(画像提供/東宝演劇部)
2024年12月16日(月)からプレビュー公演、20日(金)から本初日の幕が開いた帝劇クロージング公演 ミュージカル『レ・ミゼラブル』(以下『レミゼ』)。
帝国劇場での公演は2月7日(金)まで、その後、大阪・福岡・長野・北海道・群馬と6月まで上演が続くロングラン公演だ。観劇した2025年1月6日(月)13時開演公演を中心に、他日の公演の感想も交えてレポートしたい。
1985年にイギリスで初演され、日本では1987年に初演。以来、世界中で繰り返し上演され、変化し進化し続けていると言われているミュージカル『レ・ミゼラブル』。今作でも『レミゼ』はまた一段と磨き上げられて進化。さらにキャスト陣が、ベテラン勢はもちろん、若いキャスト陣も目を見張るほどに素晴らしく、日本のミュージカル全体の進化・成長を感じたほど。“今”だから観ることができる、さらに熱い感動をくれる『レミゼ』となっていた。
【レポート】
ざわめきが収まらない客席が、客電が落ちると瞬時に静まりかえった。音楽が押し寄せ、全身に音の圧を感じる。オーケストラの生演奏はミュージカルでは当たり前だが、この圧倒的な力強さ、スケールの大きさは、他のどの作品とも違う。まだ暗い客席で音楽に包み込まれた感覚に「始まる!」というワクワクが沸き上がり背筋が伸びる。
(画像提供/東宝演劇部)
プロローグは物語の中心となるジャン・バルジャンが囚われているガレー船の場面。
囚人たちの人数の多さと考え尽くされたであろうその立ち位置、そして舞台の上に描き出された光と陰、そしてその色が、進化し続けている『レミゼ』を感じさせてくれる最初の場面だ。沸き上がり響く囚人たちの苦しみの叫びのエネルギーが、一挙に『レミゼ』の世界に引き込んでくれる。
その囚人たちの中からジャン・バルジャン(飯田洋輔)が前に出てくると、客席にまで広がっていた苦しみのエネルギーが、ジャン・バルジャンひとりの怒りのエネルギーへとあっという間に塗り替えられていく。今作が初参加とは思えない飯田ジャン・バルジャンの実在感に圧倒される。
ジャン・バルジャンを追い続ける警部、ジャベールを演じる小野田龍之介は、“若手実力派ミュージカル俳優の筆頭”と長く称されてきた。2019年~2021年公演でアンジョルラス役を演じた小野田が、アンジョルラスよりひと世代上のジャベール役での出演が発表されたときには驚きもあったのだが、小野田が舞台に現れ、歌い出した瞬間、そんな思いは吹き飛んだ。ジャン・バルジャンの前に立ちふさがる厚い壁のようなジャベールが登場した。
実は別日の公演で伊礼彼方が演じるジャベールも観劇した。こちらのジャベールは、ジャン・バルジャンに巻き付いて抱え込もうと狙う大きく強靭な鋼の網のような印象を受けた。
そして、終盤でのジャベールの変化も二者それぞれだ。
物語はハイスピードで進む。展開が早く、10年ほどの時間を説明なくジャンプするのだが、それでもなぜか物語についていける。そのひとつの理由は、ほぼすべてが歌になっているセリフ=歌詞がはっきり聞き取れるからだろう。音楽に乗せたセリフが、ダイレクトに脳に届く、心に響く。まだ『レミゼ』をご覧になったことが無い方も、物語に置いてきぼりにされることは少ないだろうと思うので、是非とも初『レミゼ』にトライしていただきたい。
(画像提供/東宝演劇部)
それにしても不思議に思うのは、帝国劇場の舞台上に、俳優がたった一人で立っていても小さく見えないこと。あの高い天井をもつ広い舞台に飲み込まれない。
ファンテーヌ役の生田絵梨花が♪「夢やぶれて」を歌うソロの場面もまさにそう。華奢な生田がセットもない、広い舞台にたった一人で立ち歌う姿が、迫りくるように感じられる。生田の歌の魔法でもあるのだろう。
(画像提供/東宝演劇部)
名曲揃いの『レミゼ』だけに、プリンシパルキャストのソロの歌唱は絶対の見どころ。中でもとびきり知られているのが、エポニーヌの歌う♪「オン・マイ・オウン」だろう。
ルミーナはエポニーヌという役のイメージに声質も造型もドンピシャ。昨年韓国で上演された『レ・ミゼラブル』でもエポニーヌを演じてきた歌声は、目を見開いて聴くのか、目を閉じて味わうのか、迷ってしまったほど深く広がりを持つ。「悪党テナルディエ夫妻の元で、よくぞこんなに良い子に育った」との思いに、こぼれる涙の量も増えてしまった。
それと対照的なのが、群衆が声を揃えて歌う場面。公演中に聴く♪「民衆の歌」が特に感慨深いのはもちろんだが、今回は特に、いろいろなコンサートなどで歌われる♪「民衆の歌」とはまったく違う響きだった。それ以外の楽曲も単に歌声がひとつに聞こえる、美しい迫力があるだけの合唱ではない。一人ひとりの声色の粒を感じ、そのきらめきが連なり重なってきこえる。リードするアンジョルラス役の小林 唯を含め、アンサンブル一人ひとりの歌に力があり、素晴らしいからであろう。“上手い”“美しい”の上には上があるのだと知った。
そして歌声ではもうひとつ、今回はプリンシパルキャストによる混声三部の透った美しいハーモニーにくぎ付けになった。混声三部は一度ならずあり、違った組み合わせの3人でも歌われる。ぜひ劇場で生の歌声に酔いしれてほしい。
観劇した公演で『レミゼ』に初出演となるマリウス役の山田健登の歌をしっかりと聞くのはこの公演が初めてだが、さすが厳しいオーディションを通った実力者。コゼットと一瞬で恋に落ちて目を輝かせ、マリウスの真面目さと脆さを象徴するような爽やかな歌声を響かせる。筋書きは知っているのに、可愛らしい加藤(梨里香)コゼットとの恋の成就を全力で願ってしまっていた。
忘れてならないのが、笑いのスパイスとなるテナルディエ&マダム・テナルディエ。
染谷洸太のテナルディエは、歌はパワフル、動きもキレキレ。小賢しい小悪党の浮かれ具合が小気味いい。樹里咲穂のマダム・テナルディエが、呆れながらも夫唱婦随してしまうのも納得だ。
そして子役たちも素晴らしい。中でもメインキャストのひとりと言ってもいいガブローシュ役。観劇した2回とも大園尭楽が演じていたのだが、可愛い生意気さに魅了された。『レミゼ』は、一人ひとりを深く描く群集劇だからこそ何度観ても面白いのだと再認識させてもらった。大園尭楽の今後にも注目していきたい。
キャスト中心にレポートしてみたが、もちろん、演出も深化、それに対応するキャスト陣、支えるスタッフ陣の苦労は並々ならぬものがあるだろう。そして最後までオープニングの感動を繋ぎ続けてくれるオーケストラにも大きな拍手を贈りたい。
観終わった感動の中、今も“自由を求める人たち”が、世界にはたくさんいることに思い至った。そうした意味でも、『レミゼ』は今の物語だと言える。
帝国劇場でのこの『レミゼ』の上演は、2月7日(金)まで。
そして、その後は全国ツアーが始まる。公演の本初日の会見で飯田洋輔が「各ホールの響きとも調和しながらやっていきたい」と語っていたので、帝劇のこの『レミゼ』が全国でも楽しめるのではないだろうか。お見逃しなく!
ミュージカル『レ・ミゼラブル』
帝国劇場 2024年12月20日(金)初日~2025年2月7日(金)千穐楽
≪プレビュー公演≫ 2024年12月16日(月)~12月19日(木)終了
≪2025年全国ツアー公演≫
大阪公演:3月2日(日)~3月28日(金) 梅田芸術劇場 メインホール
福岡公演:4月6日(日)~4月30日(水) 博多座
長野公演:5月9日(金)~5月15日(木) まつもと市民芸術館
北海道公演:5月25日(日)~6月2日(月) 札幌文化芸術劇場 hitaru
群馬公演:6月12日(木)~6月16日(月) 高崎芸術劇場
≪キャスト≫
ジャン・バルジャン・・ 吉原光夫、佐藤隆紀、飯田洋輔
ジャベール・・・・・・ 伊礼彼方、小野田龍之介、石井一彰
ファンテーヌ・・・・・ 昆 夏美、生田絵梨花、木下晴香
エポニーヌ・・・・・・ 屋比久知奈、清水美依紗、ルミーナ
マリウス・・・・・・・ 三浦宏規、山田健登、中桐聖弥
コゼット・・・・・・・ 加藤梨里香、敷村珠夕、水江萌々子
テナルディエ・・・・・ 駒田 一、斎藤 司、六角精児、染谷洸太
マダム・テナルディエ・ 森 公美子、樹里咲穂、谷口ゆうな
アンジョルラス・・・・ 木内健人、小林 唯、岩橋 大
アンサンブル・・・・青山瑠里、新井海人、荒居清香、五十嵐志保美、石井麻土香、石津秀悟、石丸椎菜、伊藤広祥、岩橋 大、宇山玲加、大泰司桃子、大津裕哉、笠行眞綺、鎌田誠樹、菊地 創、北村沙羅、吉良茉由子、小林遼介、湖山夏帆、近藤真行、佐々木淳平、柴原直樹、島崎伸作、清水咲良、白鳥光夏、杉浦奎介、田川景一、丹宗立峰、土倉有貴、中村 翼、西村実莉、般若愛実、東 倫太朗、深堀景介、藤岡義樹、増原英也、増山航平、町田慎之介、町屋美咲、松村桜李、三浦優水香、三島早稀、宮島朋宏、ユーリック武蔵、横田剛基、横山友香、吉岡花絵、蘆川晶祥 (五十音順)
ガブローシュ・・・アッカヤ陽仁、大園尭楽、中井理人
リトル・コゼット/リトル・エポニーヌ・・・荒川寧音、井澤美遥、井手陽菜乃、内 夢華、鞆 琉那、平山ゆず希
≪クリエイティヴ≫
作:アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク
原作:ヴィクトル・ユゴー 作詞:ハーバート・クレッツマー
オリジナル・プロダクション製作:キャメロン・マッキントッシュ
演出:ローレンス・コナー/ジェームズ・パウエル
日本版演出:クリストファー・キー
翻訳:酒井洋子 訳詞:岩谷時子
プロデューサー:坂本義和/村田晴子/佐々木将之
製作:東宝
公式HP:https://www.tohostage.com/lesmiserables/