アメリカ演劇界で最高の栄誉とされるアワード、トニー賞。その授受賞式が6月13日(月)午前8:00からWOWOWで独占生中継される。
一昨年、昨年に続き、今年もそのスペシャル・サポーターを日本ミュージカル界の雄、井上芳雄がつとめる。
「念願叶って、今年はニューヨークに行って予習してきます!」と笑顔を見せた井上に、トニー賞にまつわる話を聞いた。
―生放送への出演は慣れましたか?
1回目よりは2回目の方が慣れました。トニー賞授賞式は大きなショーなので、時間が長く、後半はあえてお茶の間で見ている気分でいます。それも含めて、楽しみ方という意味では最初よりは楽しめるようになりました。1曲目を歌わせて頂くので、そのパフォーマンスのこともあって朝が早いのです。そしていつもだいたい、その時期は舞台の稽古中なので、生放送後に稽古に行くというハードなことになります。今年もかな?そうですね(笑)。それもひっくるめて、僕のトニー賞の日ですね。
―「日本のミュージカルは好きだけれど、ブロードウェイまではよく知らない」という方も多いと思います。そんな方へ楽しみ方のポイントを教えて下さい。
ミュージカルは、やはりブロードウェイが本場です。とにかくレベルの高い、世界最高峰の舞台俳優たちが年に1回集まりパフォーマンスをするのがトニー賞です。ブロードウェイの舞台に出るのは、アメリカの俳優さんにとっては最高の名誉だと聞いているので、みんなのテンションやエネルギーのかけ方がすごいです。そして基本的にはその年の新作しかやらないので、向こうの本場のミュージカル事情を知って頂くには、トニー賞のパフォーマンスを見て頂くのが一番いいと思います。ヒュー・ジャックマンがミュージカルに出ていたり、去年は渡辺謙さんが出ていましたね。日本でも知られている俳優がトニー賞授賞式にも出たりするので、かならずしも知らないことばかりではありません。有名な映画がミュージカル化されていることもたくさんあるので、知っているところを探すのも楽しいと思います。そしてパフォーマンスを見て頂ければ、レベルの高さを分かってもらえるのではないかと思います。
―これまでの生放送で驚いたことやハプニングなど、ありましたか?
今回はスペシャル・サポーター3回目にして初めてニューヨークに観に行きますので、生きた情報がお伝えできると思います。毎回ゲストの方がいらっしゃるのですが、昨年は黒柳徹子さんがおいでになりました。黒柳さんはユル・ブリンナーや向こうのミュージカル俳優の方などいろいろな方とお知り合いで、ミュージカルにとても造詣が深い。黒柳さんの台本には作品についての手書きの書き込みがすごくたくさんされていました。「生放送でコメントする姿勢とはこういうことなんだ」と勉強になりました。これだけの大ベテランの方が、前日まで大阪公演をなさっていたのに、しっかり準備されている。1つ1つにかけるエネルギーが、とても印象的でした。
―黒柳さんは詳細なコメントをおっしゃっていましたよね。
たぶん、もっともっとお話されたいことはあったと思いますが、ポイントポイントにコメントをはさんで下さって、素晴らしかったですね。
―今年の注目作は?(ノミネート発表前にお話を伺いました)
今年は『ハミルトン』に尽きると思います。
―本命だと言われていますね。
もういろんな賞も獲っているし、話題にもなっている。チケットも取れないと聞いています。何がそんなにすごいのか、断片的なパフォーマンスを見る機会はあっても、それだけではよくわからないのですが、幸いにも観に行くので、僕の観た感想をお伝えできればと思っています。
歴史上の人物で、普通にやったら勉強ミュージカルみたいになりそうなところですよね。作ったのは、新しい描き方で『イン・ザ・ハイツ』を作った方(リン・マニュエル・ミランダ)ですよね。『イン・ザ・ハイツ』も「こんな音楽でミュージカルを作れるんだ」とすごく話題になり、観てびっくりしました。その人がまた新しい作品を作って、自分でも演じて、これだけ成功している。何がそんなにすごいのか、とても興味があります。
―ヒップホップミュージカルと言われ、グラミー賞でもパフォーマンスしましたね。
やりましたね、ピューリツァー賞もとっています。よく「もう新しいスタイルのミュージカルは出てこない。頭打ちだ」と言われます。確かに毎年毎年新しいものは出てこないです。ロンドン勢が強い時もありましたし、10年に1本くらい『コーラスライン』『RED』『ヘアー』のように出るけれど、基本的にそんなには変わらないですよね。でも今年は『ハミルトン』が新しい大きな流れを作ることになるのか…。誰もが作れるやり方ではないと思うので、すごく興味深いです。アメリカは人材、才能がどんどん出て来る。層が厚くてすごいなぁと思います。『イン・ザ・ハイツ』も移民の話でしたね。日本人には実感がわきにくいですが、人種問題なども関係しているんでしょうね。黒人のスタッフが作った『シャッフル・アロング』もそうだと思います。ブロードウィイは白人の観客が圧倒的に多いのですが、いろいろと変わってきているのかな…と、感じますね。
―他にも注目作品は?
『アメリカン・サイコ』は見てみたいです。音楽と演出に興味があります。
―(『スタートレック』シリーズのヒカル・スールー役で知られる)ジョージ・タケイさんの『Allegiance 忠誠』は如何ですか?
(『ミス・サイゴン』でトニー賞を受賞。映画『アラジン』『ムーラン』で歌声を担当した)レア・サロンガも出演していましたね。タケイさんがご自分で書いて、出演もされている。太平洋戦争中の日系アメリカ人のお話で、僕たちもよくは知らないお話ですね。
それをエンターテイメントとしてブロードウェイまで持っていくのは大変なことだし、とても意義のあることだと思います。
―他に時間があればに行きたい作品は?
逆に王道の『SHE LOVES ME』とかも観てみたいですね。日本でもよく上演される作品ですが、どんな形でやられているのか。新しいものだけじゃなくて、古き良きものをどうやってやるのか、興味があります。去年は『パリのアメリカ人』もやっていましたし、新しいものばかりでなく、リバイバルにも注目です。
―井上さんが「トニー賞を見ながら、自分がコンサートで歌ってみたい歌や自分の年齢や役柄にあうもの探す」と記事を拝見したことがあるのですが、この2~3年で気になる作品はありましたか?
役ということでは、『Finding Neverland』がいいんじゃないかと。音楽だけしか聞いてないんですけど、すごく見応えのある作品のようです。主演俳優のマシュー・モリソンは「glee/グリー」に出ていた方。同年代というのもあって、あれがいいなぁと思います。
『A Gentleman’s Guide to Love & Murder』は、「何役もやるのは、日本だと市村さんとかがぴったりだと思うんですよね」と言ったら、その後に市村さんから「オレの名前を出してくれてありがとう」とメールを頂きました(笑)。
僕だけじゃなくて、ミュージカル俳優は皆「この役はやりたいなぁあ」と思って見ていますよ。今年上演される『キンキー・ブーツ』も何人もの俳優が「あっ、オレじゃなかったか…」と思ったはず。「あ~、三浦春馬くんかぁ~」って(笑)。「やっぱり、若くてきれいだもんな」って。
―ミュージカル俳優としてご覧になる時には、どこにポイントをおいてご覧になりますか?
いいソロがあるか…ですね。ソロがすべてではないんですが、ソロは個人の力量が結構表れると思うので、生かすも殺すもその人次第…というところはあります。メロディもシュチュエーションも変えられないから、ここでこの1曲をこのメロディで歌うというところが重要だと思えますね。
―もしニューヨークで時間があったら何をしたいですか?
仕事で行くので、今回はあまり時間がありませんが、もし時間があれば向こうに住んでいる友達に会いたいと思います。以前はプライベートでよく行っていたので、セントラルパークで芝生の上で座って何時間もしゃべるだけでもニューヨーカーの気分になれるんです。
―いずれ拠点をあちらに移すとかは?
それだけの仕事があれば移してみたいですけど(笑)。
―目標としてはいかがでしょうか?
出てみたいとは思います。完全に向こうに行ってしまうというイメージはありませんが、いい作品があれば、次は向こうで、次は日本で…みたいな。それこそ渡辺謙さんみたいに活動できれば。もちろん理想ですけれど。
―この1年位、WOWOWでは『連続ドラマW 海に降る』『トライベッカ』、民放では関ジャニの番組にご出演とお仕事の幅が広がっていると思います。その中で気付いたことや心境の変化はありますか?
一貫して舞台をやること自体は、自分のやりたいこと、追求したいことなので、パフォーマンスすることは変わりません。それ以外は、まず知ってもらうために…。歌ったり踊ったりすればそこは表現がありますが、特に映像に関しては、StarSでも1人でも、とにかく興味をもってもらうということが大事。『トライベッカ』にしても「今まで誰もやってないことをやりたい」というところから始まっています。バラエティに出た時も、ホントはそこまでそんなにしゃべる必要もないし、怒られるんじゃないかと思いながら、いつもやっています。ただ、せっかく出たなら爪痕を残して帰りたい。次につながるように「ミュージカル俳優もおもしろいね」と思ってもらうために、まず知ってもらうために、今は頑張り時かなと。最近は「ミュージカル俳優、あるある」を聞かれることも多いです。「Wキャストの心の闇は?」とか聞かれます。とにかく、興味を持ってもらえたらと思います。今年の僕の舞台は『エリザベート』が長いですが、ミュージカルはそれだけなので、自分の感覚とメディアに出た時の違いが面白いというと変ですが、いろいろなことができるのは有難いと思います。
―井上さんはブロードウェイミュージカルもウィーンミュージカルにも出演されていますが、出演されてみて違いはあるのでしょうか?
やり始めて思ったのですが、ヨーロッパとアメリカはまったく違うんです。日本人から見ると、言葉もそこにいる人々も似ているように思いますが、実は全然違います。さらにロンドンとウィーンもまったく違う。日本人にはなかなか分かりにくいですが、それぞれにプライドがある。特にフランスではブロードウェイミュージカルはあまりやらないと聞いたことがあります。だからこそ、フレンチミュージカルを作ってしまう。ウィーンもそうかもしれません。
上演されている作品にもそれぞれ特色があり、同じ作品をやってもブロードウェイとウェストエンドでは演出が違います。やはりブロードウェイの方がショウアップされます。日本と韓国でも、韓国の方がより派手にしたり、力強かったり、日本は繊細に丁寧に伝えようとする。当り前だけど、国や文化によって同じ作品でも違いがあります。例えば『エリザベート』に関しても、日本はウィーンとは違う日本独自の演出があってお客様に喜んで頂いています。ただ独自だからといって自分たちの得意な方へ、やりやすい方へだけもっていくことがないようにと、その点は自分に戒めています。
年に1回トニー賞のパフォーマンスを見て「本場はこんなにすごいんだ」「こんなに攻めているんだ」と刺激を受けて「ハミルトンという人物は日本なら誰だろう?新渡戸稲造?(笑)」「例えばそういう(日本の)人のミュージカルを最近の音楽でやったら…」などと考える機会になったら…と思います。
「生中継!第 70 回トニー賞授賞式」
WOWOW プライム
6月13日(月)午前8:00[同時通訳]
6月18日(土)夜7:00[字幕版]
案内役:宮本亜門 八嶋智人
スペシャル・サポーター:井上芳雄
<関連番組>
●福田雄一×StarS(井上芳雄・浦井健治・山崎育三郎)「トライベッカ」(全6回)
5月27日(金)深夜0:00(毎月第4金曜深夜0:00)[WOWOWプライム]
●演劇・ミュージカルの祭典!トニー賞直前SP
6月4日(土)午後4:10 WOWOWプライムほか[無]
<関連特集>
●トニー賞放送記念 ミュージカル映画特集 全13作品
6月1日(水)午前10:00からWOWOWシネマ
『オクラホマ!』『王様と私』『南太平洋』『イントゥ・ザ・ウッズ』『アラジン』『踊るアイラブユー♪』『美女と野獣』『ANNIE/アニー』『キャバレー』『ジャージー・ボーイズ』『サウンド・オブ・ミュージック』『ラスト5イヤーズ』『オペラ座の怪人』
● 映画に出会う![トニー賞放送記念 フレッド・アステア×ジンジャー・ロジャース] 6月1日(水)よる7:00からWOWOWシネマ
『トップ・ハット』『コンチネンタル』『踊らん哉』
詳しくは番組HP http://www.wowow.co.jp/stage/tony/