⻑野・まつもと市⺠芸術館(11 ⽉ 23 ⽇〜)、東京・吉祥寺シアター(12 ⽉ 1 ⽇〜)で上演される舞台『ハイ・ライフ』。違法薬物に⼿を染めた筋⾦⼊りのジャンキー4⼈が⼀攫千⾦を狙って、銀⾏強盗を企てる会話劇で、世界各国でも⻑年上演されてきた。本作を演出するのは、第 30 回読売演劇⼤賞 最優秀作品賞を受賞した劇団チョコレートケーキの⽇澤雄介。4⼈のジャンキーは東出昌⼤、尾上寛之、阿部亮
平、⼩⽇向星⼀が演じる。稽古場にて、演出家そして4⼈の演者たちに、本作の⾒どころや魅⼒などを伺った。
演出家 ⽇澤雄介
みんなで意⾒を出し合って、台本にない部分を共有
──4 ⽇間の本読みが終わったところですが、本読み稽古はいかがでしたか。
単純に⾯⽩かったですね。今回私は、4 ⼈の演者さんとは初めてだったので、どんなことを考えているのか気になっていたのですが、向こうから「こうじゃないか、ああじゃないか」と積極的に意⾒を⾔ってくれたので、私⾃⾝の想像もより膨らませることができました。
それこそ 4 ⼈の関係性は、セリフだけでは⾒えない部分が多くあるんですよね。ディック(東出)と、バグ(阿部)の腐れ縁だったり、ドニー(尾上)、ディック、バグは⻑いムショ暮らしで、どのように過ごし、知り合うようになったかは、台本には描かれていません。そうした背景を共有できたのはよかったですね。⽬には⾒えない部分ですけど、4⼈のセリフや⽬線のやり取りに、間違いなく出てくるので、お客様にはジャンキーな4⼈のキャラクターや関係性を、リアリティをもって届けられると思います。
⼈間が持つ滑稽さやおかしみを表現していきたい
──本作は、劇団チョコレートケーキで上演してきた社会派の作品とは、かなり異なる作⾵だと思いますが、どのように演出していこうとお考えですか。
劇団の作品は、真摯に、誠実に伝えることが肝だったりするんですが、今回は、いかにガサツにそして適
当に、⼈間が持つ滑稽さやおかしみを表現していきたいと思っています。もちろんこれは社会派の作品で
も、出すべきところなんですが、表現⽅法がだいぶ変わってくると思います。
お客さんにとって薬漬けのジャンキーな⼈たちの話は、⽇常とはかけ離れた世界だと思います。ただ、同
じ⼈間なので、どこかに「それ分かる」「⾃分もやっちゃうかも」という共感できるところを、狙ってつ
くっていきたいですね。
4⼈の個性際⽴つ演技合戦が⾒どころ
──演出家 ⽇澤さんから⾒た本作の⾒どころを教えてください。
それは間違いなく、この 4 ⼈の演技合戦です。私⾃⾝はもちろんセリフはこだわっていきたいので、この作品の持つ熱量や暴⼒性、セリフの汚さ、強さ、荒々しさも表現しながらも、なお 4 ⼈の個性をどう際⽴たせていくか。そこが⾒どころではないでしょうか。
さらに今回は三⽅から舞台を囲む客席なので、座る席によってそれぞれ全く違う⾒⽅になるように演出しようと考えています。何回ご覧いただいても楽しめますので、ぜひ何度も劇場に⾜を運んでいただければと思います(笑)。
事前レクチャーでは、流⼭児さんに私の演出観をぶつけてみたい
──11 ⽉ 4 ⽇に、『ハイ・ライフ』を⽇本で初めて上演した流⼭児★事務所の代表 流⼭児祥さんとの事前レクチャーが開催されますが、どのようなお話をしようとお考えですか。
『ハイ・ライフ』は 30〜40 年前のカナダの作品なんですが、流⼭児祥さんを象徴するような作品でもあるんですね。流⼭児さんは、我々の世代が知らない⽇本の熱量や激しさをそのまま背負いこんできたような⼈なので、荒々しい部分も持っています。でも、それだけではない何かを秘めているんです。それが魅⼒なんですけど、同じような魅⼒がこの『ハイ・ライフ』にもあると思うので、流⼭児さんがこの作品に
出会った時に何を感じたのかを聞いてみたいですね。
⼀⽅で、私は流⼭児さんとは全く異なる演出をしてきているので、本作でやりたい私の演出観をぶつけてみたいと思っています。
今回は、⾔葉の裏側にある意図、意志をセリフに乗せて、⽂字(セリフ)だけの情報ではない何かを伝えることにもチャレンジしていきたいと思っています。ただ、本作は疾⾛感のある作品なので、セリフにどれだけ意図や意思を乗せられるか。はみ出しながらも、お客さんが⾃分の今を、ふと考えてしまうようなところは、ぜひつくっていきたいですね。
4 ⽇間の本読みで、みんなの意識を共有
──本読みが終わりましたが、いかがでしたか︖
東出 オファーをいただいてから、台本を⻑い時間かけて 1 ⼈で読んでたんです。だから、セリフ⾃体は頭に⼊っているんですけど、みんなと読み合わせした⽅がやっぱりシーンがイメージできるので、本読みの⽇を迎えた時は嬉しかったですね。
阿部 僕は、こういう本格的な舞台が初めてなので、みんなの胸を借りるつもりで臨みました。4 ⽇間かけて本読みを丁寧にやるのも、とても新鮮でした。
尾上 こんなに時間をかけて本読みをするのは、珍しいですよ。でも、細かく最初から最後まで通してやったおかげで、「このセリフってどういう意味があるのか」そういった背景を確認しながら、意識をみんなで共有できたのは、すごくありがたかったですね。これからの⽴ち稽古は、前のめりで⼊っていける気がします。
──今回4⼈の会話劇ですが、印象に残る役柄はありましたか︖
尾上 (⼩⽇向)星⼀くんのビリーじゃないですかね。 イメージとして柔和で、幼い感じなのですが、⿊い部分を持つ役なので、星⼀くんとのギャップが⾮常にあります(笑)
阿部 世の中のことを何も知らないのに、粋がっている奴っているじゃないですか。星⼀くんのセリフを聞いた時に、その雰囲気が⾮常に出ていて、ムカついてしょうがなかったですけどね。もちろん役としてですけど(笑)。
⼩⽇向 お⼆⼈に、そんな⾵に⾔って頂けるとありがたい限りです。僕は阿部さんの演じるバグが、みんなとバカ騒ぎするシーンではしゃぐ姿が⾮常に印象的でした。普段は暴⼒的で、おっかない役柄なので、そのギャップが好きですね。
ジャンキー(薬物依存症)といえども、それぞれの役に共感するところはある
──みなさん筋⾦⼊りのジャンキーという役柄ですが、その中でも⾃分に似ていると感じる点はありますか︖
東出 「⾃分って、ディックっぽいな」と思う所は結構あります。
尾上 「⼈たらし感」が、でっくん(東出)ぽいなと思わせるよね。でっくんと喋ってると、みんなでっ
くんを好きになるので、このディックに⾔われれば、「みんな計画に乗っちゃうよな」と、本読みの段階からかなり感じました。
東出 (尾上さんの演じる)ドニーは、似てる所ある︖
尾上 あるよ。⼈に強く勧められたり、周りが1つの意⾒だけを⽀持したりすると、「俺も乗らなきゃ」みたいな所は、やっぱり共感してしまうよね。
⼩⽇向 ビリーは、⾃分とは似ても似つかない役なんですよね。素の⾃分は、⼥の⼈とコミュニケーションをとるのも苦⼿な⽅だし、⼈から「調⼦に乗ってるよな」と⾔われることもないので。唯⼀挙げれば、⾒た⽬が幼い分、⼤学⽣⾵な雰囲気があるところですかね。もう 28 歳ですが、コンビニに⾏くと、今でもたまに年齢確認されますから(笑)。
4⼈が本作でチャレンジすることは︖
──演出家の⽇澤さんは、本作の演出は⾃分にとってチャレンジだとおっしゃっていました。みなさんが本作でチャレンジしようと思っていること何ですか︖
阿部 僕はもう全部ですね。さっきも⾔ったように、舞台は本作が初めてなのでゼロから全部吸収していきたい。今 40 代なんですが、オファーを受けた時に周りに相談してみると「今後、こんな挑戦の機会はないよ」と、いろんな⼈に⾔われました。それで⽇澤さんに直接お会いして、「この⼈に、⾃分を預けてみよう」と思ったので、今回覚悟を持って引き受けることにしたんです。
尾上 ドニーは、吃⾳で、ヤクのやりすぎで内臓がいかれてる役なんですが、こんな役は初めてなので、どこまで⾝体を通して表現できるかは、チャレンジングな経験です。その上で、3⼈とコミュニケーションを取りながら芝居を前に進めていかなければならないので、そこは未知の領域でもあります。
⼩⽇向 ⽇澤さんに「⾊気を出すために、筋トレを頑張りましょう」と⾔われていて、⾝体づくりにチャレンジしています。ただ個⼈的には、⾃分とかけ離れた役を演じられるのは、楽しみでもあります。
東出 ずっと舞台に出ずっぱりの役は初めてで、今まで⼀番多くしゃべった役の 4 倍以上くらいのセリフの量なんです。それに、これだけ少⼈数で 1 ヶ⽉近く稽古することも、今までなかったですね。これから松本で、みんなと寝⾷を共にして、芝居漬けの毎⽇が送れるのも初めて。そういう意味では、挑戦づくしです。
松本は⾏ってみたいところが盛りだくさん
──東出さんがおっしゃったように、これから松本に 1 カ⽉近く滞在されます。どんなことを楽しみにしていますか︖
尾上 松本には何度か⾏ったことがあって、⽔がきれいで、ご飯がとにかくおいしいです。個⼈的には、好きな銭湯屋があるので、毎⽇のようにそこへ通うのが楽しみです。
⼩⽇向 僕はラーメンがすごく好きなので、お気に⼊りのラーメン屋さんがいくつもあるので、そこに⾏けるのが楽しみですね。
阿部 まだ⾏ったことがないので、今⼆⼈の話を聞いて、早く⾏きたくなりました(笑)。
東出 休みがあれば、昼からそばを⾷べて、⽇本酒をなめたりしたいなと、ひそかに考えています。あと、11 ⽉ 4 ⽇の『ハイ・ライフ』の流⼭児★事務所の流⼭児さんと⽇澤さんとの事前レクチャーも⾒てみたいですね。
疾⾛感があり、スリリングな展開にエンタメ性も感じられる作品
──4⼈の演者さんが感じる、本作の⾒どころを教えてください。
東出 とにかくハチャメチャで、4⼈とも、⾃分たちの欲求のために好き勝⼿なことをやります。ただ⼀⽅で⽣きづらさも抱えている。その中で、まるで動物のように欲を満たすために⾏動することで、この後どうなるんだろうという先が読めない展開になっていく。それが、この作品の魅⼒の 1 つではないでしょうか。
尾上 ⽇常⽣活の中では、⾒ることができない世界なんですが、些細なケンカから⼤ごとに発展して、取り返しのつかないことになる。そのスリリングな展開はエンターテインメント的な要素でもあり、⾮常に⾒どころです。
阿部 尾上くんが⾔ったように、普段体験できない世界が観られるのは⾯⽩い。それに、みんなジャンキー中毒者ですが、⼀⼈ひとりキャラクターが⽴っていて、会話から関係性を紐解いていく、そういう楽しみ⽅もあると思います。
⼩⽇向 4 ⼈とも本当に愚かなんですけど、どこか⼈間臭くもあって、愛おしい。モラルも常識もわきまえずに⽣きているところに、清々しさすら感じるし、どこまでも、脇⽬も振らずに突き進んでいくところに疾⾛感があり、楽しめると思います。
まつもと市⺠芸術館プロデュース
『ハイ・ライフ』
作︓リー・マクドゥーガル
翻訳︓吉原豊司
演出︓⽇澤雄介 (劇団チョコレートケーキ)
出演:東出昌⼤ 尾上寛之 阿部亮平 ⼩⽇向星⼀
【松本】
⽇程︓2023 年 11 ⽉ 23 ⽇(⽊・祝) 〜11 ⽉ 26 ⽇(⽇)
場所︓まつもと市⺠芸術館 実験劇場
【東京】
⽇程︓2023 年 12 ⽉ 1 ⽇(⾦)〜 12 ⽉ 6 ⽇(⽔)
場所︓吉祥寺シアター
主催︓⼀般財団法⼈松本市芸術⽂化振興財団
後援︓松本市 松本市教育委員会
企画制作︓まつもと市⺠芸術館
協⼒︓ゴーチ・ブラザーズ(東京公演)
提携︓公益財団法⼈武蔵野⽂化⽣涯学習事業団(東京公演)
公式サイト︓https://www.mpac.jp/event/39271/