音楽座ミュージカルの旗揚げ作品である『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』(以下、『シャボン玉』)が、初演から35周年となる2023年10月から12月にかけて、大阪・東京・広島で上演される。
音楽座ミュージカルで数多くの再演を重ねてきたこの名作は、2020年1月に東宝によりシアタークリエで上演され大好評を博した。改めて作品のすばらしさが広く知られることになり、音楽座ミュージカルに多くの再演希望が寄せられた。
その声に応えての今回の上演では、声優・歌手として活躍する畠中祐が、本作の主役・三浦悠介役(Wキャスト)でミュージカル初出演を飾る。畠中祐にとっては、父・畠中洋が1993年に同役を演じ、母・福島桂子も1991年に折口佳代役を演じたという縁の深い作品。
8月半ば、すでに稽古に参加しているという畠中祐が、本作の魅力と舞台へかける思いを語ってくれた。
≪音楽座ミュージカル『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』STORY≫
作曲家を志す青年・三浦悠介は、スリとして育てられた孤児・折口佳代と遊園地の迷路で出会う。そして悠介は幸運にも作曲家デビューが決まる。「いつの日か夢はかなう」-悠介の言葉は、佳代に忘れかけていた夢を思い出させてくれた。しかし佳代には、本人すら知らない秘密があった。
軽やかなラブストーリーと思いきや、宇宙人も登場する、壮大な世界観をもつ愛の物語。
*平成元年度文化庁芸術選奨文部大臣新人賞/第25回紀伊國屋 演劇賞・個人賞/第28回紀伊國屋 演劇賞・団体賞
―声優活動からアーティスト活動へ、そして2021年から舞台にもご出演されていらっしゃるのですね?
僕は大学で演劇を専攻して、今思うと小劇場色の濃い演劇教育を受けたと思います。その頃の友人と2021年に、土日の2日間だけ二人芝居をやりました。声優の仕事をしながら舞台の稽古を組み入れるのは、普通はとても難しいのですが、その友人がスケジュールを組みやすいようにと二人芝居で土日だけの上演にしてくれ、夜中などに隙間を縫って稽古をしました。上演開始の30分前から舞台に役者が立って何かしらやっていて、そこから客電が絞られて芝居が始まるという小劇場みたいなことをやっていたので、1公演終わると15分だけ休憩したら次の公演のために舞台に出るというハードな芝居になりましたが、でもそれがとても楽しい経験でした。普段は画面に向き合っての声だけの芝居だったので、手を握った時の温もりだけでこんなにあったかい気持ちになれるんだとか、身体が語ってくれる真実や圧倒的な情報量の多さが新たな発見になり、それ全部が自分の体験になっていくので「これは芝居をやるべきだ」「声の芝居をやるにしても、芝居というものをやるのであれば、板の上に立つべきだ」と思いました。
―その後、朗読劇へのご出演も?
朗読劇は以前から出演していました。掛け合いがすごく好きで、そのために声優をやっていると言っていいくらい好きなんです。朗読劇では、それが生になって逃げ場がなくなるので、どんどんやった方がいいとは思っていたのですが、友人とのストレートプレイをやってから、人と向き合う演劇もとってもいいなと思い始めました。
―そして、ついにミュージカルですね?昔『シャボン玉』をご覧になられましたか?
生ではなく、ビデオで小さな頃から見ていましたし、よく親が♪ドリームを歌っていました。ただそれも、何の歌なのか、どんな物語なのか、ぼんやりとしかわかっていなくて「ものすごく面白い作品だ」という漠然とした記憶だけが残っていました。
ちゃんと見たのは、高野菜々さんのアルバム「プリズム」発売イベント(2022年2月)に僕がゲストで出演し♪ドリームも歌うことになった時。「それなら全部見ておかなきゃ」と、母が出演している1991~92年ぐらいの公演映像を見ました。それがすごく面白かった。そのイベントの後、音楽座ミュージカル代表の相川タローさんが「うちのに出る気ない?」と誘ってくださったので「やります!」と答えました。
―声優のお仕事とのスケジュールの両立は大変だったのでは?
これが意外にも、タローさんと僕の所属している事務所(賢プロダクション)の社長が幼馴染で親友だったので、事務所に無理をお願いしやすかった。(笑) 賢プロダクションに所属する俳優が音楽座ミュージカルさんに出演していたり、音楽座ミュージカルの俳優さんが賢プロダクションに預かり所属していたりと交流もあったんです。念願の作品に、みんなの協力があって出演できる。とっても嬉しいです。
―お父様もお母さまもご出演されていた作品というだけではない、何重ものご縁があったのですね。
はい。しかもこの『シャボン玉』ですから。
でも、そのときは好奇心だけで、その先のことはあまり考えてなかったかも。もう稽古にも参加しているのですが「チャレンジするのにはちょっと早すぎたかな」と、今になって思っています。(笑) でもとにかく面白い、楽しいです。
―『シャボン玉』の面白さを教えていただけますか?
ストーリーはかなり王道な“Boy meets girl”で、骨組は超シンプルなのに、そこに宇宙人が出てくる。「なんだ、これ?!」みたいな要素やラブコメのコメディ要素もあって、それらを全部ごちゃ混ぜにして、でもすごくまとまってて面白い。なんだか不思議な作品でもあり、そして普遍的な面白さがあります。初演や昔の『シャボン玉』を見ても、そして最近のを見ても、やっぱりどれも面白い。如何様にも解釈できると思うけど、その中に一本筋が通っていて、戯曲として器の大きさみたいなものを持っている気がしますし、どの時代のどこの人間でも共感する、名作に共通する温もりみたいな何かがある。やっぱりそういう作品って、素晴らしいと思います。
―一度観たら、満足してしまう作品もありますけれど、何度観てもいい、何度も観たくなる作品もありますよね。
そうなんですよね。『シャボン玉』は自然に何度も見たくなる作品だと思います。すごいのは、抜き(場面)で見ても面白い。すごく不思議な作品だという気がします。
―歌も演技もお手のものの畠中さんですから、ミュージカル出演も心配無いですね。
いや、準備することは有り過ぎるほど有ります。まず僕はちゃんと踊れるようにならなきゃいけない。 歌もアーティスト活動をしているとはいえ、ミュージカルの歌に精通してるわけじゃない。何よりも、ほんとに声だけでやってきた人間なので、舞台に立つのは大学の公演で1回、2021年の小劇場が2回目で、今度で3回目ですから。まず「板の上に立つとは、どういうことなのか」からやってかなきゃいけない。やらなきゃいけないことはいっぱいあるんです。早急にしっかり稽古をしなければという段階だと思います。
―もう音楽も出来上がっている作品なので、やりやすいですよね?
(ここで音楽座のスタッフさんから、教えていただきました)音楽座ミュージカルでは再演という発想はなく、今の時代にこの作品をやる意味や「自分たちにとって何が必要でこれを上演するのか」というところから練り直すので、とても手間がかかります。今回も初演版に立ち戻って「初演の良さとは?」から見直しながら作っています。
―それは大変ですね。また変わっているんですね。
そうなんです。僕も自分の曲だけでなく、他の曲でもやらなきゃいけないことがあるから、かなりいっぱいいっぱいになっています。
ただ、その先にいいものがある気がするので、やれるだけやってみたいです。
―公演まで1か月半ありますが、もう本格的な稽古をされているのですね?
はい、もうしっかりやっています。「ここが気になったな」とか「こうしてみたらどうかな」みたいなことを、みんなで言い合うんですよ。 役者同士で互いの芝居のことについて言う機会は、普通はないですが、ここではいろいろな人の意見を素直に聞いていろいろ試してみる。上手くいかなかったら、「もう一回やってみよう」「次はこうしてみようか」と、みんなで作るのは面白いと思っています。
―よく「稽古場は恥をかくところだ」と聞きますが
あれが恥だとしたら、すごい恥でしょうね。みんなから一斉に意見を言われるのですから。でも、作品を良くしていくという目的のために指摘し合っているので、そういうものだという気もするし、変に気を使っていないとも思います。たいていの仕事は、時間の制限が厳しいのですが、音楽座さんでは話し合いをしながらトライ&エラーを繰り返して、どんどん変わっていく。それもすごく好きです。
―苦労されているのは?
ダンスです。音楽座ミュージカルを目指して入って来られた方たちは、やはり若い頃からしっかりバレエなどを習ってきているのでしょうね。基礎が違う。自分では伸ばしているつもりですが、まだ伸びてない。引き締めが足りない。鏡を見ながら並んでレッスンしていると「すいません」という気持ちになります。でも公演は10月。あと1ヶ月半。がんばります!
―本作へのご出演が決まって、ご両親に伝えましたか?
親父からも母親からも「こんなに嬉しいことはないよ」と言われました。でも、親父や母親のことをなぞることはしないようにという思いはすごくあります。「僕は僕のユースケをやんなきゃ」と思っています。
―最後に音楽座ミュージカルをまだ見たことない方へ、メッセージをお願いします。
今はスマホで2倍速でいろいろな作品が見られる時代。数分で1本の作品を見たかのような体感になるものもあったりする。だから劇場に来て、椅子に座って休憩を挟みながらの2時間半は、苦行になっているのかもしれないと感じることもあるのですが、ではなぜ何千年も前から舞台は続いて消えないのか。やっぱりそこにはそこにしかないものがある。そこにしか生まれないものがある。そこにしかできない体験がある。それはもしかしたら中毒のようにハマってしまうもので、それぐらい引きつけるものがあるんですよ。
舞台って、一見とても完成してるようで、綱渡りの瞬間がいっぱいあって、その綱渡りの瞬間ほど燃え上がる何かがある。だから、体感しに来てほしいです。見るというより、体感しに来てほしい。舞台にしかない体感が、確実にあるはずです。
音楽座ミュージカル
『シャボン玉とんだ宇宙(ソラ)までとんだ』
原作:筒井広志『アルファ・ケンタウリからの客』
オリジナルプロダクション総指揮:相川レイ子
演出:ワームホールプロジェクト
脚本:横山由和・ワームホールプロジェクト
音楽:筒井広志・八幡茂
振付:中川久美・ワームホールプロジェクト
出演:高野菜々・畠中祐/森彩香・小林啓也
★大阪公演:2023年10月 3日(火)吹田市文化会館 メイシアター 大ホール
料金:全席指定S席8,800円
★東京公演:2023年10月27日(金)〜11月5日(日) 草月ホール
料金:全席指定SS席13,200円/S席12,100円/A席6,600円
U-25席(観劇当日25歳以下の方、要身分証)2,750円 ※U-25席:舞台の一部が見えづらい可能性があり、場面によってはご覧になりにくい場合もございます。
★広島公演:2023年12月8日(金)・9日(土) JMSアステールプラザ 大ホール
料金:全席指定S席8,800円/A席6,600円
音楽座ミュージカル公式サイト:https://www.ongakuza-musical.com/