新国立劇場 小劇場にて、2024年4月13日(土)から公演期間約4か月という大規模プロジェクト『デカローグ』の上演が始まる。1980年代のポーランド、ワルシャワのとある団地を舞台にした十篇の連作を、3つの期間、5つのプログラムに分けて、40名以上のキャストが入れ代わり出演する。
3月11日(月)にキャストと、翻訳、上演、演出家が揃って制作発表会見を行った。
『デカローグ』は、『ふたりのベロニカ』で知られるポーランドの名匠クシシュトフ・キェシロフスキの十篇の作品。旧約聖書の十戒をモチーフに、もともとはテレビ放映用ミニ・シリーズとして1987-1988年にかけて撮影され、テレビ放映前に「デカローグ5」と「デカローグ6」を劇場公開バージョンに編集し『殺人に関する短いフィルム』『愛に関する短いフィルム』として1988年に発表し、カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。その後、テレビシリーズも1989年ヴェネチア国際映画祭で上映され、後に世界中で劇場公開され、スタンリー・キューブリック、エドワード・ヤン、侯孝賢など世界中の映画作家が賞賛した十篇の物語。
オムニバス形式のそれぞれが独立した1時間前後の別々の作品でありながら、緩やかにリンクし、実はひそかなつながりを持っていると言われる。
今回は、小川絵梨子と上村聡史による演出で完全舞台化。プログラム全編10作を通じて出演するのは、亀田佳明のみ。亀田以外のキャストは、作品ごとに入れ替わる。
久山宏一 須貝 英
まず挨拶に立ったのは、翻訳の久山宏一。36年前にポーランドに留学していた久山は、「死刑制度に異議を表明する社会的作品として 大評判だったこの作品を劇場で見、その芸術性の高さに圧倒されました」と「デカローグ5」との出会いを語り、「今回、翻訳を通して、原型であるシナリオ版と映像版を比較する幸福な機会を得ました。セリフの変更は言うに及ばず、 あるシーンがそっくり省略されていたり、新しい結末が付け加えられていたり、興味深い発見が多々ありました」と語る口調からは、青春時代に出合った本作への熱い思いが今も続いていることが感じられた。
上演台本を手掛けた須貝 英は、ロイヤルコート劇場×新国立劇場が開催した1年9か月にわたる 「劇作家ワークショップ」に参加し、『私の一ヶ月』を書き上げ、2022年11月2~20日 新国立劇場小劇場にて上演した作家。「コロナ禍で、この作品に関わることをずっと心の支えとしてやってきた」と語るも、「演出家が2人なので、上演台本を書くのも2人かと勝手に思っていたら、1人で全部やるということで、衝撃を受けました」と明かし笑いが起きた。「これだけ素晴らしい作品を全部自分で関われることがとても幸せなことだなと思いまして、嬉々としてやらせていただいたんですけれども、とにかく資料を当たるのがすごく大変で、当時の世相なども調べながらの執筆で」と苦労も生半可ではなかったようだ。
小川絵梨子 上村聡史 亀田佳明
新国立劇場演劇部門・芸術監督で本作の演出をつとめる小川絵里子はこのプロジェクトを「新国立劇場としても大きな挑戦になります」と表情をひきしめつつも「この規模だからこそ書ける、大きな大きな人間の物語というのをお客様にお届けできたらなと思っております。キェシロフスキ監督は意図的に、この登場人物たちをどこにでもいる我々の隣人として、もしくは我々の象徴として、現代人の象徴として描いています。 その我々の物語であるということ、そして、このたくさんの人々の存在を通して、 人間が存在することへの根源的な肯定が書かれていますし、私もそれはとても大事なテーマだと思っております。それを「デカローグ」通して皆様に少しでもお伝えできたら、 これ以上の幸せはありません」と、意欲を示した。
全10回のうちの半分の演出をする上村聡史は、この演出を二つ返事で引き受けたと言う。しかし、どちらが演出しているのか、間違われることがあるのではないかとの心配が緊張感を生んでいるそう。そこは「共闘するという思いで行きたいと思う」と笑顔を見せた。さらに「福山さんが翻訳してくださった、映像になる前の原作脚本が非常に緻密に計算されている」「登場人物たちがその感性と実直に向き合って、その発動が繊細に描かれている。頼もしいキャストの皆さんと、その感性の押し引きみたいなことを、熱量高く、時に諦観の視点を持ってお客様に届けることができればと思います」と続けた。
プログラムA (デカローグ1、デカローグ3)
デカローグ1 ある運命に関する物語
演出:小川絵梨子
出演:ノゾエ征爾 高橋惠子
チョウヨンホ 森川由樹 鈴木勝大 浅野令子
亀田佳明
デカローグ3 あるクリスマス・イヴに関する物語
演出:小川絵梨子
出演:千葉哲也 小島 聖
浅野令子 鈴木勝大 チョウヨンホ 森川由樹
亀田佳明
プログラムB(デカローグ2、デカローグ4)
デカローグ2 ある選択に関する物語
演出:上村聡史
出演:前田亜季 益岡 徹
坂本慶介 近藤 隼 松田佳央理
亀田佳明
デカローグ4 ある父と娘に関する物語
演出:上村聡史
出演:近藤芳正 夏子
松田佳央理 坂本慶介 近藤 隼
亀田佳明
プログラムC(デカローグ5、デカローグ6)
デカローグ5 ある殺人に関する物語
演出:小川絵梨子
出演:福崎那由他 渋谷謙人 寺十吾
斉藤直樹 内田健介 名越志保 田中 亨
亀田佳明
デカローグ6 ある愛に関する物語
演出:上村聡史
出演:仙名彩世 田中 亨
寺十 吾 名越志保 斉藤直樹 内田健介
亀田佳明
デカローグ7~10(プログラムD&E交互上演)
公演日程 2024年6月22日(土)~7月15日(月・祝)
プログラムD(デカローグ7、デカローグ8)
デカローグ7 ある告白に関する物語
演出:上村聡史
出演:吉田美月喜 章平 津田真澄
大滝 寛 田中穂先 堀元宗一朗 笹野美由紀 伊海実紗
亀田佳明
デカローグ8 ある過去に関する物語
演出:上村聡史
出演:高田聖子 岡本 玲 大滝 寛
田中穂先 章平 堀元宗一朗 笹野美由紀 伊海実紗
亀田佳明
プログラムE(デカローグ9、デカローグ10)
デカローグ9 ある孤独に関する物語
演出:小川絵梨子
出演:伊達 暁 万里紗 宮崎秋人
笠井日向 鈴木将一朗 松本 亮 石母田史朗
亀田佳明
デカローグ10 ある希望に関する物語
演出:小川絵梨子
出演:竪山隼太 石母田史朗
鈴木将一朗 松本 亮 伊達 暁 宮崎秋人 笠井日向
亀田佳明