宮崎駿が監督し1978年に放送されたアニメ「未来少年コナン」が、舞台となって5月28日(火)~6月16日(日) に東京芸術劇場 プレイハウス にて、6月28日(金)~30日(日) には梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて世界初上演される。
加藤清史郎、影山優佳、門脇 麦、宮尾俊太郎、今井朋彦、椎名桔平という多彩な豪華キャストと共に出演する成河が、インバル・ピント演出の秘密や本作の魅力を語ってくれた。
アニメ「未来少年コナン」は、最終戦争後の荒廃した地球を舞台に、人並はずれた運動能力を持つコナンが、権力にしがみつく人間たちと戦う冒険活劇。その後の宮崎作品へと受け継がれている要素がぎっしり詰まった名作として知られている。
この大作アニメを舞台化するのは、演出・振付・美術を担当するインバル・ピントと、表現者として多様なジャンルで才能が光るダビッド・マンブッフ。
インバル・ピントは、日本でも『100万回生きたねこ』(2013年、2015年)、百鬼オペラ『羅生門』(2017年)、『ねじまき鳥クロニクル』(2020年、2023年)を手掛け、その異次元の想像力は、観客の心に新鮮な感動を起こし続けてきた。
インバル作品への参加は、『100万回生きたねこ』(2015年)、『ねじまき鳥クロニクル』(2020年、2023年)に続き4度目となり、インバルのクリエーションをよく知る成河。今回は、コナンと共に冒険する野生児ジムシ―役を演じる。 (写真は本作ビジュアル撮影時)
-オフィシャルのインタビューの中で「演目を聞く前にインバルさんの新しい作品ということで出演を決めた」とおっしゃっていましたが、そう考えられた理由は何でしょうか?
それはインバルが、今の僕のパフォーマンス・身体表現の大きな骨格のひとつを作ってくれた方なので。日本は俳優の専門性が、非常に低いんです。戦後から日本のいろんな演劇人がいろんなやり方をしてきましたが、今この2024年にあっても、僕たちは誰も教科書を持っていない状態です。そんな中、僕は極めて専門的な身体のことをインバルから教わりました。その身体表現は、僕にとってはとても大事な要素になっています。
-「俳優は何でもできなきゃならない」とは、よく聞きますが、俳優の専門性というのは?
俳優は何でもできることを求められますが、その中でも、専門的なものを深めたいという意味です。何でもできるといっても、それぞれが浅く広くであれば、それは職業とは呼べないんじゃないのかなと思います。
何でもそれぞれの専門性を一生かけて突き詰め続けていく。だから、やっていて楽しいし、目標を高く置いた、専門性の高い俳優芸術はきちんと社会貢献をする存在になりうると思います。その専門性みたいなものを一から模索していかなきゃという思いはずっとありました。
俳優に専門性がないから、“才能”や“華がある”だのという、とても抽象的な言葉で経済を回す存在になってしまう。それでは公共性があるとは言えないですよね。ヨーロッパ圏を見ると、俳優は舞台芸術の最後のパーツとして、高い専門性を持つ存在であるという理想に向けて色々な制度が組み上がっていっている。俳優1人がジタバタしたところで、制度についてはすぐにはどうにもならないことですけれど、少なくとも自分はそういう夢を見続けていたいと思っています。
-成河さんにとってインバルさんが大きな影響を与えたように、インバルさんにとっても成河さんは、無くてはならない俳優だと思います。
いえ、僕はインバルと一緒に作品を作るのはまだ4度目。インバルにとって無くてはならない人はたくさんいます。例えば振付助手の皆川まゆむさんや音楽の阿部海太郎さんもそうです。
インバルは、元々、絵描きになるか、ダンサーになるかで、悩んだ人で、結局、踊りながら絵を描くっていうのを自分の公演の1本目にやった人。本来はこういうものは作らない。彼女にとっては舞台も絵だし、美術で、人間の体も美術だし、空間自体が美術だという考え方の人。彼女の極めて高い芸術性・ダンスを、ホリプロさんが演劇というこちらの世界に招き入れたんです。だから、インバルとは別の専門性が高い人がいればいるほどいいわけで、ホリプロさんが日本でのインバルにとっての第二の家族と言えるチームを一緒に作り上げてきたんですよ。
-インバルさんを中心に、すごいクリエーションのチームがあるんですね。その中ですでに3度も出演されている成河さん。インバルさんが成河さんに期待している部分を、ご自身ではどう思っておられますか?
インバルはダンサーで、ダンスカンパニーの人ですから、好きにつくらせたら、喋らないんです。
僕は今までの自分のキャリアの中で、音声表現、日本語で台詞を喋るということについては、特に関心を持ってやってきました。喋る時の身体の状態を考えながらやってきて、今でもそれが大好きなので、インバルの舞台作品では、身体表現と日本語で台詞を喋ることについて、参考になるかもしれないような提案はさせていただけるのかなとは思います。
-喋らないインバルさんの身体表現に、成河さんの日本語を喋る表現を合体させているんですね。
インバルから僕は、喋るだけでは思いつかないような身体的な表現法を教えてもらえるし、そうすることで表現の幅も深さもボーンと広がる。その面白さをすごく感じます。
-インバルさんが日本で作った舞台は、原作が絵本、小説、そして今回はアニメ。原作媒体も変わってきました。
ホントに。同じようなものはやらないね。
-今回のインパルさんのクリエーションはいかがですか?
絶好調だと思います。最初にインバルが描いた舞台美術の絵コンテを見て「すごく相性がいいな」「インバルの持ってる性質と、この『未来少年コナン』の世界観がすごく共鳴し合っている」と思いました。そして、『100万回生きたねこ』にも通じる、インバル本来のポップで可愛らしい中にちょっとした大人のダークさを入れ込んでいくという芸術家としての性質や世界観に一番近い気がして「ここにたどり着いたか!」という感じがありました。
「未来少年コナン」の世界観はすごく濃い。インバルも個性の強い芸術家ですが、原作へのきちんとしたリスペクトを持って舞台化しているからこそ、原作の世界観がインバルの美術世界の中で ちゃんと存在している。それは“コピーしたもの”や“レプリカ”ではないんです。
今は舞台化が多いですけれど、舞台でやる意味のひとつは、 “新しい提示“ だろうと思うんです。ピカソやダリが「未来少年コナン」の絵を描いたとしたら、ピカソやダリの絵でしょ。絶対に似せて描くわけがない。だけど、たぶん誰がどう見ても「未来少年コナン」に見えると思う。ある脳と別の脳が出会って新しく生まれたすごく豊かな芸術。2次創作という領域があるんです。
再現性ばかりを求めている舞台作品もある中で、今回は“「未来少年コナン」を舞台化”と聞いたときに思い描くイメージを見事に裏切ると思います。表面的なことは再現しない。それは、ただ表面を再現してしまうと、ほんとに伝えたいことは伝わらないから。今回の舞台では、「未来少年コナン」が表現したかったものを表現する。でも使うタッチや文法みたいなものは、極めてインバルのものなんです。そこがとっても大事で「未来少年コナン」の世界と「インバルの世界」は、きちんと対等に5分5分で、5分5分だからこそ、リスペクトできるんです。
-表面という意味では、ビジュアル撮影の時にジムシ―姿のお写真だけを撮らせて頂きましたけれど、本番の衣裳はまた違うのですか?
ビジュアル撮影時の衣裳はあの時だけのもの。本番での衣裳は、今、まさしく討議中ですけど、結構びっくりしますよ~!
-びっくりする?!それはどういうことですか?!
(舞台『未来少年コナン』成河インタビュー【後編】「嘘だろ」と思いながら観に来てください。へ続く)
衣裳 : 飯嶋久美子(POTESALA) SHIRO.O
ヘアメイク : 冨沢ノボル
舞台『未来少年コナン』
東京公演:2024年5月28日(火)~6月16日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
大阪公演:2024年6月28日(金)~30日(日) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
原作:日本アニメーション制作「未来少年コナン」
(監督:宮崎 駿 脚本:中野顕彰 胡桃 哲 吉川惣司)
演出・振付・美術:インバル・ピント
演出:ダビッド・マンブッフ
脚本:伊藤靖朗
音楽:阿部海太郎
作詞;大崎清夏
出演:加藤清史郎、影山優佳、成河、門脇 麦、宮尾俊太郎、今井朋彦、椎名桔平 ほか
主催・企画制作:ホリプロ
共催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京芸術劇場
公式HP https://horipro-stage.jp/stage/fbconan2024/