2018年1月9日(火)より新国立劇場 小劇場他にて上演される舞台『アンチゴーヌ』の稽古場から写真と、出演する蒼井優・生瀬勝久のコメントが到着した。
本作は、時代を超え世界中で上演され続けている、フランスの劇作家ジャン・アヌイの代表的悲劇作品「アンチゴーヌ」。
栗山民也演出のもと、岩切正一郎の新訳・豪華俳優陣の競演で現代によみがえる。
法と秩序を守り、権力者として政治の責任を貫こうとする冷静な王クレオンに対し、自分の良心にまっすぐに従い、自己の信念を貫くアンチゴーヌ。2つの相対する立場と信念は、そのまま国家と個人・現実と理想の対決でもあり、それぞれが抱える想いは通じ合うことなく、物語は悲劇へと進行します。クレオンとアンチゴーヌの対決を通して、私たちは生きることの矛盾や人間存在の本質を目撃することとなるだろう。
出演者にはアンチゴーヌ役には、パルコプロデュース公演には初出演となる蒼井優。10年前から繰り返し読んでいた思い入れのある戯曲だという本作に挑む。
そして、アンチゴーヌと対立するクレオン役には、映像・舞台にと幅広く活躍し、圧倒的な存在感と演技力を放っている生瀬勝久。
また、梅沢昌代、伊勢佳世、佐藤誓ら実力派俳優陣が脇を固め、人間が社会の中で生きる矛盾と葛藤が危ういくらいスリリングに映し出された世界観をつくり出す。
蒼井優(アンチゴーヌ役)
ジャン・アヌイの『アンチゴーヌ』という戯曲に出会ったのは19歳のとき。アンチゴーヌの強さがとても魅力的で、それから折に触れ、読み返してきた作品です。
その作品に今回、栗山さんの演出で出演できることをうれしく思っています。ただ、これまでは自分がアンチゴーヌを演じるつもりで読んだことはまったくありませんでした。だから今回初めて、自分が演じる前提で台本を読み、稽古に取り組んでいますが、激しい台詞の応酬シーンを稽古したあとには知恵熱が出て(笑)。そういうところからも、アンチゴーヌという女性が持つ熱量の大きさを実感しています。
それだけ挑みがいのある戯曲に、生瀬さんを始めとする素晴らしいキャストのみなさんと挑めることが心強いですし、今回は十字型になっている特設ステージでの上演。お客様には、とても近い距離から私たちの演技をご覧いただけると思うので、一緒に『アンチゴーヌ』の世界を形作っていただけたらと思います。
生瀬勝久(クレオン役)
今回、アンチゴーヌ役を蒼井さんが演じますが、話される言葉のひとつひとつが明確で、理路整然とものを考える方ですね。栗山さんが彼女でアンチゴーヌを、と思われたのも納得できますね。稽古で彼女と相対してみると、彼女はアンチゴーヌの純粋かつ強い台詞を自分のものにすることで、言葉に説得力を与えているのだな、と感じます。
この作品は古代ギリシャで書かれた戯曲を原典に、フランスの劇作家ジャン・アヌイが1940年代に執筆したもの。今も読み継がれる古典が元になっているだけあって、人間の真理が深く描かれています。
こう言うと難しく感じられるかもしれませんが、描かれるのは本当にシンプルで普遍的なテーマ。どなたがご覧になっても、それぞれに感じるところのある作品に仕上がっていると思います。老若男女を問わず、ご覧いただいた方には観劇のあと、自分の中になにが生まれたのかを確かめてみていただけたらうれしいですね。
梅沢昌代(乳母・コロス役)
私は今回、アンチゴーヌに仕える乳母、そしてコロスの二役を演じます。乳母はアンチゴーヌというお姫様の側にいる存在なので、栗山さんからは「浅草っぽい庶民感は出さないように」という指示をいただいて(笑)。そこを意識して稽古をしているところです。
私自身、この戯曲に触れて思うところがありましたが、これをご覧になるお客様方も、今の世の中や自分の生き方に対して、なにか疑問を見つけられるような気がします。みなさんの心の中で尾を引くような作品になるよう、今回の役を務めたいと思います。
伊勢佳世(イスメーヌ・コロス役)
栗山さんの演出を受けるのは今回が初めてなので、とにかく栗山さんのイメージに必死でついていく日々。でも、栗山さんの演出を受けることで、今まで自分の中にはなかった感覚を発見する瞬間もあって楽しいです。
今回演じるイスメーヌは、アンチゴーヌに残された唯一の家族。イスメーヌにはアンチゴーヌを見守りたいという気持ちがある。稽古を通じてそう感じるようになってきました。彼女のそういう部分を(蒼井)優さんと共有し、大事にしながら演じたいです。
佐藤誓(衛兵役)
この作品は特設ステージで上演されますが、舞台装置については栗山さんから、交差点をイメージしたものだと伺いました。この作品にふさわしいステージになっていますが、舞台のとても近くに客席がありますし、周りをお客様に囲まれながら演技をするのは緊張しますが、楽しみでもあります。
栗山さんの頭の中には衛兵を含め、作品のイメージができあがっているので、そこにどれだけ近づけるかが勝負。庶民として生きる衛兵の姿をしっかり演じたいと思います。
渋谷謙人(エモン・第二の衛兵役)
初めて台本を読んだときから、アンチゴーヌに惹かれるエモンの気持ちが自分の中にスッと入ってきたので、そこを手がかりに稽古を進めることができました。本当に素敵な台詞がたくさんある台本です。それを俳優たちが発したときに生まれるものを、ご覧になる方々に確かめていただけたら、と思っています。
岩切正一郎(翻訳)
稽古を観たときに、アンチゴーヌ役の蒼井さんを主旋律に、ジャン・アヌイの言葉がポリフォニックに響いてきて、台詞をより際立たせる栗山さんの演出の力を感じました。
アンチゴーヌは裸足で野原に入ったり、さわやかな空気を感じたくて朝早く起きたり、自然を一瞬のうちに深く感じることが自分の生き方だと思っている女性。一方クレオンは、社会の中でささやかな幸福を噛みしめるように生きる大人の男性です。2人の対立から今の時代、聞こえにくくなっている声、「Non」の声を聞き取る。そこに私は、今この作品を上演する意味を感じています。
栗山民也(演出)
『あわれ彼女は娼婦』(’16年)を演出した際、蒼井優が自分の全身に問いかけながら演技し、声や感情の流れ方を役に重ねられる俳優だと知った。『アンチゴーヌ』をやるなら彼女だと思った。そして、声に奥行きのある生瀬勝久も、この作品にふさわしい俳優だと思った。
世界や人間にはひとつの絶対的な答えなどない。「YES」と「NO」の間には、無数の解答が隠されている。そこから自分自身はなにをどう選ぶのか。この戯曲にはその命題がたくさん含まれている。
このカンパニーには稽古で、その場でしかできないことを追求する俳優が揃った。彼らの感性と全身を使って、かつて存在した人々の言葉と行動を今に響かせて、この戯曲に含まれた命題に挑んでいる。
この世界の多くの問題は、方程式では解くことができない。だからこそ、この演劇を通じて、1人で世界に立ち向かった少女の、その問いの意味について考えたいと思っている。
パルコ・プロデュース2018 「アンチゴーヌ」
作:ジャン・アヌイ 翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也
出演:蒼井 優、生瀬勝久、梅沢昌代、伊勢佳世、佐藤 誓、渋谷謙人、富岡晃一郎、高橋紀恵、塚瀬香名子
【東京】 2018年1月9日(火)~1月27日(土) 新国立劇場 小劇場〈特設ステージ〉 他、松本、京都、豊橋、北九州公演あり
【公式HP】 http://www.parco-play.com/web/play/antigone/
<あらすじ>
古代ギリシャ・テーバイの王オイディプスは、長男エテオークル、次男ポリニス、長女イスメーヌ、次女アンチゴーヌという、4人の子を残した。
エテオークルとポリニスは、交替でテーバイの王位に就くはずであったが、王位争いを仕組まれて刺し違え、この世を去る。その後、王位に就いたオイディプスの弟クレオン(生瀬勝久)は、亡くなった兄弟のうち、エテオークルを厚く弔い、国家への反逆者であるとして、ポリニスの遺体を野に曝して埋葬を禁じ、背く者があれば死刑にするよう命じた。
しかし、オイディプスの末娘アンチゴーヌ(蒼井優)は、乳母の目を盗んで夜中に城を抜け出し、ポリニスの遺体に弔いの土をかけて、捕えられてしまう。クレオンの前に引き出されるアンチゴーヌ。クレオンは一人息子エモン(渋谷謙人)の婚約者で姪である彼女の命を助けるため、土をかけた事実をもみ消す代わりにポリニスを弔うことを止めさせようとする。
だが、アンチゴーヌは「誰のためでもない。わたしのため」と言い、兄を弔うことを止めようとしない。そして自分を死刑にするようクレオンに迫る。懊悩の末、クレオンは国の秩序を守るために苦渋の決断を下す。