東京・天王洲・寺田倉庫を中心とした東京・天王洲運河エリア一帯で10月6日~9日に開催された、国内最大級のアートとカルチャーの祭典 MEET YOUR ART FESTIVAL 2023。9日には森山未來がMCを務めるトークセッションに、11月から再演される舞台『ねじまき鳥クロニクル』の演出・振付・美術を担当するインバル・ピントが登壇。
インバル・ピントと10年近い交流のある森山未來によって、唯一無二と言われるインバル・ピントと彼女の世界観に近づけた、貴重なイベントとなった。
(通訳) インバル・ピント ナビゲーター 小池藍 MC 森山未來
インバル・ピントは美術を学んだ後、ダンサーとなり、振り付けを始め、1994年にアブシャロム・ポラックと共にダンスカンパニー主宰。世界各地で公演の演出・振り付けを手掛けている。日本でも多くの来日公演を行い、アブシャロム・ポラックと共に『100万回生きたねこ』(2013、2015)百鬼オペラ『羅生門』(2017)を手掛け、高い評価を得てきた。2018年からはインデペンデントアーティストとしても活動を開始。2020年の『ねじまき鳥クロニクル』初演では、初日を観劇した原作の村上春樹からの「美しい舞台でした。ありがとう」と言われたことが忘れられないと言う。
【トークセッション】
森山未來がインバルと初めて会ったのは『100万回生きた猫』(2013)。その出会いを「ただ踊るだけでなく、いろんな視点で作品世界を構築していくことが衝撃だった」振り返った。その後、森山はインバルのダンスカンパニーに1年間留学。インバルを「(自分にとっては)師匠的存在であり、母のような方でもあり、大きな愛に溢れた方」と感じ、「ドローイングや造形物などの作品も製作するアーティストであり、単純に踊りを作る振付家というよりも総合芸術的に作品をつくるアーティストだ」と紹介した。
インパルは森山について「未來は人間としての器も大きく、才能も豊かで多様なことに対応できる方。彼の血管には芸術が流れている。彼にはボーダーや境界、限界がない」と絶賛。「彼も私同様に、ダンサーや俳優やビジュアルアーティストというひとつのジャンルに限定されたアーティストではない」と評した。
「形を変えて、いろんなところで表現できるのが芸術だと、常日頃から思っています」
インパルは自らの道のりを「子供の頃は画家かダンサーになりたかった。それで野心的に両方できるものを考えてみて、踊りだけれども自分の絵みたいなものを舞台上にのせた。やってみてわかったのは、どっちかひとつとか、限定しなくても、いろいろ融合することができるということ。そして演劇作品に手を出し、映像作品もやりました」と明かし、「身体をマテリアルとしてひとつの素材としてとらえています。彫刻で粘土をこねるように、身体を通して何か違うものに変えていく。その身体をどんな生地で包むとどうなるのかということも考えます」と創造の過程を語り、「形を変えて、いろんなところで表現できるのが芸術だと、常日頃から思っています」と、その基本ポリシーを示した。
インバルが小説をどのように舞台化していくかについては、森山がこれまでの経験から感じたこととして「小説を読んだ時に、その世界観から立ち上がる色か香りなのか、造形なのか構造なのか、インバルの体と頭を通して湧き出してくるものを元に作品を作って、その後に脚本やいろいろなものとのすり合わせや当てはめをしていくことで、多層的な複合的なハートワートになっていくと僕は思っています」と、非常にわかりやすく説明し、『ねじまき鳥クロニクル』についてはどうだったかを尋ねた。
舞台『ねじまき鳥クロニクル』は、主人公の岡田トオルという一人の人物を、ふたりの俳優が(同時に舞台上で)演じるという、前代未聞の演出も注目を集めた作品だ。
インバルは「直観的に、主人公は1人では演じられないと感じました。この主人公はいろいろな心理的な部分も持っていたり、頭の中のマインド世界を持っていたり、心が動いていく。分かれてしまっているということを読み取ったので、この男性が自分を外に置いて、自分と対話できなければいけないと思ったので、1人で演じないという形を取ることに決めました」と説明。
さらに「言葉に合わせて表現する、構築していく」として、例としてクレタについて「彼女は身体を痛めつけられたことがある、痛みをいろいろ体験している女性です。それをたくさんの身体を使って表現しようと思いました。身体が臓器であるかのようにうごめきながら、彼女の与えられたいろいろな痛みの表現になれば、そして彼女がどういう痛みを受けているかを表現しています」と教えてくれた。
舞台『ねじまき鳥クロニクル』(2020年)最終舞台稽古より
日本では舞台での活躍が注目を集めているインバルだが、「舞台に限定しているつもりはなく、いろいろなアートなものづくりをしています。自分の手で何かものづくりをしている時に、舞台と融合させている感じが自分ではしています。例えば紐をつかったアート作品を作っている時も、頭のどこかで舞台というものがあるのだと思います。だから、あちこちでいろいろな媒体をやりたいという思いがあります。舞台の何が素晴らしいかといえば、幕が開くマジカルな魔法のような瞬間がある。幕が開くまでどうなるかわからないというセレモニー感があって、それは大好きです」とも語った。
森山未來が「幻想的で、本当に夢の世界のような…時には悪夢で、時には嬉しかったり、美味しかったり、夢を見ているような世界観が展開される印象がある」と語るインバル・ピントの作品。11月から上演される今度の舞台『ねじまき鳥クロニクル』について、インバルから「再演ということは、もう1回いいステージにするということ。より深まり、自分がやるべきだったことがわかり、かつ、私にとってしっくりくることができています」と自信をのぞかせた。
『ねじまき鳥クロニクル』初日は11月7日。どんな舞台を見せてくれるのか。お見逃しなく!
『ねじまき鳥クロニクル』
原作 村上春樹
演出・振付・美術 インバル・ピント
脚本・演出 アミール・クリガー
脚本・作詞 藤田貴大
音楽 大友良英
出演
■演じる・歌う・踊る 成河/渡辺大知 門脇 麦
大貫勇輔/首藤康之(W キャスト) 音 くり寿 松岡広大 成田亜佑美 さとうこうじ
吹越 満 銀粉蝶
■特に踊る 加賀谷一肇 川合ロン 東海林靖志 鈴木美奈子 藤村港平 皆川まゆむ 陸 渡辺はるか
■演奏 大友良英 イトケン 江川良子
主催・企画制作 ホリプロ
共催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
協力 新潮社・村上春樹事務所
後援 イスラエル大使館
公式サイト https://horipro-stage.jp/stage/nejimaki2023/
公式 X(Twitter) https://twitter.com/nejimakistage
東京公演:2023年11月7日(火)〜26日(日)東京芸術劇場プレイハウス
大阪公演:2023年12月1日(金)~3日(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
愛知公演:2023年12月16日(土)17日(日)刈谷市総合文化センター大ホール