ヒラタオフィスとタカイアキフミが主宰をつとめるTAACがタッグを組んだ「ヒラタオフィス＋TAAC」の第2弾となる舞台『さえなければ』。本作は、ある住宅街の「遺体ホテル」を舞台に、高齢化社会が進み多死社会を迎えた日本の＜今＞を切り取った人間ドラマだ。
今回、初めて舞台に挑戦する遠藤健慎さんに本公演の魅力と意気込みを聞いた。
― 今回、舞台に挑戦しようと思ったきっかけをお聞かせいただけますか？
ずっと、“生（なま）”ということに興味がありました。例えばアーティストさんでいえば、ライブコンサートは“生”ですよね。やっぱり映像で観るより、フィルターがない“生”だからこそ感じられるものがあるはず。僕はそういう経験をしたことがないなと思って。俳優としての“生モノ”である舞台をやってみたいなと考えていたのですが、自分にできるだろうかと躊躇していたところ、ちょうどタカイさんからお声掛けいただいたんです。これはもうやるしかないなと覚悟を決めて飛び込みました。本当にタカイさんのおかげです。
― 舞台は演者さんだけでなく、観客の反応、会場の熱や雰囲気とか、そういうものが混ざりあって出来上がるもの。それゆえに毎回違うから楽しいですよね。
僕は、これまでにそれほど舞台を観る機会が少なくて、舞台がそういうものだということがよく分かっていませんでした。先輩俳優の舞台を観に行ったときに、確かに熱が凄いなと感じたことはありますし、先輩からも「舞台は毎日違う。今日はこの人についていってもいいかなと思うこともある」という話も聞いたりしたのですが、自分ではまだその経験がなくて、正直ピンと来ていないところもありました。
集中力もあまり持続できるタイプではないので不安もあったのですが、実際に稽古が始まってみると、「やるべきことをやるしかない」という思いに「楽しい」が入ってきちゃって。今は舞台のことしか考えられなくなっています。ちょっと恋心にも似たワクワク感みたいな(笑)。
― では、稽古現場の雰囲気はいい感じなんですね？
そうですね。タカイさんも舞台のイメージを完璧に作り込んでいるのではなくて、ちゃんと演者に寄り添ってくれるんです。それが凄く嬉しくて。いま、凄く“芝居”をやっているという感覚があります。
― 他の役者さんとの掛け合いも多いので、セリフ量も多くて大変ではないですか？
セリフを覚える行為は、苦手じゃないです。自分の中に落とし込んでしまえば、あとは対話なので、一語一句完璧でなくても成立しますし。もちろん、お芝居のためにセリフがあるので大事ですし、ないがしろにはしません。台本を読んでみて、ここまで綿密に作り込んでいるのか！と驚きました。僕が作品を選べるような立場ではありませんが、やっぱり作り手の作品に懸ける熱量を大事にしたいと思っています。出演を決める前にタカイさんと（永嶋）柊吾くんが知り合いだったということも大きかったですね。この2人がいれば大丈夫だという安心感もありました。
― その上で、この作品と向き合ったときにどう感じられましたか？
作品の第一印象は、重かったです。ただ、タカイさんは前作の『not only you butalso me』を観劇させていただいた時、とても強い意志をもって台本を書かれているんだなと感じたので、今回もお話をいただいた時点でネガティブな感情はありませんでした。“遺体ホテル”という存在もまだ世の中であまり認知されていないと思うので、いい形で皆さんに知らせることができればいいなと。作品として“遺体ホテル”という視点も面白いと思いましたし、ミステリー要素もあるのでエンタメ性もあると思います。
― いまは舞台上での役者同士の化学反応を楽しみにしている感じでしょうか？
立ち稽古を始めて難しいと思ったのは、冒頭で他愛のない会話をしているところでした。クスッと笑えるところもあるのですが、「お客さんが笑ってくれればいいな」と面白くするように会話のテンションを考えて演じるのは違うなと感じて。今回、僕に求められているのは湯口という人間を自分の中にインストールして芝居をすること。演じるのではなく、そこに存在する。つまり、その板(舞台)の上で湯口を生きなければいけないんだということにあらためて気づかされました。観客の方がそれをどう受け取ってくれるかはその後だなと。
― 映像作品とは勝手も違うと思いますが、楽しいですか？ 今後も舞台をやっていきたいですか？
凄く楽しすぎて。この経験は二度とできないと思って舞台に立ちます。今、次は考えられません。とにかくこの舞台に誠心誠意努めていくつもりです。
― 本作のタイトルにちなんで、遠藤さんの中で「さえなければ」と思うものは？
自分の中ではないかな･･･。「さえあれば」という言葉なら希望になると思うのですが。「なければ」という言葉は何かを切り取るようなイメージがあるので。ただ、1つ答えるなら「不治の病」ですね。
― では、「さえあれば」は何かありますか？
いっぱいあります。その希望を叶えるための１つとして“お金”です(笑)。1つのツールとしてではありますが。
― それでは、遠藤さんが考える本作の魅力は？
“死”を扱う行為として、全員がちゃんと同じ方向を向いている作品です。殺人などの死ではなく、人間として抗えない“死”への気持ちをリアルに描いていると思います。
― 最後に舞台を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
自分がどれぐらいできるのか、今はまだわかりませんが、“初めて”の経験は1度しかないので、それを目に焼きつけて見守っていただけるのであれば、僕にとって凄く勇気になります。大事に演じていきたいと思っていますので、楽しみにしていてください。よろしくお願いいたします。
【遠藤健慎（Kenshin Endo）】
2000年11月24日生まれ、静岡県清水町出身。
Aimer『Re:pray』のMVで10歳にも関わらず、ミステリアスな存在感を漂わせる。
映画『ホットロード』（監督：三木孝浩）をはじめ、「きりゅうアワード2017」にて、グランプリを受賞した『なぎさ』(監督：古川原壮司)では主演を務めた。
以降、映画映画『こん、こん』（横尾初喜監督）,『劇場版 美しい彼～eternal～』 （監督：酒井麻衣）,『恋い焦れ歌え』（監督：熊坂出）,,『冬薔薇』（監督：阪本順二）,『望み』（監督：堤幸彦）,『ミスミソウ』（監督：内藤瑛亮）他、
東海テレビ/CX『あたりのキッチン！』，NHK特集ドラマ『生理のおじさんとその娘』（ 第60回ギャラクシー賞奨励賞受賞作品）,WOWOW『アクターズ・ショート・フィルム3』野村萬斎組「虎の洞窟」 、Netflix『First Love 初恋』,日本テレビ『カラフラブル～ジェンダーレス男子に愛されています。～』,東海テレビ/CX『さくらの親子丼』,CX『明日の約束』などドラマや映画など多くの作品で活躍。
【公式Instagram】https://www.instagram.com/kenshinendo_official/
【公式サイト】https://www.hirata-office.jp/talent_profile/men/kenshin_endo.html
撮影：松林満美
舞台『さえなければ』
＜あらすじ＞
ある住宅街で、⾃治体による遺体ホテルの運営が始まった。現在もなお、職員と施設に反対する近隣住⺠の間で、侃侃諤諤の論争が繰り広げられている。そんなある⽇、1 体の遺体の⾏⽅がわからなくなって――。
※遺体ホテルとは･･･⽕葬や葬儀までの間、故⼈を安置するための場所。近年、多死社会・⽕葬場不⾜などによりその需要が⾼まっている。
【作・演出】タカイアキフミ
【出演】遠藤健慎、福崎那由他、伊藤歌歩、古澤メイ、⾼畑裕太、永嶋柊吾
【⽇程】2025 年3 ⽉5 ⽇（⽔）〜3 ⽉12 ⽇（⽔）
【会場】サンモールスタジオ（〒160-0022 東京都新宿区新宿1-19-10 サンモール第3 マンションB1）
HP ：https://www.taac.co/sae
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