太宰治がシェイクスピアの『ハムレット』を翻案して書き下ろした長編小説『新ハムレット』が、明日6月6日(火)より6月25日(日)までPARCO劇場にてPARCO 劇場開場 50 周年記念シリーズ 『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』として舞台化される。
出版直後から注目を集めながら、上演されたことが少ない太宰治初の長編小説『新ハムレット』を、第30回読売演劇大賞最優秀演出家賞を受賞した気鋭の五戸真理枝が、語り継がれる物語として蘇らせる。
ハムレットを演じるのは、ミュージカルにストレートプレイに、映像作品にと大活躍中の木村達成。本作への思いを語ってもらった。
―本作のオファーがあった時はいかがでしたか?
「シェイクスピア作品に触れなきゃいけないとしたら、今年30歳になる自分が出来る作品は何だろうと考えたら『ロミオとジュリエット』『ハムレット』なのではないか」という話をしていた時に、ちょうどこのお話いただいたので、とてもタイムリーでした。太宰治さんが語り直した『ハムレット』ですが、台本を読ませていただいて「これは絶対に自分がやらなければならない」と思いました。もちろん嬉しい気持ちもありますが、それ以上に「やらなきゃいけない」という使命感が強かったです。「この作品をやらない」という選択肢がほぼなかったです。
―本作の台本を読んだ印象はいかがでしたか?
ハムレットは「本当によく喋る子だ」と思いました。常にネガティブな発言をして、プライドがあるのか無いのかわからない。 でも正直なところを、胸の内をちゃんと晒している。「強い子なんだな」とは思いました。
(ハムレットの台詞の)「ああ、僕は、愛情に飢えている」という言葉は、僕がずっと言っていたことで。自分に余裕がなくなったり、疲れてきたりとかすると、自分を中心に地球が回ってるぐらいの感覚になるじゃないですか。ハムレットは悲しみに耐えて、本当に苦しかったのかと思うと、自分にちょっと似ていて。でも、それを言って、誰かに「いや、違うよ」なんてことも言われたくもなくて、「いやいや、僕はこうだから」と、常に自分の存在証明みたいなことをしている感じが、自分の考えと合っているなと思いました。
―役作りについては?
役作りに関しては考えていません。それは稽古前だからとかでもなく、おそらく本番に入る前もそういう答えになっていると思います。変に背負いすぎてしまうと、リアリティや自分の持つエネルギーみたいなものを発散できない気がしているので、役を演じるにあたってあまり考えないようにしてます。「これだけ作ってきました」と思うようになりたくない。それはこのハムレット役に限らず。 数年後には考えが変わっているかもしれませんが、今の自分にできることに常に挑戦し続けたいから「自分はこういう役作りだ」「こういう作品への取り組み方をしてきました」となると、見える景色や感じ方が限られてきてしまうような気がしています。何も考えずに、台詞だけに力を込めてやっていけたらいいなと思うからこそ、役作りはあまりしないようにしたいです。
―本作に限らず、舞台に挑むときには、そう考えることが多いのですか?
ここ1、2年だと思います。
―心境の変化があったのですか?
違う景色を見たくて、考えて登り詰めた先に見える景色って、確かに自分の求めてたものかもしれないけど、想像した景色よりも、まったく別の景色が見たい。決めない方が面白いし、そんなものを背負わない方が、フットワークが軽かったりするから、いろんな着眼点が見えてくる、見る場所も違ってくる。できるだけ縛られずにやりたいと考えてみたら、そうだっただけなのですけれど。
―さて、本作演出される五戸真理枝さんの作品はご覧になったことがありますか?
ごめんなさい、僕は観劇が苦手で…。
―五戸真理枝さんとお話された時の印象は?
仮の台本を読んで抱える不安が大きくなってきていた時に、そんな不安はさらっとぬぐってくださるような素敵な方でした。
―その不安とは?
「どう演じるか?」ではなく、これには共感できるけれど、目から入る視覚的なもの…こんなに文字が多くて、同じようなことをしゃべっている。それをやっている自分が想像できていなかったのですが、そんな不安は解消してくださったなと思いました。
―今までにも女性の演出家さんと組まれたことがおありになると思いますが「女性演出家ならではだな」と思われることなどありますか?
あまり考えたことなかったのですけれど…、女性の演出家と話すのは好きかもしれないです。単に異性だからとかいうことではなくて、男性が見えているものと女性が見えているものは違う。「そんな考え、僕にはございませんでした!」というようなところを突いてくださるイメージが強い。僕も単純な人間ですけれど、自分を猛獣に例えたら、女性の演出家は、猛獣使いになってくれる方々だなと思いましたね。(笑)
―稽古場でのキャラクターを踏まえた共演者の方たちとの関係づくりのために心掛けていることは?
どの現場でもやっていますが、一番は“猫を被らないこと”ですかね。自分を出すことで、自分を理解してもらうスピードが早ければ早いほど、物おじせず相手から飛んでくる言葉をキャッチしやすくなる。僕は器が大きいわけじゃないですけれど「自分はこんな人間なんですけど、よろしくお願いします」という存在証明だけはできるように心がけてるつもりです。
意図してやってるわけではなくて、単純にそれが自分としても楽だからでもあるし、結果的にいいものを招くからでもあります。
―話が戻ってしまいますが、先ほど「観劇が苦手」とおっしゃっていましたが、なぜでしょうか?
肉体的にお尻の肉が全然なくて、どんなにふかふかの椅子に座ろうが、長時間は座っていられないというのが事実です。(笑)お芝居を見たらやりたくなっちゃうということも、もちろんありますけれど。
―俳優としてインプットするという意味では、1つ1つの現場がインプットであり、アウトプットになるのでしょうか?
最近、インプットするのはプライベートでだけかな…。僕は演劇の技法やテクニックと言われるものは、あまり信用せず、その時に出た感情で全力でやっています。
「完璧な人間ではいたくない」という思いが自分の中にあります。どこかに脆さがあって、何かをしでかしてしまうような危うさがある人間であること。それはどの役にも魅力的に繋がるポイントで、人間としての魅力であり「結局、あいつに目がいっちゃうんだよね」というところでもあると思うので。そういうところを意識して、僕はこれからもギリギリの、背水の陣みたいなところで、今までも、これからもこの仕事をやる。「みなさんが思ってるような完璧な人間ではないんです」と、お客様に言いたいです。
―最後にメッセージをお願い致します。
本作が、PARCO 劇場開場 50 周年記念シリーズであることも、自分の“やらなきゃいけないこと”の中に入っていた作品が、そのタイミングで舞い込んで来たことも奇跡ですし、やっぱり 生まれてきたことが奇跡ですし、これから行われることも奇跡。そのひとつひとつをちゃんと繋ぎ合わせて作品を作っていくことも奇跡なので、その舞台上の奇跡を、ぜひPARCO劇場に足を運んで、ご自身の目で確かめに来てください。
PARCO 劇場開場 50 周年記念シリーズ
『新ハムレット~太宰治、シェイクスピアを乗っとる!?~』
[作] 太宰治
[上演台本・演出] 五戸真理枝
[出 演] 木村達成 島崎遥香 加藤諒 駒井健介/池田成志 松下由樹 平田満
[公演日程] 2023年6月6日(火)~6月25日(日)
[会 場] PARCO 劇場(渋谷PARCO 8F)
[公式サイト] https://stage.parco.jp/program/shin-hamlet
[ハッシュタグ] #新ハムレット
[お問合せ] パルコステージ 03-3477-5858
https://stage.parco.jp/