのは難しいのかなとも思っていました。
それが吉原光男さん、大原櫻子さんが出演されていた『FUN HOME ファン・ホーム ある家族の悲喜劇』(2018年 以下、『FUN HOME』)を観て「大きな歴史的なテーマでなくても、ある家族やカップルに起きた小さな話でも、歌によって広げることができる」「歌、音楽によって、一人の心の中で起きた葛藤を大劇場でも届けることができる」と感じて、ミュージカルを作ろう思いました。
僕は慎重な方なので、何度か再演をしていて評価も高い『おとこたち』を上演作に選びました。歌にするとおもしろいと思います。
ユースケ:『FUN HOME』の影響は大きかったんですね。その出演者のふたりが、今回もキャスティングされていますから。(笑)
岩井:そうですね。吉原さんと櫻子ちゃんは、いわゆるミュージカルの歌い方もできますが、『FUN HOME』ではそうではなく、台詞から気持ちと一緒にだんだんと音楽になっていく様に歌っていたのも、本作に出演して頂く理由です。二人に尋ねたところ、『FUN HOME』では楽譜を渡されて「これを歌ってください」というかたちではなく、翻訳したままの歌詞でやるのか、演出家と相談しながら進めてたということだったので、今回もそういう作り方で、歌う人たちの体感を優先して作っていきたいと思っています。
―前野健太さんに音楽を依頼されたのは?
岩井:『世界は一人』(2019年)でマエケン(前野健太)とタッグを組んだことも大きいですね。僕はたくさんのミュージカルを観ているわけではないのですが、なんとなく日本にはオリジナルミュージカルが少ない気がしています。マエケンの音楽は“日本”や“東京”という雰囲気やある種の“懐かしさ“がある音楽だと思います。そして、歌詞を渡したら、すぐに音楽にしてしまえるという彼の素晴らしい能力も頼りにしています。
―ユースケさんは岩井さんからのオファーをどう受け取られましたか?
ユースケ:演出家や監督でなくキャスティング担当者からのオファーという時もありますが、今回は岩井くん自身から熱心なお手紙を頂きました。以前、『その族の名は「家族」』(2011年 以下『家族』))でご一緒したときの彼の演出方法や舞台への熱、話の内容など全部が印象良かったのをよく覚えています。役者にすべてを任せ過ぎない感じの岩井くんの演出が、僕は好きなんです。あの感じがまた味わえるかなと楽しみにも思いました。
脚本を読んだ感想も前回と同じで、よくわからないところもたくさんあるのですが「なんだか捨て置けない話だ」と感じて「やってみようか」と思いました。
加えて今回は出演者の人数が少ない。しかもミュージカル。これまで、あまりやったことがない感じの作品であり、PARCO劇場が好きですし、タイミングも合って、全部が上手くはまりました。
―岩井さんからユースケさんへ期待は?
岩井:演じて頂く “山田”という役は、登場人物の中で唯一、大きな物語に飲み込まれない人で、他の人のことは楽しく話すのに、自分の話になると「いいよ、いいよ、俺のことは」と言う人。そういう現代にはたくさんいそうな人をユースケさんに演じてほしいと思い、「よろしくお願いします」と手紙を書きました。
『家族』の前にKERAさんの作品(『東京月光魔曲』2009年)で一度ご一緒した時も、テレビで見ているときも、ユースケさんはTVの前にいる人たちに対して発するだけでなく、現場にいる方たちからも何かを感じて、それらを瞬時に集約して、短い言葉で発する、すごい能力を持った人だと感じていたので『家族』のオファーをしました。『家族』の時は震災直後でいろいろとナイーブになっていた時期でしたが、公演の前説をお願いしたら、震災を絡めた話で笑いをとってて「この人、本当にすげえ!!」と思ったことも大きいです。
ユースケ:舞台で前説ってあまりないでしょ?『家族』の時は、開演前に「どうも、皆さん、こんにちは!」と舞台に出て行って前説をして「では、始めます!」と芝居に入っていくんですよ。衝撃でした。でも逆に癖になるというか…。
岩井:ただ「役人物だけを演じてください」とユースケさんに出演してもらうのは、もったいない気がします。観客の目の前で役になったり、役ではなくなったりして、ユースケさんなのか、役なのか、よくわからなくなって、でも芝居が始まって役になった時に、その人の人生でもあるように見えてくる。そこが演劇の面白いところだと思うので。
―山田という役に向き合うユースケさん。人生の幸せについて考えたことはありますか?
ユースケ:僕は自己肯定感が低くて「俺なんか」と考えがちなので、山田にはシンパシーを感じます。日常では幸せを感じるよりも「まだ、俺はこんななのか」と思います。このくらいの年齢になれば、もっと達観しているかと思っていましたが、自分は30代前半頃とまったく変わってなくて「まだまだ子供だな」と思いますし、ずっとこのままなんだろうなと思います。ただ、こういう年齢になって、コロナ禍にもなって「俺はどちらかといえば幸せなんだろうな」と、ふと考えることはあります。
―岩井さんが『おとこたち』をミュージカルにするために特に意識されていることは?
岩井:俳優に台本と歌詞を渡して、マエケンと僕とで下地を作った曲を3人だけで一緒に聞いてもらっています。例えば吉原(光夫)さんと(橋本)さとしさんだと、ミュージカルでのすごい蓄積もあるからか、その場で歌の旋律が作り出せます。メロディがその場で彼らの中から生まれたものになる。それを聞いてマエケンが「こういう感じなんだな」と固めていきます。
マエケンは“その人だから出てきたもの“をとても喜んで、その人がやる意味を引き出してくれる。彼だからそういう作り方ができるのだと思います。
ユースケ:僕も今日、それに参加して、たくさん「いいですね~」と言ってもらいました。(笑)
岩井:稽古場でも変わっていくとは思いますが、 “その人がその言葉に出会ったときに生まれる歌”が稽古や本番を重ねて“その人が歌う必要になる歌“になっていくと思います。
そういう過程を一緒に踏んで、マエケンとの共同作業でしか作れない歌が出来上がる。マエケンと仕事をしたいと思う大きな理由です。
―では、ユースケさんの曲も出来始めましたか?
岩井:ユースケさんは歌う曲は少なくて、ラップパートです。ただ、きれいなリズムに乗るラップではなく、“話している“と“リズムに乗る”の間、音楽になる手前みたいなところをウロウロしてもらいます。それが山田のポジションなんです。
他の役は人生に巻き込まれ、大きな葛藤を持ったり、ひどい裏切りに遭ったりして、 “言葉を話している“から、やがて感情が溢れ出るのと同じように、音楽が滲み出していくように”歌になる“。山田にはそんなに大きなことが起きないから、漂うしかない。
ユースケ:「ラップをやってもらいます」と言われていたので、所々にラップが入っているのかとおもったら、僕のパートはほぼラップでした。ラップはラップとして、歌も歌わせてほしいと話したら「1つだけあります」と言われまして。(笑)
岩井:そして、今日でもう少し歌が増えたね。
ユースケ:でもまだ、これもどうなりますかね。
―歌詞も曲もまだまだ変わるんですね。
ユースケ:岩井くんの演出は、公演が終わるまで終わらないんです。今回は歌もあるので、ますます終わらないと思います。『家族』では、岩井くんが初日から千秋楽まで客席の3列目位に座ってずっとメモとっている。(舞台に上がると)まずそれが目に入って「ダメだったのかな?」と一瞬冷静になって。(笑) それがプレッシャーでもあり、醍醐味でもあり、不思議な感じでした。いつもあんな感じですか?
岩井:普通は一番後ろの席です。あの時は円形劇場だったから、ですかね…
ユースケ:今度も一番後ろですよね?(笑) 岩井くんの演出は、完成形を目指しているのとは違う、その時のベストを探っていく、ずっと作り続けていく舞台。よく「同じ舞台はない」と言いますけれど、本当の意味で毎回違う公演になると思いますよ。
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ『おとこたち』
脚本・演出:岩井秀人 音楽:前野健太
出演:ユースケ・サンタマリア 藤井隆 吉原光夫
/大原櫻子 川上友里/橋本さとし ほか
演奏:pf. 佐山こうた b. 種石幸也
公式サイト:https://stage.parco.jp/program/otokotachi
ハッシュタグ: #ミュージカルおとこたち
【東京公演】
公演日程=2023年3月12日(日)~4月2日(日)
会場=PARCO劇場(渋谷PARCO8F)
入場料金(全席指定・税込) ¥11,000ほか ※未就学児入場不可
■お問合せ=パルコステージ 03-3477-5858(時間短縮営業中)
【大阪公演】
公演日程=2023年4月8日(土)~4月9日(日)
会場=森ノ宮ピロティホール
入場料金(全席指定・税込) ¥11,500 ※未就学児入場不可
【福岡公演】
公演日程=2023年4月15日(土)~4月16日(日)
会場=キャナルシティ劇場
入場料金(全席指定・税込) S席¥11,000 A席¥8,000 B席¥5,000
※未就学児入場不可
<ユースケ・サンタマリア>
ヘアメイク:池田真希
スタイリスト:藤本大輔(tas)
衣裳協力:ATON(ATON AOYAMA/03-6427-6335)
<岩井秀人>
ヘアメイク:須賀元子
スタイリスト:藤谷香子
衣裳協力:Phablic×Kazui