11月29日(日)にブルースクエア四谷にて、海外上演を視野に入れた新作ミュージカル『翼の創世記』 Genesis of Wingsが開幕。12月25日(水)まで上演される。
本作は、数々の舞台作品を創作・演出してきた石丸さち子が、企画・脚本・作詞・演出を手掛けるオリジナルの新作舞台で、描かれるのはライト兄弟と、彼らを支えた妹の3人の物語。
登場人物はこの3役のみだが、歌にも演技にも秀でた俳優たち9名がクワトロキャスト、トリプルキャストで演じる。
今回、Astageに登場いただくのは、ライト兄弟の兄、ウィルバー役を演じる上口耕平。
石丸によれば「年を経て、ますます凛々しくなり、男気を感じています。それでいて、ダンスも普段の立ち振舞いも柔らかい。その振り幅の広さが、ウィルバーにぴったり」とのこと。上口耕平に、本作への想いや稽古の様子などをたっぷり語ってもらった。
―本作のお話を聞かれたときには?
「石丸さんがオリジナルの新作を作る」と聞いた瞬間に「ものすごくワクワクすることが起こるぞ」という思いが一気に沸き上がりました。と同時に「これは覚悟が必要だ」とも思いました。というのは、石丸さんのオリジナルミュージカル、New Musical『Color of Life』(2015年)に出演させていただいた時も、一筋縄ではいかない道のりでたくさん悩みましたから。でも今となってみると、その一瞬一瞬がいつもとは違う、新しいことを感じられる瞬間がたくさんあった尊い時間だったと思ったので、覚悟が要るとは思ったのですが、それよりも期待が勝りました。
―作品については、大枠しかわからない頃ですよね?
実は『Color of Life』の時にさち子さんのライト兄弟への愛を聞いていました。『Color of Life』の歌詞にもウィルバー・ライトとオーヴィル・ライトという兄弟の名前が登場し、手を広げて空を飛ぶような場面もあったんです。なので、この作品には石丸さんの熱い思いが溢れているに違いないと思いました。それに「森大輔さんが作曲と演奏もされる」と聞いたので。以前から森さんの音楽が大好きで、森さんが『BACKBEAT』で音楽監督として参加されてご一緒したときにも「いつか森さんの曲を歌いたい」とお伝えしていたので、それも叶うのだと嬉しかったです。
―内容や役柄については、いかがですか?
僕自身はありがたいことに、今はお客様の前に立って踊ったり歌ったりさせていただいてますけれども、元々一人で絵を描いたり、何かに没頭したりする時間がとても好きで、オタク気質のような部分があります。それは一見、静かだけれど、頭の中にはすごい空間が広がっていたり、心に熱いものがあったりします。ライト兄弟がまさにそうで、この2人の純粋な熱量に感動しました。特に僕が演じるウィルバーは、普段はスマートで感情をすぐに露わにしない人物ですが、内には煮えたぎった思いがある。共感する部分が多いと感じました。
―私も台本を拝見しました。他人が何かにはまってワクワク楽しそうにする姿を見て、自分も楽しくなってしまうことを思い出しました。
そのワクワクがあふれて、お客様にもワクワクしてもらえたら面白いと思っています。
―お稽古はだいぶ進んでおられますか?
僕だけ稽古に参加するのが遅く、まだ数日しか稽古に参加していませんが、もう2週間ぐらい稽古しているような気がしています。出演者全員がこの稽古場で一緒に稽古していて、とても濃密で熱い稽古をしています。
―普通はチームに分けて稽古することが多いかと思うのですが、今は出演する9人が一緒に稽古されているのですか?
シャッフルして、本番ではなさそうな組み合わせでも稽古しています。今は「全員がこの作品を創る」という期間なのでアイデアを出し合っています。「こんな稽古は初めてじゃないか?!」と思うほど集中して白熱した稽古です。
面白いのは、例えば「あの動きがよかったな」と思っていると、みんなが口を揃えて「どうやったの?」「それ、取り入れよう」と意見が一致するんです。出演者の感覚が似ているのは、すごいこと。宝物だと思っています。
―楽曲も39曲もあると伺っています。
歌だけを稽古する期間は数日あったのですが、僕はあまり参加できなくて。今は歌も芝居も同時にやってます。
―曲はどんな感じですか?
最高!ですね。
―その笑顔!ホントに最高なんですね。
僕が観客として観に行ったとしたら、「これ、歌いたい!」と絶対に思う楽曲です。僕が森さんの楽曲が元々好きだというのもありますが、いろいろな色味がある曲がちりばめられています。描かれる物語は、19世紀から20世紀初頭で、クラシックな時代ですが、こんなに新しく感じる楽曲がぴったり合うんだと、ちょっと驚きもあります。「ミュージカルとは、こういう曲だ」という枠は、とっくに超えている感じがして、なおかつ、日本のポップスや、日本人の心に響く香り、メイドインジャパンという匂いが、至るところに感じられるのも誇りに思うところです。
今の、僕たちの日本で、このメンバーでだからこそ生まれた楽曲だと思うので、そこは是非、楽しみにしていただきたいです。
―お話しになる上口さんの表情から、歌うのも楽しい楽曲なのだなと感じます。
はい。今までの僕たちは、海外から輸入された楽曲に日本語の歌詞をどうにかはめ込んでいく作業が多くて、英語だったらひとことで伝わることでも、日本語だとニュアンスを伝えるのが難しいことがあります。今回は言葉と音楽がリンクしていて、さち子さんと森さんが「この言葉をここに乗せたい」と、ディスカッションをされながらつくったというのがよくわかります。だから台詞と同じ感覚で歌詞がすっと入ってくる。気持ちのギアが1つ上がって、音楽がぐっと来る。その感じは、オリジナルならではの魅力だと思いますし、ミュージカルの楽曲は、こうあるべきだ、こう作っていくべきだと、改めて感じています。
―ご自身にとっての発見もありそうですか?
今は人物を追いながら、この作品がどう羽ばたくのかを、みんなで模索しているので、まだ、自分自身をじっくり見つめる時間は少ないのですが、同じ役を演じる(上川)一哉さん、(鈴木)勝吾、(百名)ヒロキくんを見ていると、自分に無いものや、自分が欲しいものがあぶり出されていくような感じがします。短い期間だけれど濃密な時間なので、どれだけ掴めるか、そして、どれだけ何かを脱いでいけるか。さち子さんを信じて、自分自身にもちゃんと期待をして、まっすぐ挑むだけだと思ってます。
―先ほど、ダンスもあると耳にしました。
ザ・ダンスナンバーというダンスではありませんけれど、演劇作品としての1つの効果としてダンスがあります。そこも今回は振付の先生ではなく、みんなで作る。それがすごく面白いんです。いろんな経験してきた人たちが、ぎゅっと集まって、遠慮なくお互いの経験をシェアしている感じです。そこにアイデアが生まれるだろうと思いますし、実際に生まれていると思います。
―いろんな要素がある作品なのですね。
兄と弟、妹、3人の物語ですが、エンターテインメントの要素がいっぱい詰まっています。劇場に入ったら、視覚的にもいろんな刺激があると思いますし、ネタバレになるので、まだお話しできないのですが、是非とも劇場で、生で目撃していただきたい瞬間もあります。このような作りの舞台は、僕も初めて。そこもすごいし、最高だと思っています。
-初めての上演で、生だからこそ、体験できる何かがあるのですか⁈
この作品が生まれる瞬間に、その場にいたことが、観てくださる方にとっても、ひとつの誇りになってほしいと思っています。僕も初めて訪れたブロードウェイの公演で、観客が隣同士、手をつないで笑顔で歌うという体験をしました。エンターテインメントでひとつになった、あの感動は忘れられません。「あの日、あれを見たのだ」という、忘れられない記憶。それはとても大きなことだと僕は思っています。この作品で、忘れられない体験をしていただきたいですし、僕たちも一緒に経験したいと思います。
このインタビューの後、石丸さち子さんからもコメントをいただいた。
「この作品が本当にこれでいいのかを、私は毎日考えています。この作品で、私は劇場を現代美術の美術館のようにしたいし、森さんはここに集まった歌い手に合わせて、どんどん音楽を変容させていきます。でも私や森さんだけがクリエイターではなく、みんなが何をここに持ってきてくれるか。俳優もクリエイターです。最後に耕平さんが稽古に加わったとき、俳優も同じクリエイターのひとりなんだという姿勢が、熱のようなものでみんなにも伝わった。耕平さんが稽古場に入って『最後のワンピースが揃った』と思いました」
Theatre Polyphonic 第7回公演
ミュージカル『翼の創世記』Genesis of Wings
企画・脚本・作詞・演出:石丸さち子
作曲・音楽監督・演奏:森 大輔
日程:2024年11月29日(日)〜12月25日(水)
劇場:ブルースクエア四谷(四谷三丁目駅から徒歩3分。四ツ谷駅から徒歩10分)
CAST:(50音順)上口耕平/門田奈菜/上川一哉/工藤広夢/鈴木勝吾/DION/百名ヒロキ/福室莉音/山﨑玲奈
公式HP:https://s-ishimaru.com/wings/