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歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」『狐花 葉不見冥府路行』京極夏彦&松本幸四郎が取材会

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ミステリー界の鬼才・京極夏彦が、歌舞伎と小説を同時に書き下ろす新作謎解き物語「八月納涼歌舞伎」『狐花 葉不見冥府路行(はもみずにあのよのみちゆき)』が8月4日より歌舞伎座にて上演される。7月9日に京極夏彦と松本幸四郎が登壇して取材会が行われた。
歌舞伎の舞台を念頭に京極夏彦が書き下ろすのは初めて。小説は7月26日に発売される。
本作は、大人気小説「百鬼夜行」シリーズ、「巷説百物語」シリーズにも連なる物語で、「百鬼夜行シリーズ」の中禅寺秋彦の曽祖父・中禅寺洲齊が主人公。洲齊が美しい青年の幽霊騒動と、作事奉行らの悪事の真相に迫る。
出演は、洲齊を松本幸四郎が演じ、さらに中村七之助、中村勘九郎、坂東新吾、中村米吉、市川染五郎ほか、豪華キャストが揃う。

取材会に登壇したのは、京極夏彦と、今回の上演を「夢の夢の夢ぐらいに思っていた」と言う松本幸四郎。

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―本作の脚本を担当された経緯を教えてください。
京極:依頼があったからということです。同業者でいろいろな作品が歌舞伎化されているので、そういうことかと最初は思って「光栄なことでございます」と言っていましたが、最初の打ち合わせで「新作をお願いします」と言われ、その段階で「嫌だ」とは言えなかった。しかも脚本という形で加わってもらいたいというお話で。納涼歌舞伎の第三部というのは大変だと思ったのですが、大丈夫ですと言われました。お話を頂いたのは、去年の遅い段階ではなかったが、着手が遅く、その間ずっと考えていたわけでもなくて。そういうわけでプレッシャーはありましたが、いつも通りやらせて頂ました。
―今回は中禅寺秋彦の曽祖父・中禅寺洲齊が主人公ですが、この時代を選んだ理由は?
理由は別にないが、中禅寺洲齊は25~26年前にできていて、ドラマに出ている。そのままにしていたが、27年書いている「巷説100物語」シリーズの最終巻が6月に刊行になり、それに中禅寺洲齊が出てきます。続いて書いたので「続きかな」ということで彼を出した。
新作なので、まっさらなところから作っていいのですが、私が書く意味を考えたところ、私のこれまでの仕事を多少なりとも反映させた方が受け入れてもらえるのではというのもあります。

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―京極作品のどこが魅力ですか?
幸四郎:独特の世界観、優しい・艶っぽい、音楽が聞こえてくるような感じがしますし、色彩も歌舞伎の絢爛豪華とは違う美しさを感じていました。この世界感は必然だと思います。(京極作品の歌舞伎化は)初めてではないが、やっとこの日がきたという思いです。

―中禅寺洲齊という役役は?
幸四郎:陰陽師に通じるところがあると思いますが、対等にいる人間のような気がします。起こる出来事の中に常に冷静に存在しているという感じがしています。セリフで進む芝居ですが、セリフに音楽が乗っているような、シェイクピア作品のようかと。世話物ではないという世界観。いわゆる京極歌舞伎という、新たな歌舞伎を作るという視点で取り組もうと思っています。

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―歌舞伎前提での書下ろしでの変化は?
京極:制作姿勢は今まで通りですが、小説は文字ですべてを書き表さないと読者に申し訳が立たないので、これまでは映像化や具体化しにくいものを書こうと思ってきたので、果敢に映像化に挑戦された方は苦労されてきたと思います。今回は舞台化が前提なので、脚本を先に書いて、それを小説にと考えていたが、出版社の都合で小説を先に書くことになり、それは大変でした。(笑) 歌舞伎は俳優の体と舞台という装置があって完成するので、そうなることを前提に書くのは難しい。 僕の小説を舞台化するために脚本を書く方が七転八倒し苦労した、その苦労が僕の中で起きました。
小説には必ず視点がある。一人称か、三人称か、あるいは作者視点か。今回は観客視点で書かないと成り立たないので、苦労し、初めて書いた形でした。僕の小説としては短く、見本が薄い!(笑) いつもより時間をかけて書きました。幸四郎さんたちによって完成するのが楽しみです。

―幸四郎さんが見どころと感じていらっしゃるのは?
幸四郎:真正面から歌舞伎の演目にするのだと思っています。歌舞伎にはたくさん引き出しがありますが、それをはめ込んでいくのではなく、この作品を歌舞伎として観ていただくことに挑戦したい。1部も2部も上演していますが、歌舞伎座が『狐花』専用劇場と思ってもらえるように、世界観を作りたいと思っています。例えば音もリアルな音を使うこともあるが、どれだけ自分の頭の中で自由に発想できるかにこだわって作っていきたい。どれだけ京極さんの世界を深読みできるかの勝負になってくるかなと思っています。

―出演者については?
京極:当初はキャストは決まっていなかったので、何も考えず書きました。途中でキャストのお知らせをもらってびっくりしました。豪華なお名前が出てきたので、その段階で若干「やめようかな」と少し思いました。プレッシャーがある反面、裏を返せばどんなに出来が悪くても、きっとこの人達なら立派にやってくれるので安心だなという気持ちが湧きました。書き始めると、そういうことは考えず書くことができましたが、書き終えてチラシを見て、ちょっと緊張しました。

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八月納涼歌舞伎
8月4日(日)~25日(日)千穐楽 歌舞伎座[休演日13日(火)、19日(月)]
第3部 18時15分開演
『狐花 葉不見冥府路行(はもみずにあのよのみちゆき)
一般発売 7月14日(日)10時より

小説
京極夏彦『狐花 葉不見冥府路行』
発売:2024年7月26日(金)予定(電子書籍同日配信予定)
定価:2.310円(税10%込)