昨年1月に上演し好評を得た『シャーロック ホームズ~アンダーソン家の秘密~』に続くシリーズ第2作『シャーロック ホームズ2 〜ブラッディ・ゲーム~』が、4月26日から東京芸術劇場で絶賛上演中だ。
今回、橋本さとし演じるホームズ&一路真輝のワトソンが挑む事件は「切り裂きジャック」。
その事件の鍵をにぎる秋元才加演じる盲目の聖女、マリアをひたすら愛し、守ろうとするエドガーを熱演しているのが、俳優・良知真次。
『ロミオ&ジュリエット』『ALTAR BOYZ』『ウィズ~オズの魔法使い~』など、ミュージカルを中心に活躍し、今年は音楽劇『ライムライト』ミュージカル『ダンス オブ ヴァンパイア』と出演作が目白押し。
今、最も目が離せない俳優のひとりだ。
4月28日、マチネ公演を終えたばかりの彼にインタビューすることができた。
(核心的な結末には触れていませんが、多少のネタバレを含んでおりますこと、ご了承下さい)
物語は、1880年代の英国、教会で祈りをささげる清楚なマリア(秋元才加)の姿から始まる。
マリアの祈りで起きた神の奇跡を目にした直後、姿を現すのが良知真次演じるエドガーだ。深い悲しみと狂気を併せ持った目線の先に、マリアを見据え、静かににじり寄って行く。
―始まって間もなくエドガーが登場し、観客をひき込み、謎を与える大切な場面ですね。
はい、あそこから始まり、その後は報われない人生を歩んでいきます(笑)。
―大きな感情の振れ幅を見せますね。
しかもエドガーが表現できる場面は、意外に少ない。
―そう聞くまで、出番がそう多くないことに気が付きませんでした。それだけ濃いというか、存在が大きいですね。
そうなのです。そこが難しいと稽古をしながらも感じていました。
―どのように自分の気持ちを持って行くのでしょうか?
この冒頭の「始まったぞ」という感じの強い場面を任されているので、そのモチベーションは今回の作品のキーになっているのではないかと思っています。愛するマリアだけれど、初めに出てきたときは「愛しているから殺そう」よりも「殺したい」という強い気持ちを発しています。でも歌い出すと「何故そんなに淋しい感じになってしまうの…」というあたりを表現できれば、この作品のミステリアスな感じがお伝えできるのではないかと思っています。
―短い場面ですが、良知さんの表情がこんなにも変わっていくものかと驚かされました。
かなり意識して演じた場面ですね。
―良知さんは劇場に入って、ウォーミングアップをしながら気持ちを作っていくのでしょうか?
徐々に気持ちを作っていくことが多いです。ただ作品によっては、気持ちを上げずにいった方がいい場合もあります。始まりは元気がなくて、最後に元気になる方がいい作品では、アップをしないで始めたりもします。冒頭から感情が盛り上がっている役の場合は、ウォーミングアップして、全てをぶつけていけるように作りますね。
―今回は?
冒頭はクールで怖いイメージがいいのではないかと思っています。「さっきまでいたのに、ふと見るといない…」という感じになるにはどうしたらいいのだろうかと考えながらやっています。
謎めいたマリアとエドガーと対照的なのは、ホームズ(橋本さとし)&ワトソン(一路真輝)のコンビ。
序盤でテンポよく事件を解きほぐしていくやり取りは、シーズン1同様に小気味いい。
ホームズが切り裂きジャックを追い詰めていく物語の主軸部分では、観客は自分も謎解きをしている気持ちになり、台詞の1つ1つに集中してしまうはず。
そして、登場人物の謎が1つ明かされる度に、その意外な真実の姿に驚かされる。
一方、ミュージカルならではのお楽しみ、アンサンブルと一緒につくりあげるショウアップされたシーンは、豪華レビューのように華やかで楽しい。
また、コング桑田演じるレストレード警部が登場すると、その醸し出す雰囲気にほっとして、陰惨な事件を暫し忘れてしまう。
やがて事件解決のため敏腕刑事・クライブ(別所哲也)が登場すると、事件解決を競う2人の間に新たな緊張感が生まれる。橋本さとしと別所哲也、両雄がステージに並び立つさまは圧巻! 歌もアクションも絡み合う視線も、まさに1対1の真剣勝負だ!
一方、エドガーは、マリアを守るため、苦しみながらも懸命に使命をはたそうとする。
―良知さんの演じるエドガーの見どころは、どこでしょうか?
舞台の上では時間が行きつ戻りつしますが、純粋な子供が、無残にも哀しい方向へ行くしかなくて堕ちていく。やがて「愛するひとを守りたい」という想いで目覚めて、成長していく物語でもあります。その変わっていくエドガーの姿を見て頂けたらと思います。
また別所哲也さんの役も、エドガーとは違った成長の物語だといえると思います。
ホームズが頭脳をフルに働かせ、謎を次々に解いていく場面は、この物語の大きな見どころ聴きどころ。観客が、橋本さとしの歌と演技の大きさに包まれて揺られるうちに、事件は新たな展開を見せる。
「切り裂きジャック」という陰惨な犯罪がテーマだが、見終わった時に心に残るのは、ホームズが事件を解決してくれた爽快感と生き続けることへの希望。人の心の切なさの余韻が、悪役すら憎めない気分にさせられた。
―エドガーとしての最後は?
「死」を美しく描くことも韓国のテイストなのかな…と思います。ラストについては、日本でも「蜘蛛の糸」という小説ではただ一度の善行で救いの蜘蛛の糸が垂らされますよね。それと同じように、「マリアを守りたい」という気持ちがあったから、エドガーにも蜘蛛の糸が垂らされたのかな…と思うと、それもまた、韓国らしい情のあるラストなのだろうと思います。
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―韓国ミュージカルの『ブラック メリーポピンズ』と本作に出演されて、そして『スリル・ミー』は韓国での人気作品ということで、良知さんは韓国ミュージカルに比較的縁があるのかな…と思いますが、韓国ミュージカルをご覧になったりしますか?
韓国に行ってミュージカルを見たこともあります。(日本と)違うような、違わないような…。ドラマやK-POPも日本人がはまって好きになるような親近感を抱けるところがありますね。ただ韓国の方の方が、感情の振れ幅が大きく、そこがはまる理由のような気もします。
本作もイギリスの話ですが、それを韓国のオリジナルミュージカルにしてしまった。面白い発想ですよね。音楽もブロードウェイやウィーンでは聞かないような楽曲ですし、新たなジャンルだと感じていますね。
―やっておられて「韓国ミュージカルは、ちょっと違うぞ」と感じますか?
メロディの運び方が違いますね。気持ちを出すという点では歌いやすいメロディです。発音は違っても、英語と中国語の文法が同じで、日本語と韓国語の文法が同じだと言いますよね。だから気持ちをのせて歌う時には同じところで気持ちをのせることができるのかなと思いますね。
―さて良知さんはデビューされて17周年と伺いました!おめでとうございます!!
ありがとございます。気が付くと17年…という感じです。とても悩んだ時期もありましたが、今もこうして仕事をさせて頂いているというのが、ものすごく幸せです。今日もステージに立てて、自分が通ってきた道が間違いではなかったと改めて思います。
―振り返られて転機や記憶に残る作品など、ありますか?
転機は…僕には多かったかもしれません。ジャニーズに入ったことも、その後、劇団四季に入ったことも、今もそうですね。その時々に求められることも違っていて、最初の頃は踊りが求められていましたが、今回もですが、最近は踊りが求められないことも多くなりました。
「スリル・ミー」では歌と芝居だけが求められ、しかも伴奏はピアノだけでした。30代になって、踊りでないところを求められる舞台や映画・ドラマのお仕事を頂くようになり、それも嬉しいです。ただいざ、自分のライブで急に踊るとなった時、やはり普段から準備していなければ踊れないので、歌や芝居をやりながらも、常に踊りの訓練もしておかねばならないと思うようになりました。
芝居、歌、踊り、それぞれが大切だと気付くと同時に、意外なことですが、芝居も歌も踊りも、すべてがつながっているのだと感じるようになりました。
たとえば芝居で「もっとこういう感じで」と言われて自分なりに考えてやってみたことが、なんとその後のダンスでも活かせたり、「芝居的にこうなら、歌もこう歌ってみよう」と考えるようになったり。
それに気づいたことで「だからミュージカルというものがあるんだ」と改めてミュージカルの面白さを感じています。
役者としてあたり前に演技をして、踊りという引きだし、歌という引きだしを開け、感動させることができる唯一のものがミュージカルだと思います。しかもロイド・ウェーバーの作るようなクラシックなスタイルのミュージカルもあれば、ロックミュージカルもある。まさか30代になって『幕末Rock』という2.5次元ミュージカルに主演させて頂けるとは思いませんでしたが、『幕末Rock』を見た方がこの『シャーロック ホームズ2』を観て「えっ?!同じ人なの?」と思って頂ければ、すごく嬉しいです。
これまでも小池修一郎さんの『ロミオ&ジュリエット』、栗山民也さんの『スリル・ミー』、宮本亜門さんの『ウィズ~オズの魔法使い』、『ブラック メリーポピンズ』や『宝塚BOYS』では鈴木裕美さんにと、いろいろなジャンルで活躍されている先生方のもとでやらせて頂いて、その都度、勉強になることが違っていました。
1つ1つの仕事を頑張って、それが結果として自分の転機になるといいなぁと思っています。今回も『シャーロック ホームズ2』で学んだことが、次の『ライムライト』『ダンス オブ ヴァンパイア』につながっていくと思いますので、日々、頑張っていきたいと思っています。
良知真次
1983年3月16日生まれ A型
超歌劇『幕末Rock』、『ALTAR BOYZ』、『ブラック メリーポピンズ』、『スリル・ミー』、『ロミオ&ジュリエット』など数多くのミュージカルで活躍。7月には音楽劇『ライムライト』、11月には『ダンス オブ ヴァンパイア』に出演予定。
5人組の【AUTRIBE(オートライブ)】として音楽活動も活発に行っている。
ミュージカル『シャーロック ホームズ2 〜ブラッディ•ゲーム〜』
【演出】板垣恭一 【訳詞】森雪之丞
【上演台本】斎藤栄作 【音楽監督】佐藤史朗
【脚本】キム・ウンジョン 【作詞】ノ・ウソン 【音楽】チェ・ジョンユン
【出演】橋本さとし 一路真輝
秋元才加 小西遼生(Wキャスト) 良知真次(Wキャスト)
竹下宏太郎 まりゑ 春風ひとみ コング桑田
別所哲也
【東京公演】2015年4月26日(日)〜5月10日(日) 東京芸術劇場 プレイハウス
企画・製作:キューブ・東宝芸能
【福岡公演】2015年5月16日(土)、17日(日) キャナルシティ劇場
主催:キャナルシティ劇場、キューブ、東宝芸能
【兵庫公演】2015年5月21日(木)〜24日(日)
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
主催 関西テレビ放送/キューブ/兵庫県/兵庫県立芸術文化センター
協力 リコモーション
【オフィシャルサイト】http://www.s-holmes.com